第百九十話 ナイトメアの傑作品

※今回は敵サイドのお話です。



プレクスとオレルビスのドッグファイトを見せつけられ、ヤンカシュのコクピットで仁王立ちしているコモラがヤンカシュAIに尋ねる。「キュラス、あれはどんな遺産か判るか?」「恐らく、ギャラルホルン」「どんな兵器だ」「我が知っているのはヴァレリアス博士の生涯で二番目の傑作という事だけだ」「実質データ無しか……、やっかいだな」


キュラスは話を続けた。「博士は、死ぬ間際二つの最高傑作を生みだした。すなわち、セブンスとティアドロップ。ギャラルホルンは、セブンスの主兵装」


無機質な男の声の声がコクピットに響く、ヤンカシュの乗組員はコモラ一人。

このAIは、アンリクレズ同様にナイトメア艦の中でも特別な艦のみに搭載されたものだ。


とは言っても、本家と比べれば随分と劣化版ではあるが。専用AIがある遺産というだけで、それは傑作品と言っても差し支えない。


「通常兵装があれに通用するとは思えん、特殊兵装も相手が遺産であるなら効果があるかは怪しい」「特殊兵装は、人命、内蔵、想い出等を頂戴しますぞ」「判っている……」



コモラはプレクスの機動力やその度胸に、敵でなければ酒を奢って褒めちぎりたい程だと苦笑した。「機動力だけだと、神威殿には伺っていたが随分と情報に齟齬があるようだな」そういって、眼鏡をスッと直す。



先程、隕石に突撃する様に飛び込んですりぬけたのも確認した。


まるで、人間の拳の様に振舞うギャラルホルン。推進機としても使え、盾にもなれ、射撃も可能。その上、障害物をすり抜ける事も出来。高機動型ナイトメアとタメをはる速度がでると……、難敵だな。あれでは、何ができてもおかしくない……。自軍のナイトメア艦にぽっかりと穴をあけたあの威力。



(もう少し、情報が欲しい。しかし、損害を考えればここで止めておきたいという神威殿がこれ程の数。ナイトメアを差し向けた理由は理解できた)


「あのプレクスとかいう機体、まさか手持ちの機動力のあるナイトメア全てを差し向けた等と私も実力を見るまでは疑ってかかったのは確かだ」


冷たい眼差しで、コモラが動きの逐一を追う。


「キュラス……、もう少し追撃速度を上げる事はできるか」「御意、指示通り通常兵装を用いて攻撃しよう。特殊兵装の要望があれば応じる」


幾ら犯罪者ギルドの幹部であるコモラであっても、奴隷だってタダではない。使うなら効果的に使いたい、そんな思惑がある。



犯罪者ギルドの所属と言ってもキュラスのマスターになったコモラは商売人気質。

コスパを天秤にかけ何でも売り買いする。そこに、利益があればそれで良い。そういう部分がナイトメアのAIに、主人として認められる資質でもある。


この時、モブの考えとコモラの考えは一致していた。


「とにかく、相手の情報が欲しい」と。



各ナイトメアをキュラスは全てコントロール出来ている事からも、やはりAIとしては凄まじい演算能力を有していると言えた。最初にぶつけた高機動型ナイトメアも、コントロールは全てキュラスだ。アンリクレズとキュラスもまたお互い学習しながらAIとAIでお互いを指し合う。


もし、コモラに誤算があるとしたらそれは相棒の存在である。

コモラは優秀故に孤独であり、優秀故にコンピューターでもなければ相棒が務まらない程の実務能力を持つ。故に、モブと響の様な誰かを認め合う。協力し合うと言う事に対して否定的であり、無頓着でもある。


キュラスが幾らAIとして優秀を極め、幾ら能力が高かろうが。アンリクレズはセブンスの一角を担うAI。この世にたった二つヴァレリアス博士の最終品、はなから何もかもが違う。


キュラスは、まだそれを知らないし。コモラもその能力を知らない。

モブも響も、セブンスというものを理解していない。説明書などというものは最低限しか書かれていないという事を敵も味方も知らない。



そして、その知らないと言う事を演算する羽目になる。



次回、ギャラルホルンの真実。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る