第百五十四話 呪い
イヤな色のプロミネンスがまるで、道連れにせんとする怨念の亡者の手の様にプレクスに伸びるのをまるで手を空振りさせて逃れるハエの様な動きでプレクスが必死に逃げていた。
「クソッ、半分も持ってかれたのが痛すぎるっ!」「それなんだがスマン」急に謝るフランにあぁ?みたいな顔になる。
「後で詳しく、今は生き残る事が大事だ。響、悪いが舵のこれ持ってろ。進行方向や全方位の情報はシャリーとクレズに聞け!」「艦長は何処行くんスか?」「応急処置に決まってんだろ、後フラン。風呂と掘りごたつが止まっちまったままだ、チェックだけして重傷だから直す余裕が無かった」「判った」「すまねぇな」「気にすんな、その変わり絶対生き残ろうぜ!」モブの背中を軽く叩いて送り出した。
「響、応急処置が終わったらクレズに知らせる」「了解っス、クレズさん頼むッスよ」
「承知いたしました」
それぞれ、セリグもモブの応急処置のジャンクや道具を運ぶ手伝いを申し出る。
蜘蛛の子を散らす様に、それぞれがそれぞれの出来る事を。
外では、大暴れしているラミアムがプレクスに向かって飛んできていた。
「最後までクソ迷惑な、遺産だぜ!」モブが叫ぶと、フェティが思わず噴き出す。
「響さん、右!」「右っスね」シャリーが叫ぶようにいうと、響が冷静にプレクスの舵を切ってラミアムの伸びて来たプロミネンスをするりと抜けた。
「その調子で頼むッス。クレズさん、シャリーちゃんが欲しがる情報はなるべく早く出してあげて欲しいッス」「お任せ下さい」
何故か、アンリクレズの声が力強くなった。
「俺達も急ぐぞ、セリグさん」「はい」それだけ言うと道具を持って走る。
「シャリー、俺は少し休んでから。やれる事をやるよ」とフランが言うとシャリーはにっこり笑って親指を一本立てた。
(本当、ノリが良くなって来たな。いいことだ)
人間苦しけりゃ苦しい時ほど、やばいって事を忘れねぇとドジふんじまう。
だから、なるべく不利な情報は伏せとかねぇと。
男のフリしてたって、中身が女じゃ生理はあるから薬で押さえるか。休むかなんかしなきゃいけねぇが、傭兵で定期的に休んでたらそこ叩かれるのがオチだし。飲んでる薬でバレるなんて事もある。そこまで考えて無いと、生き残れない稼業だと言う事。
(だから、艦族や傭兵なんてのを自分の娘にやらせたい親は居ないのだけど。プレクス乗ってるとついつい忘れちまいそうになる)
「おめ~らみたいなのばかりなら、俺も艦族やってたかもな」
「何か言ったッスか?」「いや、ここは最高だなって言っただけだ」
「しっかり休んで欲しいッス、じゃないと俺の時快く休ませてもらえねぇッス」
「あぁ、そうさせてもらうよ。ちゃんと、重力板があるとこでな」
そういって、ウィンクするとコクピットからいなくなる。
「さて、シャリーちゃん。次はどっちっスか」「次は……」
それぞれが、それぞれのやれることをやって窮地を凌ぐ。
一方で、艦内の空いた倉庫に推進機を一個クレズを通じて内部に入れてもらい。今日ほど、この推進機が切り離しと再設置可能な代物で良かったと感じた日はなかった。
「げぇっ!、 ここもここもかよぉ!!」外側の状態を見た時からイヤな予感しかしていなかったがこうしてみるとかなり状態が酷い。
基本的に機械というのはデリケートで、例えば歯車の歯等をこすり付けて形状を作る場合は速度は出せない。歯の表面粗さが変わってしまうし、何より摩擦熱を持って変形しその僅かな歪みが使っているうちにダメージとして蓄積伝播してしまう。
だから、機械でどんなにオートメーションや速度が上がっても物理学上絶対に加工速度を劇的には変えられない部分というのがある。その差をホンの僅かでもマシにするために油などを工夫はしているが。
モブが今回叫んでいるのは、今一刻を争うというこの場面で修理に物理的な理由でどうしても時間がかかる箇所にダメージが入ってしまっているからだ。
「別のはどうなってる?」といって諦めた推進機を一旦保留、別の推進機をクレズに出してもらう。
それを、セリグが心配そうにのぞき込む。
「大丈夫だ、大丈夫。時間がかかりそうなの後回しにしてるだけだ」
そうはいうものの、思ったよりダメージが深刻な事に溜息をついた。
「ったく、離れる時のが追いかける時よりしんどいってどんな冗談だ……。おっこいつならなんとかいけそうだ」
最期にチェックした推進機が比較的マシだったのを心底嬉しそうにしながら、モブが修理を始めた。
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