Hell Tears

めいき~

プロローグ

「母さんが亡くなって、十五万七千飛んで八十五日……」


透明な円筒の中で、ティアが機械的にカウントをしていた。



既に、墓を示す丸太の十字架は風化し古くなっていたので新しく石に変えたそれにもう外では滅多に見る事が出来なくなった花冠を被せ。


ティアが円筒の中から操る、機械人形達が花を育て創り上げた新しい冠を石にのせる。



この世界の果て、宇宙の果てにあって次元の狭間にある島。

その、偉大な博士の住まいとしては余りにみすぼらしい小屋の地下。




ーーそこに、まだティアは存在していたーー




小屋は、機械人形達によって掃除が行き届いていて。

誰も住まないそこを、毎日欠かさず掃除してきた。


小屋が風化で崩れそうになった時、全く同じ小屋を作る。




ーーそこに、小屋があるのは義務であるかの様にーー



小さな森を育て、そこから樹を加工してはゆっくりと乾燥させていく。



ーー時間だけは、無限にあったからーー



機械だから、忘れる事も出来ず永遠に母ヴァレリアスの事を昨日の事の様に覚えている。

「相手を思いやるのなら嘘も結構、相手を伸ばす為になら負けてあげる事も必要な事なのよ。それでも、生物は勝たなければ生存を許されない。だから、貴女が手を下すのなら全てを握り潰すつもりでやりなさい。貴女には、それが出来るだけの力がある」


「私は、母さんと同じ人間が大好きだからきっとそんな日はこないわ」


「人は誰かを馬鹿にする娯楽も好きなの、誰かを苦しめる娯楽も大好きなのよ。そういう、人間は必ず一定数居る。貴女が会った事がある人間は私だけだから、判らないでしょうけど。世界で一番惨忍な兵器は、人自身。人の発する、真の意味で的を得た言葉なの。人を人たらしめているのは心、機械である貴女はそれを模倣したものを持っているだけに過ぎない。そうね、貴女に判る言葉になおせば……」



ーーインプットが狂えば、解答が狂う事だってあるーー


「だから、機械の貴女の判断は常に感情を挟まないものになる。私は、貴女に感情を模したものを与えたけれど。それを育てるのは、貴女自身なの」



知識は人を支える、しかし知識を持てば持つほどに持たざるものの気持ちが判らなくなっていくもの。それは、忘れる事を知らない機械ならば。想像を絶する重さになり、だからこそ無限に演算を伸ばしていく。



人間の体を実数領域、魂を虚数領域と名付けましょう。そうすれば、貴女にも理解が出来る。実数と虚数で正しいもの、間違っているもの。両方の領域で考えなさい、貴女にはその頭脳がある。


「母さん、私は……」「運命に逆らう人は輝く、逆境をねじ伏せる人はいつでも美しいもの」「それは、私にはない美しさよ」



同じ夢を、繰り返し見る。


同じ母の姿を、思い浮かべ。



機械の体になっていく母。

しかし、ティアの中ではずっと同じ優しい顔をしていた。


彼女は脳みそだけになっても、ずっと何かを追い続け。

それでも、人としての限界を迎えそして逝った。


ずっと、年も取らず。ずっと、自分が初めて意識を持った時と同じ顔をしているのだ。



ーー寂しさを越える力なんてないーー



忘れない機械だから、喜怒哀楽をそのメモリチップに焼き付けて。



「母さん、母さんが言うより人は美しいし醜いね」



そういって、カプセルの中で眼を閉じ。

全ての世界に語り掛け、元素を通じて情報を収集していく。


呼吸する様に知識を貪る、優しい兵器。




それが、ティア。

そして、そのティアが行使する奇跡の名はティアドロップ。

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