第一話 ティアドロップを探して

「あークソ!」そういって、地面に蹴りをいれ。


ガンと音がして、う~と痛みでうめき声をあげた。


「艦長、何をそんな不機嫌になってんです?」


「不機嫌にもなるさ、なんだこの税金ありえねーだろ」



響が覗き込むと、バベルの税率が以前の倍になっているのが判る。

「はぁ?!」思わず、響も同じような声が出た。



「ったくよぉ、こんなんじゃ補給もままならねぇよ」

「全くです、商売あがったりじゃねーっすか」


プレクスー77号の中で、二人して溜息をついた。


プレクスー77号は、三世代前の旧型プレクスを二人で改造という名の修理という名の騙し騙しで使っているポンコツ艦。


無論、最低限の生活は出来る程度の超小さいベッドが二つ。

ギリギリ立ってしか入れないシャワー室に、小さい鍋しか置けないコンロが二つの二人も立てない程狭いキッチン。小さめの貨物室に、武装は時代遅れのレーザーが二門。


それでも、ワープ航法に対応しているだけまだ逃げ足だけはそこそこという塩梅。

制限付きとはいえ、こんなボロ船がまさか亜空間航行まで出来るとは殆どの船は夢にも思わない。



「昔の宇宙に出たばっかの頃は、お前の出した小水がろ過を繰り返した明日の我のコーヒーだなんてジョークが流行ったらしいですが」


「それ今の極貧の俺達じゃジョークになりゃしないっす」

「だなぁってか、なんでバベルだけこんなに税金がたけーんだよ。こんなん誰もよらなくなるぞってかそれであんなにドックもガラガラだったんか」



「俺達みたいな艦族は、補給しながら旅から旅へだからな。医療ポッドがあるのがせめてもの救いだよなぁ」「怪我は、骨折まで。輸血機能や造血機能は無し、病気も分析から治療までの速度が遅くて転位式の病でもやったらアウトのしょっぱいしろもんだけどな」


「型落ちの中古を値切って、ジャンクで修理したもんっスから」

「つか、金もないのに艦持ちになるにゃジャンクで自作しかねぇじゃねぇか」


「艦の無い艦族なんて、奴隷とかわりゃしないス」

「奴隷の方が生活水準が良かったなんてオチが待ってましたがね」


「艦長……」「響、俺はお前がついて来てくれて良かったよ」

「奴隷よりは、クルーの方が扱いはマシですからね。例え艦長と二人きりのボロ船でも」


そういって、二人で笑いため息をついた。


「にしても、本当やべぇ。酒もなきゃ、映画を見る為のエネルギーも削らないと」

「うへぇ、男二人の艦で映画無しとか狂っちまいますぜ。例え、三本しか映画なんていれてなくても」「サブスクがある、星での生活はよかったなぁ」


「書籍も電子だと保存メモリを用意しなきゃいけないし、紙の本なんて贅沢品を置いとけるわけも無いから必然俺達が読むのは設備の説明書だけってオチだな」


艦族は、この世の何処かにあるティアドロップを探して宇宙を彷徨うもの達の総称だ。

あるものは傭兵に、あるものは運び屋に。


そして響と艦長みたいに、貧乏極まって何でもやるものまでいる。

各国も、各勢力も皆ティアドロップを探している。



だから、艦族はどの星でも艦艇の見てくれがそのまま身分証であり扱いの違いになる。

大型艦だから良いというものでもないが、武装がしっかりしているものや速度が出る艦はやはりそれなりに信頼されるものだ。



「まっ、ボロ艦の二人艦族なんてのは実際ギリギリ平民の扱い位底辺だがなぁ」


「艦族以外で、身分を飛び越える方法なんてこの世にありはしないっスから」


そういって、艦長が水を一杯飲む。


「それにしても、あらゆる奇跡を行使する兵器ティアドロップねぇ」


「そんなもの、本当にあるんですかね」「知らねぇよ、だが俺達というより艦族はそれを求めて宇宙を彷徨ってんだ。もう、何万年も世代を超えてな。最初の連中はワープを構築する所から始めたらしいが、俺達みたいな世代はその完成された航法や航路を使ってあっちこっち行ってるだけの風来坊の根無し草みたいなもんだからな」



あらゆる分野に精通した、ヴァレリアス博士が人生の最後に残したその兵器をあらゆる人間が何万年も探し求め。未だ、その形やどういうものかを知るものは皆無。



「ま、俺達みたいなのは艦族として。探してるって事を、口実にするしか生きる道がないのも事実なんだけどな」


「ずっと、気になってたんですが。形やどういうものかを知るものが居ないのに、どうしてその兵器が存在するってみんな知ってるんですか?」


「ヴァレリアス博士は、生前自分が作った発明全てを記した資料群を残しているんだ。それは、ヴァレリアス博士が心から信頼した人間に手渡された。しかし、手渡された人間は信用出来たがその子孫や親類は全然信用ならない連中だったわけだな」



仕様、弱点、どういうものか。姿形なども、その資料には色々のせてあったそうだ。

その、最後のページ。真っ白なページに、奇跡を操るシステムとだけ記されたその名がティアドロップって訳さ。


「それが、人々の妄想を掻き立て。これだけ化学が進んで、宇宙に万人が飛び立つ時代になっても誰もが追い求める代物になってるって事さ」



「時代遅れになってたりしないんですかね」「さぁな、だがヴァレリアス博士は間違いなく人類が全宇宙に誇る天才。それも、全ての分野で比類なき成功を収めた超人。その超人が残した遺物は今でもこの宇宙の全ての人類の基礎になってんだよ。理論から技術体系、数万年経っても尚一線級の兵器に至るまで。彼女の生涯最高傑作と言わしめ、奇跡を操る万能なシステムと本人が公言してる訳だ。それを手に入れたなら、宇宙を手に出来るも同然と妄想する連中が大挙してもおかしくない」


ヴァレリアス博士が残したものには、亜空間兵器軍もあれば。バイオクリエイターって言って星を約三日程度で特定の生物が不自由なく暮らせるようにする化学兵器も病を学習してあらゆる病に対応するナノマシン達、今も尚現役バリバリで使われてるものそう言うものの六割位はヴァレリアス博士の遺産。たった一人が残したものに、化学が進んだと言われる昨今でさえおんぶにだっこって事さ。


「あながち、支配者達の妄言って訳でも無さそうっスねそれ聞くと」

「しらねぇよ、なんせ現物を誰も見た事がねぇんだから」


中でも彼女が残した技術体系で、人類を飛躍的に押し上げたのは亜空間技術。


「時間停止倉庫や、瞬間移動を誰にでも使える様にし。ネットワークの減衰を極限までゼロにする事で、それまで熱や減衰に電気漏れ等と戦って来た人類のコンピュータの歴史を葬っちまった」


「本当に、そんな人間居たんですかね」「さあな、本当は複数の人間が居たって連中もいるが。そんな、何万年もたってホントかどうかなんてわかりゃしねぇ。判ってるのは資料群があって、その資料群は艦族の……つまり俺達一族の本拠地にあるってだけだ」


「風来坊の俺達の本拠地に、そんな御大層なもんがあるんですか」


「だから俺達は、色んな場所をほぼフリーパスで移動できてんじゃねぇか」

「なるほどっス」


「博士の作る兵器はだいたい弱点があるわけだが、資料があればその弱点すら書いてあるからその兵器を切り札にしてる国はたまらんだろうさ」



「なるほど、だからあれ程国を売れ土地を売れだのあの手この手で博士の遺物狙ってんですね」「そうそう、経済的侵略もそうだし鼻薬かがされて国営の通信網売りさばこうとしてるカス共もいる。知ってるかい?ヴァレリアス博士が娘に残した遺言……」


「いえ、知らないですが」「ママらしい事を、何一つしてあげられなくてごめんなさいだってさ」「へぇ、父親はどんなんだったんですか?」「宇宙に夢をみる一人で、平凡な男だったそうだ。身分証を確認しなければ、そうだと判らないくらいにその辺に居そうなごく普通のな」「んで、娘さんは父親に引き取られたって歴史の教科書で読んだろ?」

「幸せに、なれたんすかね?」「しらねぇよ、昔の事だ」

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