第百三十五話 超人と老兵

「あらよっと」鎖で牢屋に繋がれたセリグの正面に降り立ったフランを見て、セリグが瞠目した。「フランさんっ!」



それをみて「年寄の割に随分鍛えてるじゃねぇか」とセリグの腹を軽く叩く。

上半身裸で吊るされたセリグが、思わず苦笑しながら言った。


「早い所降ろして頂けると助かるのですが」「ほらよ」ヴェルナーで鎖を融解させてぶった切ると、セリグがいつも着ている執事服を投げ渡した。



「武器は?」フランが真剣な顔で尋ねると「レーザーソードがあれば」セリグが答える。

いつも、髪を服の中に入れている首の辺り。そこからいつぞやモブ達と寄った時に買ったレーザーソードの一本を取り出してセリグに投げ渡した。


「セリグ、これぶっかけるが悪く思うなよ」そういってポケットからスプレー型の宇宙服を自分とセリグにぶっかけた。


「それを使うって事は、最終的には外に脱出して拾ってもらう感じですか」セリグが努めて冷静に尋ねると、フランが頷く。


「察しが良い男は嫌いじゃない」そういうと、牢屋の格子ごとバラバラにぶった切って粉々になった。「この艦の格子は、超合金製のな筈ですが」「俺に取っちゃ超合金も鉄もプロミネンスも遺産もかわりゃしねぇよ。ぶった切ってそれで終わりだ」



(味方であれば、これほど頼もしい方もいませんね。敵なら最悪ですが)



クレズさんに出してもらった道具が無駄になりましたなと苦笑しながら、目つきだけは完全にすわって軍人のそれだった。



「走るけど、ちゃんとついてこいよ」「はい」



セリグの牢があったのは、最後部の最下層。アンリクレズ曰く、このナイトメア艦は十層で甲板に出る為には六層のドアからしか出られないとの事だった。



(艦長が拾いに来るタイミングで、外に出られるのがベストだな)



あの様子であれば、気合を入れまくって相当急いで突っ込んでくる事が考えられる。もたもたやってたら、俺達が甲板についた頃にはプレクスは追い抜いて通過しちまいそうだと考えていた。


「フランさん、正面赤外線ですが」とセリグがいうと、フランは壁の右側を力強く蹴って壁を走っていく。それを、呆れた顔でみていたセリグ。


「俺は、壁を走れないんですが」とセリグがいえば。肩を竦めてヴェルナーを四回軽く振る、それだけでセキュリティの赤外線の警報が鳴る事もなくぶった切って真っ二つになっていた。「そういう肝心な事は早めに頼むよ」「申し訳ございません」セリグは謝ったが、これが隻腕の生身の人間がやる事かと内心舌を巻いた。


「失礼ですが、いつから傭兵を?」移動しながら尋ねるセリグに、フランは可笑しなことをきくなと首を少し捻りながら「六才からだよ」と正直に答え。


(才能があっただけでなく、幼いころから生き抜く過程でこれだけの力を見につけてしまったという事ですか。しかも、モブさんや響さんと違って仲間も無く。柄の悪い実力主義の傭兵たちの世界で。遺産にすら勝ってきたに違いない。壁位走れなければ、生き残れなかっただけなんでしょうが……)



「にしても、へばらずよくついてこれるな」「合わせて頂いている様で、申し訳ない」「救出にきて走れなかったら担いでいかなきゃならねぇから自分で走ってくれて助かるよって意味だ。悪く取るなよ爺さん」



(私が軍役で生き残ってこれたのは、現役の時にこういう相手と出会わなかったからでしょう。宇宙は広いですね)



今も走りながら一度も隠れる事無く、追撃に来た敵の機械兵のレーザーや弾丸をヴェルナーで逸らして走り抜けていく。


自分よりも一回り若いはずのフランが、頼もしく見える。


「それにしても、凄いですね。レーザーをこうも簡単に」「半分はクレズのおかげだよ、正確な射線や位置に速度や順番なんかを未来予知みたいに教えてくれるからな」


初めて来た艦なのに、マップまで表示されて至れりつくせりだ。



(それを知った所で、隠れず全部ぶった切れてるのは貴女の実力でしょうに)



内心、それを差し引いてもこのアンリクレズの情報能力は余りに驚異的。

セリグも、実は同じものをみているのでこうしてついていけてはいるが。


(これが武器ではないというのなら、武器扱いになっているものは一体どれ程のものなのでしょうね)



「ここは……」セリグと同じ様に牢に繋がれた人間達が沢山おり、透明なパイプに入れられて首の後ろにいくつもの管が繋がっている部屋が見えた。


「ったく、傭兵や軍人には力がいるとは言え胸糞悪くて仕方がねぇなこのナイトメアタイプの遺産は……」「同感です」



行きがけの駄賃とばかりに、二人が部屋の動力をぶった切って。手を一瞬合わせると、無言でまた走り出す。「「悪いがこれで勘弁してくれ」」


二人が同じセリフを口にし、思わず卑屈に笑う。


「見も知らぬ他人でも、心は痛みますか」「心が痛まなくなったら人間終わりだろ、昔の人間はこんなもん作ってるから文明ごと滅んだんじゃねぇのか?」


二人は会話を続けながらも、走り続け。

時折、ブリッジの要領で大きく体を後ろにそらしたり。真横に飛んだりしながら、ひたすら上層階を目指していた。敵兵はどんどんと増え、まだ正面だけとはいえ。敵は六十以上いる。


だが、この二人は全く意に返さず次々に撃破して走り抜けた。



「もしかして、俺は来なくても脱出できたか?爺さん」「まさか……、仮にできても五体満足で楽々散歩気分でという訳には参りませんな。貴女が来てくれたからこそ、これだけ余裕を持って対処できる」「そういう事にしといてやるよ」



こう言った軽口を叩きながら、今度は通路一杯の強化兵をセリグは右側から、フランはスライディングで股下からぶった切って爆散させ走り抜ける。


(この爺さん、つえぇぇぇ~)内心フランはそう思ってみていたが、セリグはそれに気がつくと微笑みながら片手を振っただけだ。相変わらず、眼は笑っていないが。


しばらく、二人で走り続けると三層へあがる階段で傭兵が二人陣取っているのが見え。

フランがそれをみて、苦笑いを浮かべた。


「同業の方がいらっしゃるようですが、二人とも俺がやりますか?」と尋ねるセリグに「いんや、右は俺がやる」と右側の足が二本の両手がガトリングレーザーになっている方へフランが直進し。


「判りました、では俺は左を潰しましょう」


クリスタルな見た目の、サイボーグっぽい男の方へセリグが向かっていった。

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