第百五十六話 窮地に照らす光

「響にあぁは言ったが、それで諦められるか。何とかなる保証もないしな……」



一番マシな推進機をある程度直してクレズに戻してもらうと、二番目にマシな状態の推進機の前で腕を組んでいた。


二番目にマシな状態でこれってどんだけだよと思わなくもない。だってこれクマドリで防いだ上から貰ってこれだろ?。主砲さえあっさり防いでた、あのクマドリの上から当たってこんだけダメージって。やっぱ、遺産と現代科学じゃ比べ物にならねぇなと苦笑した。

(かといって、あんな胸糞悪い遺産は死んでもごめんだ)


メカニックとして、感動するやら呆れるやら。それでも、勉強という意味では非常にくるものがあった。「俺はバカだからよ、バカなりに楽しくやるにゃ刺激ってのがいるんだよな」と苦笑した。



シャリーやフェティの顔を思い浮かべ、若い発想に驚かされる事だって一度や二度じゃない。セリグやフランの実践経験からこうだったらと言われて再度考える事もあった。



にしても、回路の繋ぎ直しとかまで出来る様になりやがって……。

あのアンリクレズとかいう遺産、マジで冗談じゃねぇぞ。


大体、二酸化炭素と宇宙空間と虚数空間を利用してオーバーヒートした推進機を二分で使える様に冷やすだぁ?。あの虚数空間、人を通してワープに近い事も出来る上。開けられる穴の大きさ以下なら、弾丸も量や威力無視して吸い込みやがったんだぞ……。


おまけに人体改造なしに、欲しい情報を整理整頓して視界にノーリスクで表示するとかどんだけ盛ってんだ。確かに、セブンスは全てを殺す為に生まれて来た。


ティアドロップもそうだし技術者もだ。


あらゆる機械はより便利に、より効率的に。より人を介在させずにを目指して作られる、そしてそれを担っていた人間の仕事を奪い。作ったものや使うモノに利益をもたらす。

それが究極的には機械文明の正体だし、システムの目指すべき所。


自らが望んで改善し、人の言う事を何でも聞き。そして、命をとして無償で働き。その力が全ての機械を越えるものであるなら。そりゃ、もう全機械化学システムへ喧嘩売ってるのと同じだ。そんなものがあってたまるかと思ってたら、それを過去の天才は作っちまった。


人と同じ様に己で考え歩む、ティアドロップ。

人の道具たる事を己の存在意義として、人と共に歩むセブンス。



恐らく博士は人の業をナイトメアを通じて危惧した、かといって可愛い発明品を潰す事も出来なかった。


もしも、ティアドロップが人に敵対したらセブンスで。

もしも、セブンスが悪人の手に渡ったらティアドロップが。


相手をすり潰す、それが博士によって運命づけられている。


もしも、ここに錬金塔があったなら。こんな推進機苦も無くなおすんだろうさ。

だけど、それじゃ俺がここに居る意味はなんだってんだ。



頭をごりごりとやりながら、はぁと溜息をついた。



「頼られてる時に、課題をクリアできない人間がそんな事ほざいたって何の価値もねぇよな」モブはそういうと、推進機の外側のカバーを外すと軽い爆発音と共に煤が上半身を包み込むように。ごほごほっとやりながら、手に持っていたライトを口に咥え覗き込む。


中のケーブルも大分ひどい状態になっていて、全交換必須なのを確信。

「セリグさん、悪いけど。このケーブル繋ぐの手伝ってくれ、中まで逝ってるから洗浄してから新しい奴で繋ぐわ」「かしこまりました、これでいいですか?」「おうそれそれ」

世の中、機械もソフトも沢山あるがこういう緊急事態の現場でそういったものが無かった場合最後に頼るのは手作業になる。常に機械があるとは限らないし、場所によっては作るのに使った機械が入らないということもある。人を介在させない事を究極の目標とするが、機械というのは大抵我が子と同等に手がかかる。



「弱小の宿命とは言え、マジで冗談じゃねぇぞ……」



だから、目測で間違いが無いように訓練だけはしておく。

その勤勉さが、モブや響をここまで生かしてきたのだから。


「緊急事態の時以外は使わせたくねぇ、とはいっても今まさにその錬金塔が無い上で緊急事態なんだがな」


揺れるプレクスの中で、眼を細めながら。モブは道具類を握りしめ、基盤を一つ一つチェックし。スパークが飛ぶ度「ここもかよぉ~」等と悲しい悲鳴を上げ。


セリグも、言われた時に手を貸しつつ。かたずを飲んで、その作業の正確さに舌を巻く。

(遺産がなくても、プレクスがしぶといのは彼がいるからでしょうね)


基本的に、動かしながら直すというのは簡単ではない。

それ前提の設計と、その作業や運動を止めずに結果に影響を出さず。

そして、それを可能にする人員が居て初めて成り立つ。組織なら一人いれば、文字通りにすり潰されるような運命にあるが。逆に個人で渡り歩くにはその程度は序の口に出来ないと話にならないのが世の中というモノ。そんな事は、現場に居て十年もやってれば自然そう認識せざる得ない。


(それだけの技術を隠しもせず、もったいぶりもせずシャリーちゃんやフェティ様に聞かれたら即答えてましたからね。おっさんは美人に弱いんだって言いながら)


本当に、そうだったとしてもなかなかできる事ではありません。

自分は、結果を出す為の方法は部下に教えましたが。

肝心の人として、何たるかを教えなかったからこそ今があると思う。


自分の不徳の致すところですねと、内心でセリグは溜息をついた。


「なぁ、セリグさん。仲間はさ頼ってこそなんだがよ」「はい」「同時に自分が頼られる程じゃなきゃ関係は長続きしねぇ、それは機械相手でもだと俺は思う」「そうかもしれませんね」


二人の男が、己の気持ちを吐露した。


「この先もクレズは、俺達を助けてくれるだろうさ。だけど、俺達がそれに追いつかないと、いつか仲間で居られなくなる気がしてさ」


咥えた煙草に火をつけて、モブが紫煙をくゆらせる。


「セリグさんも、フランも、シャリーも、響もみんなみんな俺に取っちゃもう仲間なんだよ」「モブさん……」


じじっと、煙草の火が強く燃えた気がした。まるで、彼の心の様に。


「遺産越えるのは楽じゃねぇな~」そんな事をおどけて言うと、黙々と手を動かし始める。



(貴方なら、きっとできますよ)


セリグは、自分が出来ていなかった事をモブを通じて学びながら。


二人は修理を最低限の会話だけにして、黙々と進めていった。

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