第百三十話 獣より険しい道を

「ちぃぃぃぃぃ!」間一髪で狙撃を躱したフラン、上空を睨みつけるも青空が広がっていただけだ。


「どうした!」「狙撃を一発貰っただけだ、問題ない!」それだけ言うと通信機を切った。


(モブの野郎は、病院にセリグの服を届けるはずだ。フェティもシャリーも響も、病院にいるうちは安全な筈。狙うとしたら俺かモブだが、こんなんじゃおちおち外も歩けないじゃないか)



ポケットに手を突っ込むと、少し前に貰ったパズルがあったので指で少し何度かスライドさせると落ち着きを取り戻す。


近くにいりゃ斬れるんだろうが、生憎と俺は銃は専門外だからな。


(姿が判っているだけにムカつく)


単発とは言え、二十一万の距離から撃ってこれるならこれからも外歩きゃほぼ狙われるって事じゃねぇか。


パズルから手を放すと、セリグが入院しているであろう病院の入り口を確認した。


(俺の方だけ狙ってくれるなら、まず大丈夫だろうが。モブの野郎はそこまで運動神経はよさそうじゃないからな)



ふと、いつもだらしなくコタツで丸くなっている猫の様なオッサンの姿を思い出す。

猫と同じくらいに愛嬌はあるんだが……と考えた所で頭を振った。



とにかく、こっちから出向いて叩くか?

一瞬考えるが、それにはモブと響がうんと言わなければならない。


今のセリグは、肩をやられて病院から動かすわけにはいかない。

どうすっかな……、フランがそれを考えている頃。



一方、その頃。

アラネアの方も、作戦を部下に伝えつつ。スコープから眼を放し大きく息を吐いていた。

「あれでもダメなの?」今回はもっと距離をあけて防御衛星の一つに陣取り、限界までエネルギー反応を無くしてから挑んだというのに。


撃鉄を起こすと、赤子のものであろう心臓と脳が煤けた色になって宇宙に消えていった。

「弾を一つ撃つのに、人間の内臓一個と引き換えか……」ナイトメア系の兵器は強く勝利をもたらしてくれるが悪魔の兵器には違いない。


バイオ炉などで内臓だけ作り出した所で、この悪魔の兵器はうんともすんとも言わないのだ。最近ではこれに食わす人を牧場飼育する為だけに惑星ごと押さえている。神威や犯罪ギルドのやり方には、思う所が無いわけでもない。しかし、アラネアはこれ以上の結果を出せる兵器群をしらない。勝てない軍人など存在意義すらなく、自身の命さえ守れやしない。


だから、悪魔の兵器と知りつつ。魂を売ってでも、これを使い続けているのだから。


「悪魔の兵器を使わず、無双の力を持つ傭兵ね……」何処までも存在自体が神経を逆なでしてくれるじゃない。


私にもあれ程の才があれば、拳をぎりりと握りしめ。歯ぎしりし感情をあらわにする。

宇宙空間で暖房も限界まで弱めているので、顔は青白くなっていた。


外から狙撃で警戒させ、裏から手を回し。セリグを先に負傷させ、病院内で男一人で守れるかしらね。


病院は確かに、防壁が張られている。だから、狙撃からは身を守れるかもしれない。

でも、それはブラフ。あくまでも目標は、フェティ様の奪還で殺しではない。


すぅ……と息を吸い込み、大きく吐き出すと白い息がコクピットに消えていく。


眼が無く、大口を開け牙が幾つも並んでいるような。真っ白なタツノオトシゴに血管が浮き出ている様なデザインのラミアムに持たせているナイトメア系狙撃銃ジューラソ。


口の中に銃口があり、ラミアムと一体化していて。命を喰う度に血管がうねる。

強化兵に担いでいる様に持たせ、足がスコープや撃鉄などの機構になっている。


ナイトメア系は、気色悪いデザインのモノが多い。



アラネアは無表情で、その銃をチラリとみてポツリとこう言った。

「本当、私のは最低の相棒ね」


そういうと、また新たに宇宙に泣き叫ぶ声を響かせながら。狙撃銃の中に詰められた人間が生きながらねじ切られ、その絶叫の声と人体がミンチになる音がコクピット中に響いた。

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