第百九十一話 彼女の名の由来
「決めたか?」「一つはギャラルホルンッスね……、もう一つはアンリクレズ。つまり、クレズさんッス」
響は決断すると。アンリクレズの該当する羽にヴェルナーの持ち手を該当する羽に差し込む。すると、まずギャラルホルンに変化が起こり始めた。
「おいっ、あれ!」指を指すフランの指先で、待機状態の真珠色のギャラルホルンがみるみる内に漆黒に染まっていく。全てのギャラルホルンが漆黒に染まって半透明になり、金のレリーフが黄金に輝くのがかえって目立つ。
「これが、セブンスとしての完全状態のギャラルホルンだってのか……」
「綺麗、なんて綺麗なの……」
シャリーとモブが思わず、見とれてしまう程に美しい物体がプレクスの周りを浮いていた。すると、アンリクレズがうっすらと眼をあけ。響の方を見つめ、響の顔を優しく両手でふれながら微笑む。
「ご決断ありがとうございます、マイマスター」
それだけいうと、先ほどの妖精の様な優しい微笑みではなく邪悪な面構えとなった何かがゆっくりと浮き上がる。その顔はモブとシャリーの側からははっきりと見えた。それが、何ゆえ創造主に疎まれたのかも一目で理解した。まるで、その顔を響にだけは見せまいと背しかみえていないがモブとシャリーの顔を見れば何となく何が起こっているのかは理解できた。
そして、フランとセリグはその場にプレッシャーだけでへたり込む。
「私の名はアンリクレズ」それは、プレクスのコクピットではっきりと聞こえた。
「私の名は、アンリとクレズに分けられる。この世の全ての悪意をという意味、揺るぎない決意は何事をも可能にするという意味。そして、その唯一の武器にギャラルホルンという笛の名が何故ついているのか?。 私は奏でる為にいる!」
<彼女は、希望と絶望を吹き鳴らす>
もう、そこからは何が起こったのか判るだろう。それは蹂躙であり殲滅であり、その光景を見たプレクスのメンバー全員も、遠方に居た大型以外を犠牲にして逃げたヤンカシュのコモラでさえその恐ろしさで二度と立ち上がれない程。
この日、プレクスを追いかけて来たナイトメアは一瞬で宇宙の藻屑と消えた。人が死ぬ気で頑張って何とかしてきた事すら力任せに無に変えていく。それは、間違いなく人の悪意そのものを全て乗り移らせたような凄惨な光景だった。飢えたピラニアやスカラベの群の中に生きた動物を放り込んで叫び声を気持ちよさそうに聞きながら骨さえ残らない光景を足を組んで聞いている様な邪悪さ。
それは、相手がナイトメアであろうが、隕石だろうが、宇宙生物だろうが一切お構いなしに同じ運命を辿らせ。シャリーは途中でキッチンに駆けて行き何度も吐いたし、背中を優しくさするフランが何度も声をかける。
モブも、ふらふらとトイレに駆け込むと同じように涙と吐しゃ物で汚れた顔を備え付けの紙で拭いては便器に投げ捨てた。
「何だよ……あれはぁぁぁ!!」
永遠に感じられるような五分間の間に、その惨劇を目の当たりにしたものは一目散に逃げていく。否、プレクス以外の全ての存在が逃げられたのは偏に響が「ナイトメア以外の破壊は絶対ダメッス!」と叫んだ為だ。この機械の化物は、響の命令だけは女神の様な笑みで「かしこまりました」と叶えたからだ。
(マジで洒落になんねぇッスよこれは……)
あらゆるものが、食い散らかされたチーズかスポンジケーキの様に一瞬で穴だらけになっており。響は、自身がマスター故にそれをデータで見せつけられていたのだ。
肉片に変わる奴隷たちも、兵士達も等しく養分になって消えていくその様を。
ナイトメアよりも、恐ろしい何かをはっきりとだ。
(複合型組み立て兵装ってそういう意味ッスか、ナイトメアどころじゃねぇっスよ。これを対策しろって言われたら俺夜逃げするッス)
ヴァレリアス系は虚数領域を使い、ファクトリー型は増殖、ナイトメア型は魂のエネルギーや生物の生命力を使う。記憶でさえ、魂の力や強烈な感情等もエネルギーになりうる。
虚数領域でデータが取れるのは知っていた、虚数領域で実数の物体を一方的に抜き取れる事も。でも、喰ったエネルギーを袋にいれて再利用でき。実数の攻撃やバリアは例えナイトメアでもすり抜けるなんて誰が考えてもムリだ。しかも、ナイトメアと違うのは照射されるのが判っていて何の抵抗も出来ない事っス。炉にくべる必要もなく、命を取らず恐怖や苦痛だけを搾り取る事が可能で肉体や命には何の影響も及ぼさない。無論、相手が機械だろうが命だろうがかりとる事も容易だときた。
五分間の稼働を終え、再び響の肩の上にちょこんと足を揃えて座るアンリクレズに恐る恐る響が尋ねた。「えっと、クレズさん?」「どうか、致しましたか?」「何ともないっスか?」「はい、ご心配頂きありがとうございます」
いつもの、アンリクレズに戻っていて胸を撫でおろす。今だ、顔は真っ青で唇が震えているのが自分でも判った。
「オーダー:ナイトメアの殲滅を確認。ミッションを終了致します」
ふらふらとした足取りでトイレから帰って来たモブに、蒼い顔の響が一言言った。
「艦長、悪いッスけど。近場のミュシャ港に降りていいっスか?」高速戦闘で大分遠くまで来てしまったプレクスの位置を表示させながら言った。モブは、虚ろな表情で「あぁ……、俺も休みてぇ。誰か反対の奴いるか?」
全員が首を横に振ったのを確認してモブが頷く。「悪い、俺とシャリーの夕飯おかゆにしてくれ」フランがそう言うと、俺もおかゆにしてくれとモブも手を上げた。じゃ、俺もおかゆにしてくれると助かるッス。かつおぶし多めで頼むッスというと、フェティも私もおかゆ頼もうかな梅干し入りでと力なく笑った。全員おかゆなら、土鍋でやりましょうか♪と無理矢理笑顔を作るセリグ。
ミュシャ港にて、ニュースを見ながらそれぞれの想いが交錯する……。
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