第百七十九話 その願いに届くまで
「うんしょ……うんしょ……」「シャリーちゃん、今日もっスか」「うん!」
元気よく返事するシャリーに響は頑張るっスよと手を振る。
「響様、全制御系のチェックが終わりました」アンリクレズが響の肩に座ったまま言うと、響もうっスと助かるッスと声をかける。
ギャラルホルンがあって、艦長の腕もあった。俺も頑張ったし、クレズさんが袋にしこたまエネルギーを保持してたおかげで何かとか逃げ切るまでギャラルホルンを維持出来た。しかし、プレクスのダメージは甚大。連日、モブとシャリーはプレクスをなおしている。自分も見に行ったが、真っ黒なそれをみて内心で手を合わせた。
フュージョンはギャラルホルンで防いで尚、プレクスをボロボロに削っていたからだ。
(こっからは、ナイトメアが複数来てもおかしくないっス)
なんせ、小型艦に対してあんな防御衛星の数と戦艦向けてくる事自体が普通は過剰戦力なのだから。幾ら報告を聞いたところで、自分だったらありえないッスと一蹴する所。
戦艦のどてっぱらに、穴をあけたのはまずかったッス。まぁ、ムカついてやったのは俺っスが。まさか、あれだけ砲を並べて活躍させ。弾は、正真正銘一発しか入ってないなんて向こうは考えてもいないっスよね……。
(証拠が残っちまった以上、相手が国と犯罪者ギルドで本腰入れていくる。こっちは、ギャラルホルン壊れたら逃げるしか能がないってのにッス……)
「響様、如何なされましたか?」「クレズさんには願いってあるっスかって、ふと思ったッス」「そうですね、道具ではなく相棒になれと仰られた以上、まだまだ学習不足であると認識しています。願い、願望……そういった感情がもし機械の私に許されるのなら、目標であり、夢であり、願いでもあります」「そうっスか、俺も似たようなもんス。艦長をほっとけないからここまで来たッス」「そうなんですか」「あの運転と技術しか頼りにならない男をどう思うッスか?」「艦長としては、八十五点かと採点致します」「マイナスの根拠を教えて欲しいッス」「大事な場面で、仲間を見捨てる決断が出来ないタイプと推察」「納得したっス」からからと笑った。
「俺達、艦族はティアドロップを見つけるんス。やっぱり実物が見たいじゃないっスか。クレズさんと同じレベルの最高傑作……、同じ技術者としてべきべきのバキバキに心がへし折られるかもしれないっスけど。見たいんスよ、艦族は皆それを求めて人生かけて宇宙を旅するんス。良い事も嫌な事も楽しい事も辛い事も沢山あって、遺産が拝める事すら稀っス」
アンリクレズは優しく微笑むと「お供します」と言った。
「クレズさん、もし錬金塔がみつからなかったら……。またクレズさんがため込んだエネルギーを使って凌ぐ事になるッス」アンリクレズは頷いた。
「俺達は、常に何かと戦って勝ち残らなきゃいけないッス……。それでも夢を追いかけたいじゃないっスか」
(俺はこれしか知らねぇッスから、これでくたばるまでやるしかないんスよ)
「この言葉が適正かどうかは、アンリクレズには判りかねますが博士はこうおっしゃっておりました」「宇宙一の天才は何て言ってたっスか」「人の知恵と技術は、理不尽をねじ切るのに使う……だそうです」
「貧困、窮地、権力、己に降りかかる全てをねじ伏せる。神を信じず己が神になるつもりで創り出す。それが、技術者だと博士はおっしゃっておりました」「天才は言う事が違うッスね、俺にそんな馬力はねぇッス」
膝を叩いて、響は涙を浮かべて大いに笑った。
「博士はずっと孤独でした、AIすら超越する頭脳を持ち。人を辞めた事で長く生きすぎた。それでも、博士はずっと呪文の様に繰り返していました」「なんてっスか?」「私にプログラムを教えた師匠はもっとすごかった。私に機械を教えた人はもっと素敵だったと……、私に何かをねだる人は多かったけど、私の心に残って支えてくれるのはいつも何かを与えてくれた人達だったと」「万年以上たっても、博士以上の技術者なんか居ねぇッス。博士の作った遺産を取り合って、探しまくって……。ロクなもんじゃねぇっスよ、素敵な人間なんて殆ど居ねぇッス」
それは、響の本音。
モブという男は人生で初めて会った親友であり。今では一番付き合いの長い苦楽を共にした人。あいつは言ったんすよ、俺と艦族やってくれって。金なんかねぇッスと言って、二人でゴミからプレクス作った時。二人で艦長どっちか決めた時、保存食しか食えないで二人で水ばっかり飲んでた時も一度や二度じゃない。それでも、故郷で腐って空を見上げるより。あいつについてくほうが楽しいし、夢があったッス。
アンリクレズは、真剣な眼差しの響の言葉を黙って聞いていた。
「艦長の夢は終わらせないッス」そういうと響は腕まくりをした。そして、アンリクレズにニコッと笑ってから言った。「俺の夢でもあるんスよ、もっとも、今は遺産探しじゃねッスけど」「今の……願いですか?」「フェティちゃんとセリグさんの故郷を取り戻してやるッス」
そういうと、セブンスの各機能と向きあう。
それは、単なる意地か。それとも。
アンリクレズは、一度目を閉じ。「錬金塔無しでの勝算は殆どありません」とアンリクレズがいうと判ってるッスと返す。
「袋に入れてから再生できるから何とかなってるッス。自己再生できなかった時の事は考えたくないっスね」エネルギーは自然回復のみ。ギャラルはエネルギーがあれば比較的何でもできるが、裏を返せば何をするにもエネルギーが必要でそのエネルギーは常にじり貧と言っていい。
「貧乏は慣れてるッス、悲しい事に宇宙一慣れ切ってるっス」
そういうと、その日は夕食まで二度と響が口を開く事はなかった。
そして、遂にプレクスが飛べるところまで回復した。
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