第百七十三話 虚栄残景

※ディアムサイド




「クソ!」薄紫の髪を振り乱しながらサフィラは悪態をつく。デメテルの防衛衛星があぁも小型艦一機に手玉に取られている事も腹立たしいが、それ以上にあの艦の周りを浮いている真珠色のドラム缶の様なものにナイトメアの砲撃が弾かれている方がいらだちを増幅させていた。


ディアムの燃料は苦しみや怨嗟、艦内にはエンジンの代わりに人が獣の様な叫びをあげてそれがV十六エンジンの様な音量を上げている。生かさず殺さず、ただ何も教えず植民地から攫って来た人間が言葉も話せず悲鳴を上げそれを力にディアムは力を振るう。


血を絞り出すなどというのは生温い、まさに痛みや苦しみだけ与え管に繋がれた人間達の怨念をくらう。下は三歳から上は九十を越えた老人まで、正に悪夢(ナイトメア)の名に相応しい戦闘艦。今もう一人、六才の少年が管に繋がれる場面にサフィラが鋭い眼で速くそいつをディアムに繋いでしまえと激を飛ばしている。


「教育も、望郷の念も食い荒らし。与えるのは悪夢と苦しみのみよ!」サフィラにとってデメテル人以外の人間は人間ではない。だから、人間の扱いなどしない。人間に与えられて当然の権利など与えない。それは、徹底した選民思想でもある。


フェティ様が乗っていると知っているのでなければ、今すぐにでも灰に変えてやるものを!。それにしても、宇宙空間をマッハで飛び回っているのも気に入らない。


「早く、あのハエを撃ち落としなさい。たかが一機の小型艦じゃないの!!」「サフィラ様、あの艦絶対変ですぜ。まるでこっちの攻撃がどこ向くか判ってるみたいな動き方するんですよ」「おい、そいつを炉にほおりこめ!。我が軍にそんな軟弱な清新なものは必要ない」両手をまるで宇宙人の様に抱えられて、先ほどの少年の横の透明な筒に部下を繋ぐ。それだけで、先ほど口答えした同じ口で獣の様に叫びながら鼻と眼からおびただしい煙をあげながら涎と涙をまき散らす人形に変わった。



「プレトリアの使用許可をお願いします」「ヒュージョンの飽和攻撃か、良かろう。さっきの兵士とそこの一列、そうだそこの家族全員だ。全て燃やしてしまえ!」



まるで、上と下に人間が引っ張られて骨まで溶かされている様にドロドロに溶けて透明な筒の上下から液体になって吸い込まれる。その間もまだ生きているのか、呪いと怨嗟の言葉を人だったモノが吐き続けるがそれすら心地よいクラシックの様にサフィラは聞いていた。


兵士の中には口元を押さえるものもいたが、サフィラは高笑いしながらヒュージョンのエネルギーがたまっていくのを見ていた。


「くらえ!!」このナイトメアの側面全てが弾幕で埋まる程の砲撃を行う。


まともに喰らった、小型艦の推力装置の停止を確認した報告を聞くとサフィラがニヤニヤしながら「そんなハエと、このディアムを一緒にしてもらって困る!」待機状態にしておけと命じると頬杖をついてワインを傾けた。


だが、直ぐにハエと呼んだ小型艦は途中まで嵐に巻き込まれたこの葉の様に落ちていったはずなのに再び姿勢を戻してこちらに向かってきているではないか。


「どういう事だ?!」「敵、どうやらあの身を守っているドラム缶の様なモノを推力装置の代わりにしている模様!」(遺産か?面妖な)普通の遺産というのは戦艦なら戦艦以上の事は出来ない。そういう意味では組み立て式兵装ギャラルホルンの存在は余りにも常識の埒外。


「道理で、あんなゴミの様な小型艦が我がデメテル防衛網を抜けられるはずだ。遺産持ちとはな!」潰して、回収するぞと声高らかに吼えた。


「敵、先ほどの速度の倍の速度でこちらに向かってます!」「あれ程の速度では衛星は追いつけないか……。もう一度フュージョンを使う!。そこの娘達を五人燃やせ」


いつか、友達同士で歩いていただけなのに。攫われて管の中に入れられていく少女達、麻薬漬けにして抵抗すらさせず。仲良く死ぬことが理不尽に決まった瞬間だった。ナイトメアで燃やす場合、苦しんでくれさえすれば。薬漬でさえ問題なく機能する。


機能さえするなら、人を弾丸に変える事など現在のデメテル軍にためらいなどあろうはずもない。ナイトメアというのは、武力としてそれ程魅力的に強い。


フュージョンの動作音が聞こえ、あちこちで命のスパークが上がる。

同時に、生きたまま内臓を取り出され。最期の瞬間まで、意識が消える事無く最後まで苦しみを絞り尽くして悪魔の雄叫びが艦内にこだまする。



「もう一度喰らえ!、お前達を救うドラム缶はもう無い。ひじ掛けを左手で叩きながらフェティ様さえ無事なら問題ない全てぶち殺せ!」


それだけいうと、向かってくるプレクスめがけフュージョンの雷撃を放つ。先ほどと同じ圧倒的な数と面積で辺りを埋め尽くし。


「逃げ場はない、ふははははははははは!!」その高笑いは自信の表れ。ナイトメアこそが最強と信じて疑わないものの傲慢。



だが、ディアムは思い知る事になる。ギャラルホルンという兵器は、使い手によってどれ程にでも理不尽になれる道具だと言う事を。

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