第百十一話 紫月(しづき)
デューク星では、フェティがデメテル王家王位継承権一位になってしまった話で上へ下への大騒ぎだったが。フェティ達の日常に、余り変化はなかった。
というのも、護衛兼料理長兼保護者の肩書を得ているセリグが「プレクス艦内より安全な場所等この世に存在しません」と太鼓判を押したためで。
補給に関しても、クレズの協力がある為予算の限り詰め込む事が出来ていた。
特に、翼の修理で使ったジャンク品に関してはゴミも含めて相当量をゴミ捨て場から拾ってきたり、又は購入したりしていた。
有力地方領主(といっても領地が星幾つとかだが)ローレンス卿は、フェティ様はお疲れで歓待等は一切不要だから補給に協力して欲しいと言われれば流石に無下にも出来ず。
プレクスに対して、全面的に協力するように申し付け。
今、机に向かって突っ伏していた。
「セリグ殿から水に関しては一切の心配は不要と言われ、食料の補給もセリグ殿が専属料理人を兼ねているのだからまだ判る」
(何故……、何故ゴミの発注が一番多いのだ)
勿論、金属やゴムが修理に必要だという事は判る。もはや、デメテル女王になる事がほぼ確定している方をお守りする艦なのだから修理用の資材などあって当たり前だが…………。
(それなら、インゴット等で用意しろと言われた方がまだ説明がつく)
どうせ、宇宙に捨てる予定だったゴミ捨て場のゴミを軒並み持って行っていいかと聞かれた時は「新品で無くていいのか?」と逆に聞き返してしまった。
せめてもの抵抗に、良く洗浄し消毒した後詰め込めるだけ持って行って良いと指示をした結果本当に洗浄消毒後識別しては回収していったらしく。
(どれだけ、巨大な容量の遺産を積んでいれば一つの集積場にあったゴミが五分の一程度にまで無くなるというのだ)
「ローレンス卿、数々のご協力感謝致します」
(この机の前で、頭を下げているセリグの言葉)
「フェティ様の事、よろしく頼むぞ。我ら貴族一同は、神威の様な俗物がデメテルの中央に居る事を望まぬ。かねてより封殺されていたお前の預金については、私の権限でこのデメテル宙域の星々からならおろせるようにしてある。私からの要求はただ一つ、何があろうとお前がどうなろうとフェティ様をお守りしろ」
その為の協力は惜しまないと、突っ伏して顔だけあげているローレンスが真剣な眼差しで言った。
その言葉に、セリグは言葉をかみ殺した様に笑うだけだ。
「プレクスとはそれ程の艦か……」「えぇ、仮にこのデュークに配属されている強化兵のサジタリウスを全て用いても逃げ切って、生き残るだけならやってのけるでしょう」
「全軍で二十五万機、一つが高さ五十七メートルの重量五百五十トンあるタリウスや流動装甲ありの強襲艦ミロッドがある全軍でも捉えられんだと!?」
ムリでしょうなぁとセリグは笑うが、ローレンスには到底信じられない。
「あれにつんである、遺産というのはそれ程のものか」
「マスター権限のあるものの命令しか一切きかないが、凶悪な遺産です。私が軍の司令官なら争わないですね、どんな手を使ってもです」
(あのセリグに、そこまで言わせる程のものが……)
「判った、情報感謝しよう。私は、フェティ様の味方だ。それだけは、忘れないでいただきたい」「かしこまりました、必ずお伝え致します」
一礼して、去っていくセリグ。ローレンスは、ずっと考え込んでいた。
そして考えすぎたからか、突っ伏して顔を机と額をくっつけていた訳だ。
敵でないと言うのなら問題あるまい、神威の小僧が動かせる軍ではそれなら絶対に捕まる事もないだろう。
我々にとって、フェティ様は希望なのだ。その高貴なる血筋を絶えさせてなるものか。
しかし、そうも言われると知りたくもなるのが人情というもの。
プレクスという艦に積載された、遺産がどの様なものか。
虎の子のタリウスをコントロールしているのも、ヴァレリアス博士の遺産だ。
本体は拳大程の大きさしかないもので、全軍を向かわせられないのは遺産の圏外になってしまうから。もし、この遺産の圏内にデメテルがあるなら今すぐ制圧に向えるものを……。
そうか、セリグはだから「マスターにしか従わない」と明言したのか。
逆に言えば、遺産でそれだけのセキュリティをかけられてるとも言えるのだ。
手元にある、タリウスのコントローラーは予め権限を割り振れば。ある程度、誰でも言う事を聞かせられる。こちらの遺産は動かせないが、プレクスの遺産は自由に動かせる。
そして何より、逃げる事と生き残る事はやってのけると言う事は。
(武装系ではない、シールドか演算系統……もしくは虚数空間への直接干渉系)
もし、それ程の遺産が武装系であったなら間違いなくデメテルを奪還可能。あの、セリグがそんな初歩的な事を見落とすはずもない。
「協力関係にあるのだろう、であれば私のやる事は一つだ」
ローレンスが手を二回叩くと、キーパーが顔を出した。
「重ねて申し伝える、プレクス一行に最大限配慮せよ。内容にもよるが、私の用事よりも優先して構わない」「承知いたしました」
(我々が、デメテル本星を奪還するまでフェティ様を頼むぞ)
「女神の加護があらん事を」
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