第百七十六話 驚愕と戦慄

一方、自分達で何を言ってるか混乱しているプレクス一行とは別に、ギャラルホルンの威力を目の当たりにしたディアムでは大混乱に陥っていた。

何故なら、向こう側が見えているのにディアムが爆発もしなければ分解もしない。文字通りその通過した部分だけが切り取られた様にぽっかりと穴があいているのだから。


「なっ! なんだあれは!?」ディアムに乗っているデメテル軍人全員がその光景を見ていたのだ。去っていくプレクスを全員が口をあけて呆然と見送った。


「判りません、ただ先程の攻撃はあの周りを浮いているドラム缶の様なものから発射されました。間違いなく遺産だと思われます。これをご覧ください」そこには、メメントモリで発射する一部始終が録画されていた。


其処には、合計八個の筒が補助推進機になっていたり、防御に使われたり、先ほど撃ってきたような砲撃に使われているのが映っていた。口に手を当てながら、真っ青の表情で「神威様にご報告しろ、沙汰を待つ」それだけいうと何度も何度も同じ映像を繰り返し見ながら考え込む。


(あれは八個浮いていた、一つでナイトメアを撃ち抜く事が可能なら何故防いだ? 何故、必死に回避した? チャージが必要な武器なのか?。それとも、他に何か理由がある?)


実際の所は、プレクス一行の勘違いなのだが敵側からはそうとしか感じられなかった。


(あれは、脅威だ。仮にあれが八個全てで同じ様に撃てるというのなら、あの速度と旋回性能で逃げ回りながら撃たれたら殆どの戦艦はなすすべがない)


厳密にいえば、プレクスは響とモブが作り上げた現代作の艦だがそれは知る由もない。


「閣下、炉が消滅しており。当艦ディアムはナイトメア艦としての機能を失いました」

「そうか……、判った。ただ、だとしたらますます判らん。それだけの力を持ちながらあれ程見苦しく逃げ回ったり防いだりした理由が判らん」


理由なく、動き回る等自分なら絶対にしない。どれだけ燃費を良くしても、宇宙で止まる事は艦が棺桶化する事にほかならないからだ。あれ程の武器があるなら、初撃でかたをつける事も出来た筈。まして、あれだけ防御できたならば余計に動く必要性がないではないか。


映像を見ていると、ドラム缶のレリーフが変わっている事に気がつく。

防いでいる時は鬼か? 砲撃はスペードのエース……、補助推進機として機能している時は鷹の様なレリーフになっている。


つまり、これは常時機能変更可能な遺産?。ただ、レーダーにこのレリーフが映らない以上いつ変更されたかが判らない。次の瞬間に変わっていて、撃たれたら即ジエンドだ。こんなものがこの宇宙にあったとは……、全く前時代の人類は酷いものを残してくれたものだ。自分がナイトメアを使っている事を棚に上げ、そんな事を口走る。


それが、あのマッハで飛び回って旋回する小型艦に追従しているのだ。

ナイトメアの雨の様な砲撃やフュージョンさえ防いで見せた正真正銘の一級品。


「凄まじいですね、あれは……」「あぁ、アラネアが何故やられたのか疑問ではあったが。フェティ様、お救いする事が出来ず申し訳ございません」彼女にとっては、デメテル王族は神にも等しい。選民思想に固まったデメテル軍人の彼女にとって、神威はただの上司。現在唯一のデメテル王族、その生き残りであるフェティ救出は悲願。


神に懺悔する様に、その場で頭を下げ謝罪した。


(神威が私を切ると言うのなら、私はそれに抗おう。フェティ様がナイトメアを捨てろと言うのならそれも飲もう。私にとって、フェティ様奪還に勝る目標など無い!)


彼女にとって、ナイトメアを使う時に消費する燃料とは「デメテル国民以外」だけだ。

例え、ハーフであってもデメテル国民やデメテル兵士を彼女は消費しない。



フェティ様を攫った小型艦、このままでは済まさぬっ。



眼を血走らせて、何度も何度もその映像を確認しながら爪が自身にめり込み血を流すが気にもとめず怒り狂っていた。


兵士の一人は、ずっと思っていた。


(閣下は、神威とは根本的に違う。もちろん、人としては既に道を踏み外しているが)


あのクーデターの時、フェティ様を脱出させる為にセリグ様はデメテル軍を退役されていても尚守り抜いた。そこまでは、デメテル軍人として当然の行い。


もう、他のデメテル王族正当後継者はこの世に居ない。

私もそれに賛同し、協力したとも。フェティ様は昔から、セリグを父親の様に慕っておられたからな。


「クーデターが終わり、王家の変わりを俗物の神威がしているだけに過ぎない」


我らデメテル軍は、デメテル王家の為に存在する。王家にとって神威が邪魔だと言うのなら、我らはその号令に従おう。


「セリグ、このままでは済まさんぞ!」ナイトメアでなくなったディアムの中で副官以外の兵士達が決意を固めていた。



一方、推進機を全損させられたプレクスはというと……。

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