第百七十二話 聖約
口に煙草のかわりに保存食を咥えたモブのギアチェンジの速度が正確無比に入る。そこからのプレクスは、甘さを捨てると言っていた宣言通り。否、それ以上の回避力を見せた。
まるでそれは、全弾を躱しきって見せると言わんばかり。曲芸などではない、正にそれはセリグやフランからみればまだ上があったのかと驚愕の動き。
先程も一瞬回避をミスったのかと思ったタイミングで、変速を一に一瞬だけ下げ頭をいきなり叩かれた様にふらついた瞬間約三ミリの間隔をあけて敵の攻撃が通過した。
(こいつ、マジかよ)
フランは口に手をあてて、口元を隠す様にしながら一瞬だけチラ見してそう思った瞬間。「おい、フラン。言いたい事でもあんのか?」モブがその一瞬のチラ見だけをとらえて聞いて来た。
(おいおい……、眼球が動いただけで見えてんのかよこいつ)
「あ、あぁ……。まだ違和感の段階だが。さっきのフュージョンとかいう武器はおかしい、あれだけ強力なのに。防衛衛星に任せてあいつはさっきから撃ってきてない、恐らくこのギャラルと同じ問題を抱えてんじゃないかと思ってな」
一瞬モブの眼がすわってから「一発貰ってみる、それ以上は無理だ」「判った、信頼には応える」それだけいうと、おい響そう言う訳だから突っ込むぞというと響の口から保存食がぽろりと落ちた。
「また、無茶ばっかり言ってんじゃね~ッス!」それだけ文句を言いながら、プレクスの補助をしているギャラルの出力を上げ。速度がグングンと上がっていく。
それを見届けると、ニヤリと笑って。「交差法気味に通過して、ずらかんぞ」瞬間に響の顔が笑顔に変わった。「それを先に言うッスっよ!!」
フェティはその様子をみながら、笑っていた。やはり、悪ノリしている方が精神的にゆとりがあるようにみえるのだ。
「シャリー、お前も頼んだぞ」フランが両手でシャリーの肩を叩く。
顔は怖いままだが、それは確かに信頼だった。
「うん!」力強く頷くと、計器全てをチェックする。
「エネルギー以外は問題なし、速度を上げた事でデメテルからついて来た防衛衛星がどんどんついてこれずに脱落してる」それを伝えるとプレクスの大人全員が足で床を音が出る様に蹴った。
「残エネルギー六十%を割りました」アンリクレズは水をさすように現実を伝える。モブからの要望はもっと後だが、あくまでも機械的にアンリクレズは動いていた。
「シャリー、コースは?」モブが手短に尋ねると、「敵艦からみて九時と八時の間。そっちの方向の艦底方向に空きルートがあるわ」モブからは、「良いじゃねぇか」というと「底方面通って抜けるなら、フュージョン以外気にしなくていいっスからね。俺も賛成ッス」
ギャラルホルンの耐久力が自然回復しているのをシャリーは計器で確認していた。
響はあ~あ~いいながら、指をぐ~ぱ~と何回も動かす。浮き出た汗は、アンリクレズが拭いてくれている。ちなみにモブは、自分の袖で一生懸命拭いていた。
(飽和までもらわなければ、追従させてるだけで状態も戻るって……)シャリーはそう思わずにはいられない。
フュージョンがどれだけ凄くても、ギャラルホルンがどれだけ万能でも遺産は機械だ。すなわち人が作ったもので、何かしらの欠陥はあると言う事。
数値や計器の状態を、アンリクレズは全て提供してくれている。
だから、気がつけた。シャリーはモブが運転に専念できるよう、もっとリアルタイムで情報を見れるようになりたいと今は思っている。
ただ、一つ悩みがあるとすれば。フェティといつか別れなくてはならない以上、シャリーには相棒と呼べる人はいない。それだけが、少し残念だと思う。
艦長がいて、響さんが居て、お義母さんが居て……。
プレクスの大人たちは、みんなカッコいい。
(あんな、カッコいい大人に私もなれるかな)
ピンチを乗り越える度に、幾度もそう思う。
いつも、悪態ついて。文句言って、その割に表情は明るくて。
私が艦族や傭兵になりたいっていう度に、みんなでやめとけって言うのだけがちょっと納得いかないけど。艦族何か貧しいばっかで楽しくないし、傭兵なんてガラ悪い連中だらけだって困った顔で言うのよ。
(私の知っている艦族と傭兵はこんなにも素敵なのに)
「うっし、シャリー。頼んだぜ」モブはもう前をみてただ声をかけるだけ。
「シャリーちゃん、気楽にやるッス。しくじっても艦長が何とかするッス」
響もこっちを見ていない、ただ声色だけは明るい。
「さて、俺もなんとかおかしいとこ見つけねぇとな!」フランもシャリーの後ろからコクピットを真っすぐみる。
それぞれが、それぞれの役割を守り。それぞれが、信頼してまるで聖約でも誓っているかのように。それが、プレクスの強さ。
(絶対、炉の位置みつけて一泡ふかせてやんぞ)
フランが奥歯を噛みしめ。獰猛な顔をしながら、それでいてその顔を娘に見られたくなくて娘の背後に陣取っていた。
そして、モブが一気にギャラルをフルスロットルにして。プレクスは光の矢となって、ディアムに突き進んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます