第百八十四話 遺跡を向けて
「やっと、宇宙に戻れるぜ」そういって、コクピットで操縦機器を布で拭きながらモブが言うと「シャリーちゃんに感謝するっスよ」「わ~ってるって」と答えた。
「さてと、俺も大分稼がせてもらったしな」「あれ? 傭兵の仕事なんてあったっけ?」フランが呆れたように、「あのなぁ、娘が汗水流して働いてるのに俺だけ酒でも飲んでろってか」というと僅かに頷いた。
「お義母さん、傭兵ギルドで凄く頑張ってたのよ」とシャリーもフランが仕事を受ける時に討伐系の仕事を端から端全部くれみたいに受注していて、全部こなしてはギルマスが壊れた玩具みたいにありがとうございますを繰り返す人形になっていた事を説明していた。
「ちなみに、何を狩ったんだ?」「ん? シルバーレプーンとか、ランモリとか、後はヴゥランとかだったか……」指を折って数えるフランにモブと響が端っこに行ってこそこそと壁際に行く。
「おい、ランモリって最低でも八メートルあるあれだよな?」「強すぎて、傭兵でも避けて通る様な奴っス……」「ヴゥランっていや、最低でも三百位の群れになって襲ってくるあれだよな?」「そんなちょっと帰りに居酒屋行って来たみたいなノリで倒せるような相手じゃねぇッス」
「何を二人でこそこそやってんだ?」「あ~、ちょっとした確認なんだが。傭兵ギルドの連中と討伐したのか?」その言葉にきょとんとした顔になると「俺は基本ソロだが? まぁ娘がついて来たいってなら俺としちゃポリシーを捨てる事もやぶさかじゃないが」
また二人で壁際にいくモブと響。
「あれをソロだってよ……」「あんなんについてったら、命が幾つあっても足りねぇッス」
「お義母さん頑張ったんだよ~♪」シャリーの笑顔が眩しい。
(頑張ってどうにかなるもんじゃねぇっスよ)
(絶対、シャリー知らねぇよな)
(知らない方が幸せな事だって世の中にはあるッス)
以上の会話を目線だけで行うモブと響。
「あ~、俺達は艦族のフランは傭兵の仕事頑張ったって事で宇宙上がったらまたゆっくりやってくれや」「そうさせてもらうよ、いや~やっぱ両手があると討伐が楽でいいな!」ふっと男前に笑うフランにモブと響の顔が青くなる。
(そりゃ、片手でナイトメアの強化兵とまともにやれる筈ッス)
(なるべく、穏便に行こう穏便にな……)
(艦長の方が、可能性高いんッスから気をつけて下さいよ)
再び、視線だけで意思を交わす二人にシャリーは内心で。
(相棒って視線だけで、判り合えるんだ……。やっぱりいいな~)と思っていた。
「荷物はばっちりです」そこへセリグがやってきていうと「応、んじゃテイクオフと行きますか!」モブとシャリーが各計器をチェックする。宇宙空間と違い、大気がある場所の離陸は基本的にプロペラ機と同様の動きで機体を持ち上げているプレクス。
緊急回避の様な動きは機体に負荷がかかりすぎるので、普段はなるべくやらない様にしている。推進機の中で羽が回転し、正転するプロペラと逆転するプロペラがそれぞれ空気を押し出していく。歴史の中には、爆撃機でありながらプロペラ機で千キロ近い速度を出す戦闘機もあった訳だが、プレクスは宇宙船と兼用でありながらもう少し足が速い。
宇宙空間でも千三百キロ以上で飛行可能ではあるが、負荷を押さえる為やジャンプを駆使し艦族共有のワープを利用するなどして移動しているし、プロペラを止めてエーテルジェットの様な推力で飛ぶ事もある。場所に応じて、全てを変える事で色々な場所に対応しているのである。今回の星は、計器を見る限りプロペラで大気圏まで上がりそこからエーテルに切り替えていく方がよいと判断した。
いつぞや、別の艦族が何でエーテルエネルギーが余るんだと文句を言っていたが何の事はない。
エーテル推力を使っている時しか、エーテルは減らないのだ。
それを更に、節約して飛ぶのである。
結果として、燃費が普通の艦よりも遥かにいい。
「さてと、遺跡があるのはチエロキーだったな」「うっス」「遺産、あるといいね♪」「そうだな、遺産探すのが艦族だもんな!」
徐々に小さくなっていく、港町をちらりと見るフラン。
「どうしたよ」「何でもない」何か迷いを吹っ切る様に上を見上げる。
(街に降りる度に、シャリーと二人どっかの田舎で暮らす夢を見る)
でも、肝心の娘はきっと宇宙(そら)に行きたがる。
こんなに楽しそうな娘に、つまらない田舎暮らしなんて……な。
(そりゃ俺のエゴってもんだ、ついて来てくれるかもしれないがきっと未練が残る)
「一瞬、酒買い忘れたかと思ってな」「酒屋二件分も買い占めたじゃねぇッスか、クレズさんにリスト見せてもらった時は驚いたっス」「感謝してるよ」
響の肩をぽんと叩くフランに「買い忘れはねぇッス、足りないかもってなら足りなくなってからどっかに寄るッス」「そうだな、そうしてもらえると助かる」
徐々に、黒い空が見えてきて。宇宙に、プレクスが出ていく。
「さてと……、ほんじゃ自動運転にして休みますか♪」そうモブが言ってコクピットの席を立とうとした瞬間にプレクスが震度五の地震の様に揺れた。
「どうなってんだ!」「防ぎましたが、攻撃を受けました」叫ぶモブにクレズが冷静に答える。「どっからだ!」「十一時方向、距離約九千と推定。次の攻撃も幾つか飛んできています」「!?」
こんな小さな艦に狙ったタイミングで当てられるなんて、心当たりは一つしかない。
「俺の休みは?」「ある訳ねぇッス! さっさと座れッス!!」「デスヨネ~」
がっくりと肩を落として、とぼとぼと自分の席に座りなおすモブ。
「シャリーちゃんにギャラルの操作権を二つ渡して欲しいッス」「かしこまりました」
「艦長、しぼんでる場合じゃねぇッスよ」それだけ言うと、自身も席に座ってクレズからデータを受け取りながら対策を考える。
「シャリーちゃん、艦長が死ぬ気で逃げるんでケツだけ守って欲しいッス。前と横は俺がやるッス」「了解!」シャリーも任された事に全力を注ぐべく席に座る。
流石に、そこまで行くとモブが半分切れ気味に叫んだ。
「さっさと逃げ切って、俺は休みてぇんだ!!」
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