第百三十二話 守りたいもの
病室の窓が全て割れ、中に催涙ガスが投げ込まれた。
セリグは咄嗟に、自分が寝ていたベッドの下へ逃げ込むとフェティの頭を押さえて体を低くし。シャリーもその場で頭を押さえてしゃがみこんでいたのをセリグがベッドの下に引っ張り込んで人差し指で静かにするようジェスチャー。
シャリーは両手で口を押えると、ゆっくり頷いた。
(してやられました……)
セリグはベットの下で素早く算段を考え、一つの決断を下す。
素早く、小さくクレズさんおられますか?と呟くと「はい」と答えが頭の中へ帰って来た。
「シャリー様とフェティ様をお願いしても良いですか? 響さんに、二人の安全を確保してから取り出す様にお願いして欲しいのです」「かしこまりました」
有無を言わせず、シャリーとフェティをクレズが収納し。セリグは安堵した。
「これで、最悪でも連れて行かれるのは怪我をした哀れな老人が一人。何も問題はありません」痛みで脂汗をにじませながら、ベッドの下でそんな事を呟く。
(本体が無いから、投げ込む人と取り出す人がそれぞれ出口に居ないと使えないとクレズさんは言っておられましたが十分過ぎますね。アナタの好きにはさせませんよ、神威)
※※※※※
「セリグさんがさらわれちまった!」
慌てて走って戻ってきたが、時すでに遅く事は全て終わったあとだった。
頭を抱えるモブに、しきりに謝る病院の警備担当。
「どうするんスか!」そう尋ねる響に、モブが拳を握りしめながら「取り返すに決まってんだろ、俺達の飯がまた元通りインスタントに戻っちまうだろが!」
呆れたように響が溜息をつくと、そうっスよね。艦長ならそう言うッスよね……と苦笑した。「響様、セリグから伝言です。フェティとシャリーの二人を預けましたので周囲の安全を確認した後に取り出してあげて下さい」だそうですと頭の中に響いて来てモブと響が慌てて少女二人を取り出す。二人はキョロキョロしたあとで、セリグさんは?と尋ねるが首を横にふった。
顔を覆って泣き出すフェティ、響とシャリーが背中をさする。
怖い顔をして、歯ぎしりしているモブ。
「おい、響」「何スか、艦長」「取り敢えず、フランと合流すっぞ」
モブがそう言った瞬間「その必要はねぇ」と病室の入り口にフランが立っていた。
「フランさん!」モブが怖い顔をしたまま「すまねぇ、セリグさん連れてかれた」とこぼす。
「あぁ、こっちもちょっと立て込んでてな」すまねぇと頭を下げるフランに、気にすんなとモブが短く言った。
フェティが少し嗚咽を残しながらも落ち着いて来た頃、警備の人にすまないが退院手続きしてくれ。患者がいないから、代理ですまないが。
モブがいうと、警備の方も自分達に落ち度がある為。機敏に書類を用意し、つつがなく手続きを終えた。
「クレズ、セリグさんの現在位置は判るか?」「はい、まだ虚数領域からのアクセス維持範囲内ですので。ただ急ぎませんと、アクセス維持範囲をでてしまいます」
モブがあとどれ位だ?と尋ね、今の速度なら約二時間で圏外ですと解答した。
その言葉に、フェティの眼に力がこもりモブの方を見た。
「おい、響」いつになく真剣な顔のモブに、思わず響の方も真面目な顔をモブに向けた。
「俺が一時間で飛べるようにする。トイレ以外コクピットから一ミリも動くな」
了解っスと答え、フラン疲れてるとこ悪いが俺らはすぐ飛ぶ。どうするよ?と尋ね、シャリーがフランの方をバッと勢いよくみた。
「お前らバカか、お前らだけじゃ追いつく事はできてもコックを取り返せねぇだろが。俺も行く」
じゃ、響同様コクピットからトイレ以外で動くなというと頷いた。
モブが、シャリーとフェティの方を向くと視線を合わせる為にしゃがんだ。
「なぁお二人さん、悪いんだが。前と同様、力を貸しちゃくれないかな?」
そう尋ねるモブ、シャリーとフェティがお互いの顔を見て頷くと「「もちろん」」と笑顔になった。
「クレズ」「はい」「セリグさんの位置を、なるべく詳細に響に伝えつづけろ」
手続きを終わらせると、足早に病院を出てそこからはプレクスに向ってモブが走り出した。
その様子をフランが見て、ぽつりと零す。
「いつも、あ~いう顔してりゃいいのにな」響も両手を頭の後ろにやりながら苦笑して「無理いうもんじゃないっス、ありゃ相当頭にキテるっスよ」
ちゃっちゃと行かないと、置いてかれちゃうッスよ。それだけ言うと響達はプレクスまで移動を開始した。
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