第百三十一話 塔(バベル)
モブは、穴があいたセリグの代わりの服をプレクスから取って来た後。セリグが入院している病院にやってきた。
(まぁフランの事だから、俺達よりは心配ねぇんだろうが……)
病室で、セリグの右手をしっかりと両手で包むように握りながらフェティが俯いていた。横にあった花瓶に、行きがけに買った花をさし。紙袋に入れたセリグの服を病室のベットの横にある引き出しにしまう。
フェティに声をかけ、セリグの眼が覚めたら着替えを渡して欲しいと頼む。
モブは、病室をでると真っすぐに一階の売店に向いコーヒーを二本。ココアを二本買うとセリグの病室に戻って来た。
「ほら、フェティ。シャリー」買って来たココアを二人に渡すと響には自分と同じコーヒーを渡した。
珈琲を一本ゆっくり飲みながら、壁に背を預けてモブが考え込む。
「艦長、どうしたんスか」「あぁ、少し考え事をな」
(フランがセリグ同様狙撃された事は黙っておこう)
シャリーと、フェティがモブの方を見るがいつもより怖い顔をしているモブがコーヒーを飲んでいて話しかけられる空気じゃないと顔を見合わせた。
(こっちには遺産に通じる武器が無い、通常の兵器なんかあったって現代の中型艦以降には通用なんかしやしねぇ……)
「セリグは大丈夫なんか?」「医者が言うには、気絶してるだけみたいッス。肩を綺麗に貫通してるから動かさなければ確実に治るそうっスよ」
良かったなとフェティに声をかけ、フェティも頷いた。
「これから、どうするんスか?」と響が尋ねるが、その問いに対する答えをモブは持っていない。「判んねぇ、ただセリグの意識が戻るまでは入院させてぇ。俺としちゃ怪我が治るまで動かしたくはないが、本人の意思ってものを確認もせず、俺が言うのはおかしいだろが」「そりゃそうっスね」
フェティとシャリーがモブの言葉にうなずく、響も異存はないッスと答えた。
「問題は、あのラミアムッス。あの距離だとプレクスで飛んでも追いつけず逃げられるっスよ」「判ってる、あいつが居る限り俺達は街も歩けやしねぇ。バリアが無く空が空いてたら狙われるって事だからな」
(せめて、ライブラリが開けられりゃワンチャン何か手掛かりがあるかも知れねぇ。だが、リスクがデカすぎる)
「おい、クレズ」「はい、艦長」「答えられるだけでいい、俺と響に敵が使ってた兵器の情報をくれ」
「かしこまりました」直後にラミアムの使っていたナイトメア系の狙撃銃のデータがどうゆうモノかを知ったモブと響は今飲んだばかりのコーヒーを胃液ごとはいて慌てて口を押えた。
(あの二人には伝えなくて正解だった)
我ながら不幸中の幸いだったと、モブがちらりと横をみれば響がまだ洗面台に向ってげーげーやっていたので背中をさする。
幾ら強い兵器でも、そんなもん人が使うもんじゃねぇ。モブがロストテクノロジーが何故自分達の時代に遺産でしか残ってないかうっすらと見えた気がした。
「なぁ、クレズ……」「はい、艦長」「お前、創造主に疎まれたっつってたな」「はい」「もしかして、ヴァレリアス博士ってなぁ。戦う事も戦争も嫌いだったのか?」
しばらく、沈黙した後アンリクレズは応えた。
「はい、この宇宙で最高の頭脳を持ち、AIである私など遥かに凌駕した天才である博士は生涯で武器と呼べるものは二つしか作っていません。昔の人間はナイトメア系兵器で戦争していたのです。力におぼれ、力を求め続け自分達以外は全て犠牲になっても良いと戦争に明け暮れた……。それを何より悲しみ、怒り、そして博士は力には力で対抗してしまった。そのうちの一つが私、セブンス。そのAIアンリクレズです」
宇宙中のナイトメア系兵器は量産され、その燃料になる人間は脳みそに穴をあけられ。判断力すら奪われ、弾や燃料として使われた。
しばらく、眼を閉じ急に洗面台のガラスを拳で勢いよくモブが叩き割る。
「その、生き残りや残骸が俺達艦族が探してる遺産の正体か?」
「はい」
それを聞いていた、響がモブの拳をみればモブは叩いた拳を血だらけにしながら怒りに震えているのが判った。
「クレズさん、もし俺達がそいつらを壊して二度と使えない様にしたいって言ったらどうするっスか」「アンリクレズは、マスター響の相棒として道具として全力を尽くします」
私にとっては、響様がお求めになる事は全てに優先されます。
「そうっスか……」「創造主であり、我が母であるヴァレリアス博士はこう言っていました。アンリクレズ、お前を生み出した私を許しておくれと。この世でもっとも争いと兵器を嫌う私の人生二番目の傑作が兵器であるとは何と皮肉なんだろうかと。兵器を愛する事は私にはできないと」
その言葉に響とモブが、顔を見合わせた。
「やっぱりな、アンリクレズ。博士はお前を疎み切れなかったんだ、だから壊さずに分けた」
アンリクレズは沈黙し、響が頷いた。
「俺達の当面の目標は、セブンスの完成だ」モブは決意した表情で言った。
「クレズ、倉庫、ライブラリ、AIが今の手元にあり。無いのは笛、錬金塔、女神、本体で間違いないんだな?」「はい、間違いありません」
「錬金塔があれば解決するって言ってたな、説明しろ」
「本来、セブンスにとってクマドリはガードに使うものではありません。だからこそ、燃料消費もかなり抑えられているんです。だからこそ、AIと倉庫だけの私でもある程度展開する事ができている」
その言葉に、二人は?を浮かべた。
「まてよ、主砲を防げる程の防壁がガード用じゃない?」「はい、クマドリの本来の使い方は負荷軽減です」
例えば、ギアでも油をしみ込ませてギアを回す際に歯のかみ合わせ部分で空気が抜けて摩耗します。あらゆる、摩耗を一切させないためのエネルギー体クッションが本来の使い方なのですとアンリクレズは説明した。
錬金塔があれば、カセットジャンプや私の燃料を創り出せるようになります。
そうすれば、自然回復に頼らずすぐに燃料をチャージできるようになります。
もっとも、ライブラリで技術を習得してからになりますが。錬金塔は、ロストテクノロジーの全てを創り出せるような設計になっています。もちろんナイトメア系もヴァレリアス系もです。それ以外の現代のものも作れます。いわば、工場と道具群の様なものですので。
ただ、道具は道具なのでそれを使う技術や人は別ですと語るクレズ。回答を繰り返し、忘れていそうなモブに丁寧に伝えていく。
「つまりこういう事か、俺達が持ってない笛が武器、錬金塔が工場、ライブラリが英知のアクセス権、双子の想像はつく。じゃ、本体ってなぁなんだ?」
「私の本来のボディです。私の能力を本来の能力に引き上げ、セブンスの虚数空間の殆どを司り、ヴァレリアス系の性能は保持する虚数空間の広さによります」
モブが響を見ると、響もようやく話が見えて来たのか何度も頷いた。
「俺と響の技術力で、錬金塔を使えばどんなピンチにも道具を作って対処できる。クレズはそう言いてぇんだな?」「その通りです、艦長。それならば、他のモノが一切揃わなくても対応可能です」「お前は、自分の体を無くしたままでいいのかよ」
「私にとっては、些末な事です」
眼を見開く響。そして、モブがよく判ったと真剣な顔で言った。
病室に二人が戻ると、セリグの意識が戻り体を起こしている所だった。
「調子はどうだい?」「痛みはしますが、大丈夫です」「そうか、これは確認だが。俺としちゃ治療が終わるまで病院に居て欲しいんだが」「ありがとうございます」
フェティにも笑顔が戻り、シャリーと響がフェティに良かったねと声をかけた。
全員に、平穏が戻ったと思ったその時。セリグの入院している病室の窓ガラスが全て爆音とともに割れた。
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