第百八十二話 それぞれの戦場

一方、セリグとフェティはというと。二人で買い物に出かけていた訳だが、連絡を貰ってからはセリグが「仕方のない人達ですね」と苦笑した。一方、フェティも「いいではありませんか」と優しく微笑む。



セリグは、不時着で大き目の隕石にへばりついていたプレクス内でモブと響の凄腕なんだが緩い二人の空気感に助けられていた。


(あの二人のおかげで、フェティ様もシャリーさんも閉塞感というものを感じずに済んでいると考えれば悪い事だらけでもありませんね)


食料はかなり目減りしており、キッチン担当としては早急に買いに行かなければと考えていた。「フェティ様、ここ数日メニューが偏ってしまいもうしわけありません」「お城で大分好評でしたから、仕方がありませんよ。しかし、セリグが作っていると誰も気がつかないとは……」「嘆かわしい事です」



俺は、気にしていませんよとセリグは肩を竦めた。



「私は、随分と世間というものを知らなかったのですね」フェティはセリグの隣で寂しそうにいうが、セリグは「フェティ様は、まだお若いのです。失敗も成功も知らない事を知る事もこれからです。もちろん、俺ぐらいの歳になってまだその加減も判らない様では恥ずかしい事ですが」「そう言うものですか……」


フェティは少しだけ、顔が上を向いた。


「あの、プレクスという艦は、金こそありませんがまだ恵まれています。船員どうしの争いもなく、節約もほとんどせず。酸素や水といった一番争いの元になる様な部分がほぼ無尽蔵」元軍人として、どれ程羨ましいと思ったか判りません。恐らくはフランさんもそうなんでしょうと遠い眼をした。


「神威はギャラルホルンを知ってしまった。あの小物は、必ず大量のナイトメアを差し向けてきます」フェティはセリグの横で深刻そうに言うとセリグも頷いた。



「ギャラルホルンは確かに強い、しかし今のままではじり貧です」

「そうですね」フェティも、内側からプレクスを見ていたから判る。今までもすれすれを生き抜いている。


「どんな、素晴らしい遺産をもってしてもそれを使うのは人。そう言う事なんでしょう」「私も含め、人は何処までも愚かという事ですか」「自分が愚かと判っている人間はまだマシな部類ですよ、フェティ様」


二人で買い物をしながら、ふと自分が歩いている大地が眼に映る。砂ぼこりが舞い、人の活気がある田舎の星の風景が優しい空気をつくり出していた。



二人は親子の様に並んで歩く、二人にはこの幸せな時間は長くないと何処かで判っていた。デメテルに戻れば王と臣下、もう二度と並んでは歩めない。


「私は、最近王族になど生まれなければ良かったと思っています」フェティのその言葉に、やっぱりですかとセリグも頷いた。


「しかし、もうデメテル王家の正当な血筋は貴女様しかおりません。貴女が王でなくなる為には貴女の子が王になるしかない、それとも出奔しますか?」それは、セリグのせめてもの優しさ。


フェティも「出奔先がプレクスならば、真剣に検討したいですね」と冗談にのった。

「私は、後継者を指名してからさることにします。国民に対し申し訳がない、神威の様な人間の屑ではなく。せめて、デメテル国民の幸せを第一に考えられるような後継者を……。セリグ、貴方がもっと若ければ一番良かったのですけれど」


「年齢は、人間の努力ではどうにもなりませんからな」「それが何とかなる様な遺産とかないものでしょうか」セリグは寂しそうに空を見上げそしてはっきりと言った。



「その様なモノが仮にあったとしたら、もうそれは技術ではなく魔法の類です。幸せに生きているのならばともかく、喉に管を通し無理矢理心臓を動かし、人を辞めてサイボーグやAIとして生きる。それは果たして、人として生きていると言えるのでしょうか?。それは人としてはもう死んでいると思います。冷酷にいうのなら、もうそれは死ぬべきだ」

セリグは、元軍人で死と長年隣り合わせに居たからこそ。死を引き延ばすよりも、今この時を全力で生きる事が尊いと思う。


「人の温もりは、機械では再現できませんか」「そういう事です」


買い物をしながら、ゆっくりと二人は歩いていく。そして、港に泊まっているプレクスが見えて来た。


クレズの袋にも大量につめこんだが、どこかそんな気持ちを味わいたくてセリグもフェティも小さな袋を持って手を繋いで。


連絡を貰っている以上、今日は二人で夕飯を食べる。セリグが、どうしましょうか?と笑顔で聞けば。フェティは、コンソメスープがいいわと答えた。


「どうしてですか?」「貴方が最初に私に仕えた日に、貴方が出してくれたメニューじゃないですか。擬態でも今は親子というカバーストーリーなのですから、記念に食べるものは想い出にあるものが望ましいと私は思います」フェティのその言葉に。


「あの時は具無しでしたが、今日は買い物後です。具だくさんにしますよ♪」

その言葉に、フェティは楽しそうに笑った。



それぞれの場所で、人はそれぞれの想いを胸に戦う。

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