第百十二話 ヒドルストン
「警報! 敵艦ヒドルストンです!!」
「犯罪ギルドめ、かぎつけたか!」オペレーターの声に、ローレンスが叫び声をあげる。
「戦闘配備っ!」「タリウスが発進するまでは、レッドディフレクトで持ちこたえる!」
一番グループだけで二千を数え、それが六番グループまで総数一万二千の砲台が火を噴いた。高出力のエネルギーが螺旋を描き、ヒドルストンめがけて飛んでいく。
「効果、認められません!」「くっ、流石ナイトメア型の遺産だな」
今頃、どれだけの人間をミイラにして排出しているかは考えたくもない。
だが、たった一艦でも遺産は強い。現代の浮遊砲台では一万以上撃っても効果は得られない。遺産には遺産しかない。
「ブルーラインまで入られるな、間断なく撃ち続けろ!」
「了解です」「現代の意地を見せてやるっ!」「フェティ様達には準備ができ次第タリウスに紛れて出港をお願いしろ!」
それだけいうと、血走った眼で管制塔からヒドルストンを睨みつけた。
ナイトメア型ヒドルストンは、全長約二百五十メートル。巨大なノミが巨大な人間の脳みそを抱くようなデザインをしている。そして、人間の脳みそからは触手が無数に伸びていた。
(なんと、邪悪で禍々しい。もし、抜かれれば国民も仲間もあれの燃料になってしまう)
「やらせはせんぞっ!」次々、浮遊砲台のレッドディフレクトが壊されるのを見つめながらタリウスのスタンバイを急がせた。
現在、防衛ラインの向こうだが。二千以上のこちらの砲台を八本の触手のようなものから撃つレーザーの様なもので焼き切られている。
たった八門の砲台一回の射撃で、浮遊砲台が二千以上崩されているのを見ると思わず手が白くなるほどローレンスは拳を握りしめる。
「タリウス、三千機出られます!」「直ぐに展開しろ!!」
「敵ヒドルストンに、巨大エネルギー反応!」「先頭のタリウス千機は全力防御!!」
タリウスが左手に展開したシールドがハチの巣の様に密集し、デューク星に迫る攻撃を全て防いだ。確実に、タリウスの出撃タイミングに主砲をぶつけて来たという訳か。
あと、三艦も余計にきていたら持ちこたえられないかもしれない。
だが、遺産というのはそんなにボンボンと存在していないから艦族の様な存在が許されているのだ。
大体、宇宙空間にあのようなものが存在している事自体が非常識極まる。
ポタリと、ローレンス自身の汗が手に落ちて。その一滴が床に零れる様まで、オペレーターの一人一人がローレンスからの指示を今かと待っていた。
厄介極まる、だがフェティ様はお前らには絶対に渡さんぞ。
「敵影はあれだけか?」「今の所デューク星周辺に敵影確認できません」
「なめられたものだな」「やはり、艦型や武装系の遺産はやっかいですね」
「何故あのようなモノが、国ではなくギルドの手にあるのか。いや、遺産は発見したものが使ったり売ったりするもの。犯罪者であろうと、売るものがいて買えさえすれば手に入る……か」
完動品自体が稀、どちらにしろ整備とメンテをしても分析不可能なものが多すぎる。
こちらの、タリウス群も敵からすればやっかいだろうが。
だが、タリウスの特性は有名だ。母星から一定距離までしか、出られないのだから。
識別出来てるって事は、遺産の中では互いに能力は知れている。
お互いの手札は見えていて、これは単純にチェスの様なもの。
キングは己の命、クイーンはお互いの遺産。
残りの駒で、盤面を戦っているに過ぎん。
星を守る、人工の星と同規模の要塞。それが、このデュークとデュークツーの関係だからだ。蹂躙されてなるものか、なんとしてでもここで奴らを止めなくては……。
(俺達の背には国民の命がかかってるんだ)
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