第百七十八話 シャリーの想い
一方、モブに任された部品を剥がす仕事を一生懸命やっていたシャリーは推進機の蓋を見つめていた。自分が初めてまかせてもらった仕事で、真剣な表情をしながら一つ一つ丁寧に部品を拭いてチェッカーを通し。ダメになっている部品と使える部品を分けていく。
(モブさんは、これを少し前まで一人でやっていた……)
そう思うと、ますます憧れの念を抱く。
「よぉ、シャリー」「あっ、お義母さん」フランが軽く手をあげながらシャリーに声をかける。すると、シャリーが嬉しそうに「私も仕事を任せてもらえたの♪」と言ったので「良かったな♪」と返した。
フランは、つい最近腕が元通りになり両手が使える様になった。
「艦長はどこ行ったんだ?」「響さんにギャラルホルンの事で話があるって」
娘に言われ、あぁ……みたいな表情になるとシャリーに「それは何をしてるんだ?」と尋ねる。
これはね、使える部品と使えない部品と分けてるの。初めてプレクス本体の一部を触らせてもらえる仕事を任されたのだと実に嬉しそうにしているのを見て、フランは満足そうに頷いた。「そっか、艦は命を預けるもんだからな。命を預けてもいい奴にしか触らせないわな」「お義母さんは?」「俺は機械は全く分かんねぇから信用より適正の問題じゃないか?」とお互いに笑った。
そこへ、モブが戻って来る。「あぁ、フランも居たのか。シャリーすまねぇ、遅くなったわ」そういって、シャリーの横にあった使える部品を見て思わず渋面になる。
「えっ? これだけ……?」「うん、言われた通り剥がして掃除してチェッカーに通してってやってちゃんと動いたのはこれだけだよ?」
モブが試しに、一つ適当に取ってチェッカーに入れてみるがうんともすんとも言わない。「かぁ~! マジかよ!!」ありがとな、シャリーというと悲しみに暮れた表情で部品の入った箱を見る。ダメになった残骸がまるで故郷の夢の島と呼ばれていたゴミ溜めの様にこんもりと入っていた。
「艦長、響とギャラルホルンの話をしにいってたんだって?」「あぁ、響も見落としてたらしくてな。俺も後でもう一度説明書を読ませてもらおうと思ってな」「そうだな、あれがもし響以外の手にあると考えたら恐ろしくて眠れないぞ」「ちげぇねえわ」
シャリー、一人でやらせて悪かったなとだけいうと近くに座り込んで真っ黒な推進機のガワを外した。瞬間に黒い煙が顔を直撃し、ゴホゴホとせき込む。そして、さっきシャリーがやっていた様に自分も推進機の部品を剥がしながらチェッカーに通す。
「どうだ、地味だろ?」「うん、でも楽しいよ?」「そうか……、宇宙にほっぽり出されたら終わりだからな。艦族やるなら、仲間の命も自分の命も艦に預けなきゃいけねぇから部品一個で死にたかねぇだろ」そう言って手早く同じ動作で部品を見ていく。
「ねぇ、部品を知らない艦族とかはどうなるの?」「あぁ~、艦を買って艦族になるやつは人を雇うんだよ。金があるからな。俺達は買ったんじゃなくて作っただからさ、これをメンテできる奴は俺達か俺達が教えた奴だけだ」シャリーが覚えてくれたら、覚えてくれた分だけ俺は助かるがな。「あんまりうちの娘こきつかうなよ?」「わ~ってるよ、というより現状一人づつしかこういう事できねぇのが問題だったんだよ。つい最近まで」
フランも、自身の元通りになった腕をみて。「確かについ最近だな」と苦笑した。
「俺達が怪我したら、病気になったら……。誰かにやってもらうしかねぇだろ、最低でも次の星に到着して病院いけなきゃ全員お陀仏だったんだ。今は違うから、こうしてゆっくり俺達が死ぬまでに覚えてくれりゃいいかなって思ってる」
シャリーがモブの方を真剣に見る。モブも伝えなきゃいけない事を伝える時だけはいつものおちゃらけた空気がない。
「まかり間違わなきゃ、先に死ぬのは俺達大人だ。まっ俺は少なくとも後三十年は生きるつもりでいるけどな」と楽しそうにしている。「折角娘とクソ面白れぇ艦族って珍獣にあって今が一番人生で楽しいのに俺だってくたばってたまるかよ」とフランもニヤリと笑う。シャリーは真剣な表情でモブとフランを交互にみてからぷっとふき出した。
「何よそれ~、じゃなるべく早く覚えて楽させてあげなきゃ♪」「早くやる必要はねぇ、確実に慎重にだ」急にモブの声色が変わる。フランも神妙に頷いた。
金を貰う仕事なら、納期ってものがある。早くやる必要もあるだろう、だがこれには自分と仲間の命がかかってるんだ。金より重たいモノがかかってんだ。「シャリー、俺がナイトメアって技術を胸糞悪く思う理由でもある。命より重たいものなんかこの世にねぇんだ」シャリーはゆっくりと頷くと、モブがいつもの空気に戻って肩を竦めた。
(少なくとも、仲間と自分の命より重たいもんが価値観にあってたまるかってんだ)
「シャリー、気が逸るのは判る。でも、俺もその意見には賛同したいね。俺は傭兵だからさ、命全部という気はさらさらねぇけど。屑も居りゃ、ゴミもいるのが世の中だ。そいつんらの命なんざ、むしろ軽くなきゃいけねぇ」「軽くなきゃいけねぇは、キッツいな」
その二人の様子をみてシャリーは「は~い♪」と元気よく返事をした。
(やっぱり、私の知ってる大人と全然違うなぁ……)
シャリーは少し前の事を思い出し、空から落ちて怖い思いをした。
「そういえば、モブなんか肌寒い気がするんだが」「シャリーが居るのに、癖で暖房切っちまってた!」「おい……」眼がすわってモブの胸倉をつかむフラン、滝汗が止まらないモブ。
「お義母さん、私はまだ温かいよ?」そういわれてフランが怒りながらもモブの首から手を離した。モブもわりぃと頭をかいた。
(この艦は、温かいよ。お義母さん)
うっすら笑みを浮かべ、また嬉しそうに部品を分け始めるシャリーを見て。モブも「俺も負けてらんねぇな」とだけ言うと黙々と二人で作業を始めた。
そんな二人を見て、フランもふっと薄く笑い「邪魔したな」とだけ言って去っていく。
その後、プレクスのあちこちの故障が直るまでモブとシャリーの二人は同じような動きで頑張っていた。
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