第百十話 デューク星に到着

あれから、クレズに響が苦言を呈した後。

翼も直り、順調に航行。



当初の目的地であるデュークについたと思った矢先、ご当地ではプレクスは絶大な歓待を受けた。全員が鳩が豆鉄砲を喰らったような顔になっていると、機械化兵に乗り込んだ軍人の一人が教えてくれたのだ。



デメテル王家の血筋は、もうフェティしかいないのだと。

それを知った瞬間、フェティが泣き崩れた為歓待は中止。


セリグが、必死に宥めて今に至る。



「つまり、フェティちゃんは連れ戻されたら女王になる事が確定しちゃったって事ッスよね。自分の知らない所で、そんなクソどうでもいい権力争いに巻き込まれて……」


「だが、俺達のクルーであるうちはほっとけねぇぞ。後でセリグさんひっぱたいてでも、フェティちゃんに旨いもん用意しろって背中に蹴りいれにゃ」


「艦長、それは命令しなくても絶対やるから問題ないッス」


それより、見張りがつきまくってて窮屈だったらありゃしないと二人が嘆く。

フランも、買い出しにいこうとしたら五、六人ついて来たらしいからな。


まぁ、フランの場合は本当に警戒してるんだったら百倍はいないと止められないけどな。


「百倍いても、無理だと思うッス。星から飛び出てくる巨大なプロミネンスを、片手で斬っちゃうようなお化けっスよあの人」



だなぁ……と二人で溜息をつく。



「それより、シャリーはどうしたよ?」


「お兄さん達、おはよう~」丁度そこにシャリーが部屋に入って来た。


「おう、おはよう」「丁度、シャリーちゃんの話が出たとこだったッス」


二人の横にシャリーが座ると、モブが中央にあったお茶請けの皿をシャリーの方へおした。



「窮屈させちまってすまねぇな」「ううん、いいの」そういうと、シャリーは自分で持ってきたお茶を飲みながら話す。


「フェティちゃん、これからどうするのかな……」

「うちとしちゃ、本人の意思を尊重したいけどな」


「それは、フェティちゃんがここに居たいって言ったら。降ろさないって事?」

「あのなぁ、艦族ってなぁ自由なんだ。この艦一つが国であり、相棒であり、住み家でもあって、棺桶でもある。本人の意思でとか、ルール破ったとか理由も無いのにクルー降ろすなんてあっちゃならねんだよ」


モブはそういうと、お茶請けを一つつまんだ。


「俺たちゃ弱小だし、貧乏でもあるがよ。だからと言って、艦族をやってる以上、そこは曲げちゃならねぇだろうよ」


「私は、クルーじゃないから空に投げ捨てられちゃったのかな」


「うちではクルーだ」それだけいうとモブがまたお茶請けを一つ手に取る。

「そっか」シャリーが小さく俯いた。



「艦長、お茶請け取ってくるッスよ」「おう、頼むわ」



気がつけば、モブの手がお茶請けの皿の上で彷徨っていて。響がみたら、見事に無くなっていたので苦笑しながら。追加をしに、部屋を出て行った。



「シャリーはどら焼きは嫌いか?」「ううん、そんなことないよ?」

「俺は粒あんが好きだが、おめーの義母さんは白あん派。ちなみに、響はこしあん派だな。以前と違って、悪くなる心配はしなくて良くなったから。好き嫌いあるなら言っとけよ」「私はほら、好き嫌いなんて言えなかったし。食べられるだけで、幸せだし」


「うちじゃ、健康を守る為の好き嫌いはこっちの責任だから食ってもらわにゃならないけど。おやつの好き嫌いまで認めねぇとかそこまで狭量じゃねぇからさ」


そういって、ニカっと笑うモブ。「艦長、持ってきたッスよ」


そこへ、響が戻って来た。「おう、サンキュ。こうして、どっちかがお茶請け運ぶのも、懐かしいよな」「あの頃はそもそも、お茶請け自体が飯だった事もあったッスからね」


「そういやそうだわ」「だから、シャリーちゃんも好きなおやつ食うといいっスよ。こうした事も、クレズさんは自分にやらせて欲しいっていうんスけどね、運ぶこと一つとっても不便だった初心を忘れない為には必要な事なんスよ」


バカっすからね、俺らと響が言えば、そうだなと答えるモブ。

シャリーもそれを見て笑って、そしてこう言った。


「私は、甘いものが食べられるだけで幸せ」


その言葉に、モブと響が顔を見合わせて鳩が豆鉄砲を喰らったような顔になった。


「そうかい……、シャリー好き嫌いがねぇなら俺の分の粒あんやるよ」

「それとも、俺のこしあんのやつのがいいっスか?」


二人がそう尋ねると、フランが若干膨れながら。「おいおい、シャリー。白あん食うよな?」と部屋に入って来た。


「お帰り」「お帰りっス」「お義母さん、おかえりなさい」


「ただいま」


シャリーの正面に、フランが座って頬杖をついた。


「出来れば、半分づつ欲しいかな。全部好きだけど、丸々じゃちょっと多くて……」


無言で大人三人が顔を合わせると、それぞれ新品を半分に割ってシャリーの目の前の皿にどら焼きを無言で置いた。


「ありがとう♪」シャリーが三人にお礼を言うと、三人も無言でお互いをみて頷いてから笑った。



こうして、しばしの幸せの時間は過ぎ去り。

シャリーが、穏やかな日々を送る一方で。


大人達の都合に振り回されるフェティの、苦悩の日々が始まろうとしていた。

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