第百七十七話 落とし穴

一方、あの後すぐに宇宙を漂う隕石に不時着というか根を下ろしたプレクス。

推進機をとにかく最低二つ直さなければという事で、シャリーの手も借りてモブが急ごしらえで修理していた。



響はというと、あんまりなギャラルホルンの説明書をもう一度隅々までチェックしながら頭を抱えていた。


「これマジで、超兵器じゃねぇッスか……」ざっと目を通した時に見落とした事が山ほど出てきたからだ。


(これが、敵の手にあったらと思うとちょっと考えたくないっスね。自分がもってても嫌何スけど)


「響様、コーヒーが入りました」「クレズさん、助かるッス」眼をこすりながら、説明書をガン見し続けた訳でコーヒーの苦みが眼を覚ましていく。


「お味は如何でしょうか?」「ウマいっスよ」アンリクレズがその言葉を聞くと優しく微笑む。「味覚の学習は正常の様です」その表情を見る度に、本当に人間みたいッスと苦笑する。



「やはり、響様は勤勉でいらっしゃいます。博士は、説明書なんて作りこんでも読む人は殆ど居ないと仰っておりましたので」「俺も何も無かったら読まないと思うッス」


実際問題、見落とした部分だけ見てもセブンスの仕様というのは多岐に渡る。

「組み立て式兵装とはよく言ったもので、組み合わせで発現する機能もあるから読んでないと事故るッス」錬金塔にまつわる説明書だけが観覧不可になっているのを見て、響は事故ったら洒落にならないと確信していた。



そこへ、フェティがやってきた。「調子はどうですか?」「俺は説明書読んでるだけっス。クレズさんが今コーヒーを入れてくれたんで休憩してたっスよ」「凄かったですね、モブさんの運転も響さんの防御もクレズさんのギャラルホルンも……」


名前を呼ぶ度にフェティが俯いていくが、響はぼ~っとした顔でこう言った。

「誰も凄くないっス、頑張ってるだけっスよ。フェティちゃんもセリグさんと一緒に城の調理室に居たらしいじゃないっスか。ちゃんと、頑張ったじゃないっスか。もっと、元気出すッスよ」そういって、着席を促すとアンリクレズになんか温かいものをいれてあげて欲しいッスと頼む。直ぐに、アンリクレズはフェティの所に行き尋ねてキッチンに飛んでいった。



しばし、無言の時間が流れ。フェティは意を決したように響の方を向く。

そして、響もへらっとした顔を向けフェティの話に耳を傾けた。


「どの位で、飛べるようになりそうです?」「艦長に聞いてみねぇと判んね~ッス」響は肩を竦めておちゃらけた。


そこへ、噂をすれば影と言わんばかりにモブがやってきた。

「最低六日くれ……」「酷い顔っスね」「シャリーが手伝ってくれなかったらあれ俺一人でとか泣くぞ」「そんなに、酷いんです?」とフェティも心配そうにモブの方を向くとモブは溜息をついた。


「タダの全損だと思ってたら、メインパネルまで上手に焼けてやがった……」

「あぁ~、多積基盤やっちゃったッスか」「今、シャリーが焦げた抵抗とか剥がしてくれてるよ。本当、助かってる……」


通常の衛星等では選び抜かれた部品を使い、それでもダメならリブートや交換する為の仕組みというのがちゃんとあり。プレクスもその例にはもれない。しかし、全損ともなれば全てを一度分解してから交換し再度全てのチェックを通さなければならない。プレクスの推進機はプレクスのすぐ近くを浮遊して繋がっている為特に接続や連動部分は入念にテストしなければいけないからだ。



最低でも一つ以上直さなければ、酸素と水が枯渇してしまう。幸い、これもアンリクレズの袋にバカみたいに補充してある為今すぐどうこうなると言う訳ではないが。


「まさか、俺達があれこれ念の為に詰め込んだ結果あんな事になるなんてな」

「そりゃ、宇宙で長い事旅してたら水や食料や酸素なんてつめるだけ積むッス。誰も攻められないっスよ」「んで、説明書の確認は終わったのか?」「見れば見る程頭が痛くなるッス」「まぁ、お互い無理せず行こうぜ」「そうっスね」「そんな訳で、フェティちゃん。最低一週間はこの殺風景な何もない隕石の上から動けね~んだ」そういって、モブが笑うとフェティも「いいえ、大分ひどくやられたみたいなので。どうしても、気になっただけですから」というとモブも「それなんだよ~、聴いてくれよ~」とフェティに壊れた個所の説明を始めてしまう。響は、女の子にそんな事説明しても困っちゃうだけっスよ……。とは思っていたが気持ちは解らなくも無いので何とも言えない顔でコーヒーに専念した。


「クレズ、水や酸素ってまだあるのか?」「今と同じ使用量で推移した場合、一か月過ごせます」それを聞いてモブが、「威力が上がるんじゃなきゃもうちっと広げたいとこだな」とぼやく。


「これ以上物騒にしてどうするんスか……」「だよな」二人とも保険は欲しいがこれ以上ギャラルホルンの威力が上がる事は好ましく思っていない事は意見が一致していた。


「なるべく頑張って直してから、どっかの星で今後の事を考えようぜ。フェティちゃん、それまでは窮屈かもしれねぇが勘弁してくれ。そういって、頭をさげた。「ううん、この艦は楽しいし大丈夫♪」「こんなことなら、ゲームやパズルでも買っとくんだったかな……」「いえ、私もその何かお手伝いできることはありませんか?」フェティが尋ねるとモブが「俺達のより、セリグさんを手伝ってあげてくれねぇか?。俺達は料理さっぱりだし」幾ら鍛えていてしゃんと背筋が伸びていても歳を食っていると辛いのは自分達もよく判っているからモブはそう提案した。


「判ったわ、後でお義父さんに聞いてみる」「あぁ、頼む」モブはそういって、部屋から出ていく。「艦長が愚痴何か聞かせて、悪かったッスね」と響がいうとフェティは首を横に振った。「全く、艦長は気配りがへたっスね」「うるせぇ」



お互いニヤニヤしながらそれだけ言うと、それぞれの仕事に奮戦すべく作業する場所に戻っていく。


「取り敢えず、シャリーにあんまり任せっぱなしも良くないし戻るかぁ」「プレクスがなおるまでに何とか降りられそうな星を探さないとマズイッス」相変わらず、頼りになるんだかならないんだかしているモブをチラ見して響はそう思った。


その後、モブはフランにこってり怒られたという。

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