第百三十四話 モブの矜持
全員がプレクスに乗ると、コクピットに集合。
モブがプレクスの調整を終えると、離陸以外はまるで砲弾でも発射したように加速し宇宙へ飛び出していく。
アンリクレズが機能を維持している距離にまだいるので、フル稼働して追いかける形。
いつもの運転と違ってかなり荒く、本当に同一人物か疑う程だった。
(昔の艦長だったら、口に煙草をくわえてとっくに火をつけてるッス)
時折洗濯機で洗濯物でも回しているかのような回避運動で隕石や敵の攻撃を掻い潜って、プレクスが猛追。
(やっべぇ、運転しやがんなこいつ)とフランも半ばあきれ顔でその様子をみていた。
だが、とにかくその甲斐もあってドンドン距離が縮んでいく。
アンリクレズから、殆ど誤差の無い情報をいれ。AIすら舌を巻くような判断速度で次々に推進機の位置を変更する指示を飛ばす。
時折「おせえ!」と自分で推進機の位置を手元で変えてしまい、響と判断が異なっている事もあったが。響はその度に自分のキーから手を離して、モブに譲る。
(おい、また響と判断違ってたみてぇだが)とフランとひそひそ声で話す。
(今のも艦長の判断のが正しいッス、咄嗟だと俺と同じ選択を取っちまうやつの方が多いッスけど)
(よく、この速度で判断できるな)(正直、運転が滅茶苦茶怖いから。なるべく、俺が運転してたっス)(なるほど、理解した)(プレクスはその特性上普通の艦と違って、宇宙空間でもデタラメな動きが出来るっス。中の人間の事考えなければッスけど。あれでもまだ、相当押さえてるっスよ。シャリーちゃんとフェティちゃんが乗ってるから)
「以前も思ったけど、これで押さえてんのかよ……」今も、左翼先端が僅かに掠った音をフランはその耳で聞いている。
フランの身体能力はかなり高い、だからこそ普段響が運転していると感じる事が無い。プレクス全体が揺れたり、掠ったり、ビビったりする音や振動を感じ取る度口元が若干ひくついている。
フェティと、シャリーもコクピットの腕置きを握りしめ。ベルトをしっかりしめてなければあちこちに頭をぶつけそうな勢いで揺られていた。
「艦長!」「どうした?」「敵さんの背中が見えてきたッス」「うしっ」「しかし、どうやって対処する気っスか」「フランをこっちからクレズに投げ込んで、大暴れしてもらう。んで、回収する時だけプレクスを接舷。送り込むときには向こうにセリグが居るから可能だが、回収する時には接舷して徒歩じゃないと無理……そうだったなクレズ」
「はい、現状だと私の本体がありませんので」
「つくづく、生きたまま人間入れられてゲート代わりに使える倉庫ってのは便利だわ」
「これ、クレズさんに本体の機能があって向こうに仲間が必要ないなら爆弾でも毒ガスでも任意のポイントに送り放題って事っスよね。しかも、クレズさんの索敵範囲ならデータ取り放題のこの状況で」「響様が許可をすれば可能です」その瞬間、プレクス内の全員が響の方を向くが慌てて首を横に振る。
「そういうのは、今回みたいに人助けする時だけにして欲しいッス」「かしこまりました」
真顔で響が答え、クレズが無機質に答えた。
「ほんじゃ、ちょっくらいってくる」そういうと、フランがクレズに回収されていく。
「こんな無茶苦茶な救出作戦、フランが強くて信用できなきゃ不可能だよ。敵がどんだけ居るかも判らないし、どんな武器があるのかも判ってないのに」
「本人居ないトコでそれいうッスか……」
「精々、脱出する時迅速に回収できるように俺達に出来る事をやるぞ」
真剣な顔でいうモブに、全員が頷いた。
「なめくさりやがってっ…………」
「そういえば、それならプレクスでワザワザ距離つめなくても送りこめたんじゃないっスか?」「送り込むだけならできたかもしれねぇが、今回は救出だ。どっかのタイミングで接舷しなきゃいけないなら、救出して脱出して接舷は連動しなきゃダメだ。救出を待つ間は、完全に孤立してんだからな」
モブの説明に、あっとなる響。「フランが暴れて、セリグ回収して、走って逃げる最中に俺達がタイミングよく接舷して二人を回収、どっちも待ち時間ゼロでトンズラってのがベストだろが。俺達はまともに戦えねぇんだぞ」
最近はすっかり忘れていたが、プレクスにはまともな攻撃手段が殆ど無い事を思い出し。更に、今プレクスに残ってる乗組員は少女ふたりと中年のオッサンふたり……。どう考えても、荒事は無理がある。
接舷は一瞬にしとかなければいけないし、ナイトメア艦に接舷する際袋叩きに攻撃を浴びるのは目に見えているのだから。
俺達は、艦族だ。出来る事をする、自分に出来る事をしてベストを尽くす。お宝探して、仕事して、自分に出来ない事は仲間に信じて任せる。
だから、仲間さらわれてはいそうですかって訳にはいかねぇんだよ。
「コックのセリグさんには、自分の意思で艦降りるまでコックやってもらわにゃこまるだろうが」
その台詞にフェティとシャリーが拍手し、響も肩を竦めながら「あんな旨い飯食った後で保存食なんかにゃもどされたくないっスからね。セリグさんが艦おりるなら、代わりのコック見つけて欲しいッス」
「ば~か、人材なんてのは欲しいって言ってすぐ取れるのは最高の待遇用意出来る連中だけだっての!」だから、大事にすんだよ判ったか?
「俺達にそんなもの用意できる訳ないからっスか」「そうだよ」
その後ろで、顔を見合わせたシャリーとフェティがクスクス笑っていた。
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