第百八十三話 かすかな手がかり

マクフォス星で、艦族らしく仕事にいそしんでいたモブと響だったが相変わらず、こうした小さな港町での仕事と言えば酒場のウェイター等になる。


必然、キツイくて給料が安いからこそこの手の仕事は不人気な訳だが。だからこそ、必然応募申請し、信用さえあれば採用してもらえる。


「は~、きっついな!」「キツイから仕事が売れ残ってんス。そんで俺達みたいなはみ出し者に回ってくるッス」休憩時間にこうして壁にもたれ掛かってへばっているという訳だ。


それに引き換えシャリーはというと、店の値段を覚えたり。メモを休憩時間に読み直したりしていた。その様子をみて、顔を見合わせる二人。


「俺達もへばってる場合じゃねぇな……」「シャリーちゃんが頑張ってるのに俺達はサボってたなんて言われた日にゃ何が起こるか想像したくもねぇッス……」


うぇっと舌を出す様なリアクションをした後、よろよろと立ち上がり腰をさすりながら後半に備える。実際の所、響のアンリクレズは店の注文等も瞬時に記憶。整理整頓しつつ、必要な情報を響やモブに提供。シャリーにもその情報共有をしようとした所、本人たっての希望でシャリーが困った時のみの情報提供に留めている。


本人曰く、艦族はこうして色んなアルバイトをしながら宇宙を旅していくんでしょ。アンリクレズは響さんの相棒なんだからなるべく力を借りずに頑張りたいのなんて笑顔で言われたからだ。


最近は目や肩や腰の治療にも、女神の機能を利用している二人と比較し。セリグもフランもシャリーの頑張りを関心していた位。


特に、酒場というのは情報を買わずに情報が集まってくるという意味では穴場で。しかも、シャリーの様な可愛いウェイトレスが頑張っていれば流行らない訳もなく。


「シャリーちゃんだけでも、艦族辞めてうちで働いてくれないかな~」なんて噂になる位だった。そんな中で、アンリクレズが記憶した噂の中に『遺産にかんするものが幾つかあったのだ』。ただ、少し前にナイトメアにやられたプレクスはまだ修理が終わっておらず。今後の事も踏まえて、物資を買い込むべく。平日労働、休日修理を繰り返す日々を送っていた。


もちろん、フランは傭兵の仕事をこなしていて。最近では、傭兵ギルドにシャリーが出前に行っても道をあけて笑顔の対応をしてもらえる程度にはなっているらしい。初日にフランにぶっ飛ばされた奴は、ほぼ舎弟と化していた。



「ともかく、物資ため込んで。プレクス直さないと俺達はにっちもさっちもいかないッス」「そうだな……」「俺達二人でやってた時と比べて、戻ったら布団がふかふかでちゃんと飯があるんだからめちゃくちゃ良くなってるっスよ」


帰って、絶望的にマズイインスタントや保存食とかをこの世に恨みつらみを述べながら食べていた日々を思い出し。何度でも立ち上がる雑草の様に、「あれよかマシだな」「そうっス」と二人で納得し合っている。実はシャリーも一度だけ、その保存食を試しにもらって食べたのだが女の子がしてはいけない程真っ青になって口を押えながら走って吐いて水を求めてしまった。



シャリーは、保存食を食べたくないから、俺は頑張って副業やバイトするんだよとモブに説明を受けた時。その保存食を自分も最後まで食べたくないと思ったからこそ、こうして気合が入っているという面もある。



(私もあんな風になりたいな)



「取り敢えず、銀河系で四つ行った所にそれらしい遺跡があったってもっぱらの噂だ」

「そうっスね……、シャリーちゃん。修理が終わったら、また飛ぶ事になるッス」


「うん、でもそれまではまだだいぶかかるから。お店の方を頑張るっ♪」

最近はシャリーも徐々に、モブの手伝いでプレクスの修理を手伝っているからこそもう少し時間がかかる事は判っていた。



「どの道、まだかかんぞ」とモブが言うと「なおるまでこの重労働が続くだけっス、それで良ければ幾らでもかかってもいいっス」と響が答えた。


シャリーは、それをふふっと笑った。


毎日、汗だくになって働いていると。こういうのも悪くないなと思えてくる。

「私も、かかってもいいわ。だって、楽しいしモブさんも命を預ける艦なんだからきっちりやりなさいって教えてくれたしね♪」「シャリーちゃん……」「一本取られたッスね」

「おいっ! いつまで休んでんだ!!。おっとシャリーちゃん、君はもう少し休んでても良いんだよ。オジサン、休憩中も一生懸命店の事覚えようと頑張ってるの見てたからね」

オッサンの店長がウィンクしながら笑うと、後ろの二人がぶ~ぶ~と文句を言っていた。「お前ら、少しはシャリーちゃんを見習えってんだ……」それだけ言うと、店長は部屋から出て行った。


結局、三人とも直ぐに後半の仕事を始める。

ここ最近は、ずっとこんな感じの日々が続いていた。


(こういうのも、悪くないかな)


シャリーは、ここ数週間ずっとそんな事を思って過ごしている。



そして、日々は過ぎ去り。新たに宇宙に戻る日がやって来た。

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