第百五十三話 信念と餞

はぁはぁと、二人の息遣いだけがラミアム内部に響く。


(さっき余裕がなくて方向までは選べずえらい事になったが、何とか俺もプレクスの連中も死なずにはすんだって感じか。くっそ、両手があれば……)


インカムで、プレクスの乗組員の声を聴いて胸を撫でおろした。


(向こうさん、もう言葉も大分少なくなって来た。表情も薄ら笑いから虚無になってる)

アンリクレズが表示する情報も、眼の前のアラネアの限界が近い事を示している。示しては居るのだが……。


軍人が、こんな簡単に終わるか?俺ら傭兵だってそうだが、しぶてぇ奴はとことんしぶてぇ。未練抱えて岩にかじりつくような生き方する奴が最後の最後、意識の砂粒一欠片消え果てるまで向かってくる。


「イヤな予感しかしねぇんだよな」


ふと、そんな言葉が口をつく。


戦闘経験が長いと、ごく稀に汚泥の様にこびり付くような警告を自身の奥底から受ける事がある。流石にセレスティアルの様な大玉があるとは思いたくねぇが、小玉の切り札の一枚や二枚はあってもおかしく無い。


(人は急所に一発もらったらそれでしまいだ、艦や強化兵なら耐えられてもサイボーグや人ではひとたまりもない)


そういう意味では、戦闘中に油断して良い事なんて一つもねぇんだ。


今も弾丸をはじき続けながら広い通路で戦っているが、相変わらずヴェルナーはしっかり刀身を維持出来ていた。その刃を見る度に、これがただの鍵っていうのが信じがたく思う。


先ほど逸らした時に壁に空いた穴が、ぐじゅぐじゅと音を立てながら塞がっているのをみて思わず内心で舌打ちしながら「本当、ロクなもんじゃねぇな」。


そうはいいながらも、乱打戦は続いており。徐々に一進一退がフラン有利に進みつつあるが時折フェイントの様に、足や手がだらりと下がる事があり。視線が思わずそちらを警戒していた。


(まぁ、さっきの様子的にタクシーは遅刻してくるみたいだからもう少し粘りますか)


バチンと大きな音を立て、銃をクロスして突っ込んで来たそれと鍔迫り合いをしながら。超近距離でもCQCの様な動きで、体を入れ替え弾丸をフランの足などを狙って正確に撃ってくる。普段ならそれは、躱したり距離をあけて対処する。


今回はそう言う事はしなくていいが、それも釈然としない気持ちでいっぱいだった。

「取り敢えず、あいつ等も心配だし。ちゃっちゃと片付けるか」


そこからは、どんどんと攻撃のペースを上げ遂にアラネアの武器を破壊する事に成功した。すると、ラミアムが揺れ始めたっていられなくなったフランがその場でしゃがみ込む。


「おい、クレズ! プレクスはまだか!?」思わず、大きな声になる。

「先ほどセレスティアルを防ぐために全力でクマドリを展開した為、一時的に転送できる距離が短くなっております。プレクスが回収できる距離になる為に百八十秒必要です」


お~け~、余裕が無くてはじき返した先にプレクスが居たのは自分にも若干の責任を感じており。当たってしまったのなら、ダメージもあるだろうと言う事で納得する。


(後、三分か……)倒れてこと切れているアラネアが視界にはいる。


「警告!」クレズが叫ぶ様に後ろに引っ張ると鞭だけを駆使して、こと切れている筈のアラネアが勝手に動き出している。



「どうなってんだ!」「寄生型の暴走です」「んだとぉ?!」



それだけ言うと、さっきまでの弾丸とは比較にならない程の手数で鞭がバンバン飛んできてフランが防戦一方になる。身体の関節があらぬ方向に動いて、体中から変な音を立てながら。


「人間あ~はなりたくないねぇ」殆ど余裕はないが、それでもフランはそれが蝋燭が最後に燃え上がる様なものだと本能的に察していた。


ただ、暴走しているのはアラネアだけではなく。ラミアムの方もアラネアと連動して大暴れしている為、フランが時々踏ん張れずにふらついた。


そこを、待ってましたと狙われるので存外やりにくい。

それでも、そこは歴戦の傭兵らしく無難にしのいでいく。


アラネアとフランでは、歳は近くとも戦闘経験には大きな差がある。

フランは文字通り、シャリーよりも下のスラムからのたたき上げ。


「残り、六十秒です。ゼロになったら強制的に飛ばしますのでご注意下さい」

そのクレズの言葉を聞いた瞬間、自身のポケットから小型爆弾をカウント状態にして自分の足元に落とし。戦闘中に器用に足で後ろに蹴った。


(まぁ人間らしさが残ってたら、慌ててあれを止めにいくんだろうけど)


ちらりとみても、視線がフランにロックオンされている。

(よし、こっちをちゃんと向いてやがんな……)



それだけ確認すると、アラネアだった何かと相対し直す。


「残り、五秒です」「了解」頭の中で進むカウント、そして以前の様に後ろに引っ張られるような感覚があってプレクスのコクピットに戻ってくる。


「おかえり」「ただいま、と言いたいとこだが全力でずらかれ」

「ズラかるのはそうだが、全力で?」とモブが聞き直した瞬間ラミアムが大爆破され、全員の眼がそっちに行く。しかし、モブが慌てて「やっべ!」とだけいうと慌てて今生き残っている推進機の数を数えてから顔が真っ青になる。


「おい、どうした?。いつもより随分速度が遅いぞ」フランがそういうと、シャリーが耳打ちする様に「さっき凄い攻撃がきて、推進機が半分ぐらい壊れちゃってるのと他にもあちこちダメージをうけて早く飛べないの」と聞くとフランの顔もどんどん真っ青になる。


「まずいんだが?」「判ってるッス」



響とフランが何故か判り合う様に頷く、セリグも思わずあちゃ~みたいな感じで額に頭を当てながらモブが男らしく決断して。生き残っている推進機の出力を最大まで上げ、「クレズ、距離三十万以内で岩陰でも宇宙ゴミでもいいからプレクス停められるとこ探せ!」


電子音がしばらくした後、「五時方向に、少し大きめの宇宙ゴミがあります。そこならば成分的に着艦可能です」返事もせず、モブがガッツポーズを小さく取るとべた踏みで離脱を開始。プレクスが後ろを向いた瞬間に爆破のプロミネンスがやってきてプレクスは離脱しているというより吹き飛ばされる形でその場を後にした。

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