第百八十五話 人は何処まで立ち向かえるのか


「ナイトメアは全部で何機居やがる!」

「距離約十一万に三機、距離七千に一機、距離十八万一千に二機の合計六機」


「クレズさん、種別は判るッスか!?」

「十一万の位置に、四百メートル級ヒミコと八百メートル級インソロア、二百メートル級ヤンカシュ。先程攻撃し尚も距離を詰めてきているのが強化兵装高機動型オレルビス、十八万一千の位置に一キロ級ルぺルデ、巨大機械惑星型デョルハーサです」



「クソッタレ!!」「マシなのは、離陸した後だって事位ッス」思わず、手に汗が滲むモブ。「つめてきてるオレルビスの速度教えて欲しいッス」「音速、一・三です。尚も加速中」


響がそれを聞いて頭を掻きむしる「だ~、宇宙空間で移動が音速って中の人間どうなってるんスか!」「オレルビスは人間の脳だけを何百人分もコクピットに搭載してその肉体を培養した細胞で飛ぶ兵装です。その心配は不要かと」


それを聞いて、モブと響の奥歯が軋む音がコクピットに響いた。



「何処までも胸糞悪い兵器だなぁオイ!」「人の命なんだと思ってんスか!」

そうは言っても、こっちの燃費が悪すぎる。


攻撃は今の所距離減衰のおかげもあってクマドリで防御出来ているが、当たれば先程の様に姿勢制御に問題が生じる。立て直してもたもたやってたら巨大機械惑星型のデョルハーサとやらが来ちまう。そうしたら、間違いなく小型艦ではハチの巣になるのが眼に見えてる。少し前にフュージョンという兵器だけでズタボロにやられた事を思い出し、フランも指をトントンやりながら考えこんでいた。



モブが顔を両手で叩いて、直ぐ叫ぶ。「アホの俺が考えたって仕方ねぇ! シャリー! 響! 俺はお前ら信じてプレクス飛ばすだけだ!!」


(全推進機フルパワー)


八個の推進機が今までの静音が嘘の様にまるで軽自動車が無理に山に登らされている様なうなりをあげた。プレクスの艦内がまるで、寝起きに水でもぶっかけられた人の様な悲鳴が如くビリビリと小刻みに揺れている。


「ちょっと、艦長。これ大丈夫なんスか?」「あぁ、ライブラリの技術を使ったニューバージョンの推進機だ。死ぬ気で直すついでに改修しといて大正解だったな」


そういって、フルパワー用に計器類が全て回転。新しい計器類が出て来たではないか。


「俺達はな、ザコだけど。逃げ足と生き残る事だきゃ宇宙一なんだよぉ!」ヤケクソ気味にそういうと一気にべた踏みしながら、プレクスが一気に加速する。


デジタルメーターが一気にレッドまで振り切れて、一気に加速し一瞬で七百キロを越えた。その加速に、響とセリグが別々の驚きを隠せない。


「全くGを感じねぇッス……」「何という加速……、これが本当に人が乗れる宇宙艦の速度なのですか?」


フランだけが冷静に、「これそんなに続かねぇだろ」それにはうっとなるモブ。


「プレクスを保護する機構がまだ完成してないから、クマドリで保護してる間しかつかえねぇ」それを聞いて、フランが苦笑した。何処まで行っても、どれだけ凄くなってもプレクスは燃費と戦う羽目になっている。


「敵オレルビス、更に加速プレクスに接近中」「クソッ、これでもまだついてくるんのかよ」「プレクス、現在音速五まで速度上昇」あの僅かな間に攻撃をよけながら爆発的な加速を見せるがそれでも敵もさるもの。


響とシャリーはそれぞれギャラルホルンを追従させて、クリーンヒットされそうな攻撃だけを防いでいるが余りの高速戦に全く余裕がない。特にシャリーはこれがデビュー戦であるにも関わらずこの無茶ぶりである。



この速度であるにも関わらず、遠心力等あるゆる力を感じさせず切り返してあっちこっち曲がりながら攻撃を躱す。


(確かに、生き残る事に関しちゃ宇宙一だな)


さっきも、敵の砲撃が左翼の上と下を一センチ位の空間をあけて砲撃が抜けていったのが見えたのをフランが見て思わず片手で顔を覆いながら変な笑いが零れる。


(どこの世界に、そんな阿保みたいなよけ方して。それに命預けられるクルーが居るってんだ。そのアホの中に俺もいるんだけどな……)


「オレルビス、プレクス上方から砲撃来ます」

「うっそだろ! もう追いつかれてんの?」思わず悲鳴の様に叫ぶモブ。


素早く、上方の砲撃に響がギャラルホルンの般若モードを合わせ砲撃を防ぐ。

敵は今までプレクスの速度や旋回性能に振り回されてきたが、今回はプレクスがドッグファイトに巻き込まれている。


「上も俺が守るッス、さっさと限界までアクセル踏めッス!!」

「サンキューと言いたいが、さっきから目いっぱい踏んでんだなぁこれが!」


「響様、敵ヤンカシュもそろそろプレクスを射程内に入れる模様」

カセットのジャンプも視野に入れるべきか? いや、まだ早い。ギャラルホルンを支えるメインエネルギーの残量は視界に映してもらっている。まだまだ、やれるはずだと響は左親指の爪を噛んだ。


「取り敢えず、コーヒー頼むッス。セリグさん」「あっずるいぞ、俺も頼む」「あたしも、オレンジジュースお願いしてもいいかな?」


段々と色に染まって来たシャリーがそんな台詞を言うと、セリグとフランが思わず顔を見合わせ笑いだすと、「俺はコックですからね。ウマい奴いれてきますよ!」そういってキッチンに消えていった。フェティもその後をついて行って、どうやら手伝う様だ。



「まじでどうすっかなぁ……」そんな事を言いながら、モブが素早くプレクスを左回転させると距離によって順番に飛んできた攻撃が追いかける様に宇宙の闇を無数に走り抜けていった。



まだまだピンチは続く

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