第百三十三話 セリグの覚悟


「おい、これはどういう事だ?。セリグのジジイじゃねぇか!」



そういって、セリグを捉えている牢の鉄格子に蹴りをいれる。「どうやら、そいつがフェティ様奪還を阻止したらしい」もう一人の兵がそう答えると、蹴りを入れた兵士がセリグを睨みつけた。



「全く、手間ばっかふやしてくれるな。もう退役したんだったら大人しく隠居しとけってんだ!!」


好き勝手な事を言っている兵士を見て、セリグは溜息を一つ零した。


(随分と軍の質が落ちているようですね。無理もない……)


犯罪者ギルドと組む様な軍がまともな訳もなく、兵士の質はセリグが居た頃と比べ目に見えて落ちていた。



(今頃、フェティ様は無事でしょうか……)



「問題ございません」頭の中にクレズの声が響く。


それに一瞬目を見開くが、すぐに無表情になった。


(どうして?)


「私はヴァレリアス系AIです、虚数空間を通じてその機能を提供する特性上。虚数空間の圏内であれば会話や機能の提供は可能です。マスター命じた制限と、エネルギーが許す範囲に限りますが」


それを聞いてセリグが、頭の中だけで溜息をついた。


(様々な人間が遺産を求めて、何万年もこの宇宙を彷徨って固執する理由が判りますね)

このAIだけでも、我々の何世代も先を行く。


「クレズさんで宜しかったですか?」セリグが小声で尋ねると、「かまいません」と短く帰ってくる。


「水を頂く事はできますか?」とセリグが尋ねると「出現位置を指定して下さい」とクレズが答えたので。「口の中へ、ゆっくりとお願いします。右手でこう叩くので、そしたら止めて頂けますか?」「畏まりました」



直ぐに綺麗な水が口の中に入ってくる、こうして飲まず食わずで吊るされているセリグにとっては何よりありたい。


「申し訳ございませんが、後一時間もすれば私の虚数領域圏外にこの艦が出てしまいます。他に必要なものはございますか?」と尋ねられ、「ズボンのポケットに、私がいつも持っている白い箱を出して頂けますか?」と小声でいうと確かに右ポケットの中に届けられたのを確認し。セリグが安堵の吐息を吐いた。



(この箱があれば……)



「ありがとうございます」とセリグが言えば、「お礼は必要ありません」と答えが返ってきて思わず苦笑いを浮かべた。


「後、セリグ様には嬉しくない情報かもしれませんが。艦長がかなりお怒りで、こっちに向かっています」「フェティ様もですか?」「プレクスのメンバー全員です」


それを聞いて、鎖でつながれているセリグが項垂れた。


「庇ったはずなのにそれでは、拷問よりこたえますな」

「判断しかねます」



(この機械のAIは、人の機敏には今一つか)



「では、最後にクレズさん。伝言を一つお願い致します」

「どのように伝えましょうか?」



非常に小さな声で、細心の注意を払いセリグは呟く。



「私は、無事です。そうお伝え下さい」

「承りました、必ずお伝え致します」



そういうと、クレズの声は聞こえなくなった。



(道具もある、憂いも断った)


「後は、覚悟だけか」


セリグは、上半身を傷だらけにしながらも。

眼の光は消えることなく、鉄格子の向こうを見つめていた。

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