第百三十六話 同業者
「この、ナラシンハに単独で乗り込んでくるたぁ何処のアホンダラかと思ったらフランじゃねぇか」「そいつ、知り合いか?」「知り合いっつーか同業者だ」
サイボーグの方が、フランに気がついて話しかけ。両手をガトリングにした強化兵がサイボーグの方を睨んだ。
「気をつけろよ、爺はともかくフランはやべぇ」
その言葉に、眼を見開く強化兵。「てめぇがそういうって事はこいつ、上級傭兵か」
「あぁ、生身でかつ個人で上級傭兵だ」「そいつはやべぇな!」
それを合図にガトリングレーザーが火を噴くが、その全てをフランの斬撃が捻じ曲げ一瞬で周りの壁がハチの巣になった。
そのまま、背中のバーニアで突っ込んでくるがフランは交差法気味に回避。
左手のガトリングレーザーが、真っ二つになって爆散。強化兵の傭兵は思わず口笛を吹いた。
「成程、こいつはやべぇ……」フランは剣を向けたまま「今周れ右して帰るなら、ゆるしてやってもいいが?」「アンタなら判るだろが、傭兵が前金貰って命惜しさに帰る時は引退する時だってよ」「判ってるよ、引退すりゃ命だけは助かるぜ?」
その会話を聞いていたナラシンハの艦内放送で、神威の手下らしき男が憤慨した声をあげて「傭兵共がっ! こっちは、動力の奴隷どもをやられてるんだぞ!!」と叫んでいるのをきいて「バカいってんじゃねぇ、生身の個人で上級傭兵なんて宇宙に五人もいねぇんだよ。バケモンだバケモン。見た目こそハンサムな優男だが、甘い顔に傷一つはいってねぇのがその強さの証だっての」
その巨体な、強化兵の斬られた腕をパージし。その巨大な腕と同じ太さのレーザーブレードが顔を出した。
「てな訳で、死ぬ程後悔はしてるが。俺は一歩もひけねぇんだわ」
フランもそれを聞いて、再びヴェルナーを構える。
「そうかい、それがお前の決断なら。傭兵同志お互いの依頼の為に殺し合おう」
獰猛な笑みを浮かべるフランに、ドン引きの強化兵のパイロット。
(ったく、ついてねぇにも程があんだろっ!)
やっと、強化兵手にいれて。中級にあがって初の依頼で個人の上級傭兵にぶち当たるなんざ、ビッチな死神にベットにでも誘われてんのかよ。
レーザーガトリングより、斬撃の手数がある生身の人間なんざ冗談でもキツイぜ。向こうさん、それで見逃してやるとか余裕ありすぎだろ。ここは遺産の腹の中なんだぜ?
強化兵の中が自分の冷たい汗で湿っていくのが判るが、もうサイは振られた後。
チラリと横を見れば、ジジイとサイボーグが戦っていたが爺の方は劣勢になっている。サイボーグや強化兵とまともにやり合えている事からもあの爺だって決して弱くはない。
だが、眼の前の不公平な程の化物と比べたらあの爺相手の方がまだ生き残れる可能性があった。戦って、勝って戦線離脱。これが、恐らくできる。
今も壁や天井を縦横無尽に、まるで子供が我儘に泣き散らしながら紙にクレヨンで書いたらこうなる様な線が斬撃として飛んでくるのを必死に防ぎながら思う。
装甲も、エネルギーもバカみたいに削られてあっという間に半分を切った。
かといって、強化兵の装甲を維持できなくなれば次はない。
あいつ、以前見た時は両手だったのが片手になってやがるが。片手であの強さとか、両手だったら確実にもう俺生きてねぇだろこれ。
(まてよ、あいつが片手しかないなら。もしかしたらいけるんじゃね?)
そんな希望が頭をよぎる、だがすぐに頭を振った。
何甘い事考えてやがんだ俺は、無理に決まってんだろ。相手は上級傭兵だぞ?。
本来なら今すぐ、尻尾撒いて逃げんのが最前の相手だ。
<もしかして何か絶対ない、確実にやられる>
ふと、フランが手を止めセリグの方を一瞬みる。セリグが壁に吹き飛ばされ、壁にずり下がってる所だった。「おいおい、頼むぜ爺さん」そんな勝手な事を言ってよそ見するフランに強化兵が襲い掛かるが、ギラりとした視線を幻視し、次の瞬間には強化兵の両足が二本とも後ろのサイボーグの方に向かって飛んでいく。セリグに追い打ちをかけようとしていたサイボーグの横っ面に思いっきり当たって一緒に吹っ飛んでいった。
「爺さん……、やっぱり俺が二人ともやっとく?」フランがそう声をかける。
飛んでいったサイボーグも、ナイトメア艦のナラシンハによって強化されている……筈だ。だが、現代の理不尽の前ではなんの抵抗もできちゃいなかった。
こっちはこっちで、一瞬で両足斬られて動けねぇし。本当に同じ人間か?。
セリグがゆっくりと体を起こすと、「申し訳ありません助かりました、ですが続きをやらせてください」と笑う。ほーんと返事をしたフランが、強化兵の方を向くと「ほんじゃこいつはスクラップにしておみあげにすっかね」と向き直る。
「おい、セリグ」フランが急に真剣な顔で言い放つ。セリグが思わず、そっちを見た。
「もうすぐ、宇宙一のタクシーがくる。乗り遅れんなよ?」
それを聞いて、セリグが急に全身を震わせて笑い出した。壁に打ち付けられた時に怪我をしたらしく。全身打撲や打ち身、擦り傷等で血が滲んでいてなお。その笑い声だけが廊下に響く。敵でさえ、その豹変ぶりに気でも狂ったかと一瞬瞠目した。
「プくく……、タクシーにしちゃ随分快適で気が利いて。すっかり、緩んでましたよ」
「なごむよなぁ、将来美人になる予定の二人とバカ二人が居てさ。どっかのジジイはうまい飯しかださねぇし?」「どこかの乱暴な傭兵さんは、いつも軽口叩いて肝心な時は頼りになりますしね」
会話を終えると、再びサイボーグとセリグが激突した。
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