第二話 僅かな道
「にしても、暇っすね」
「トラブルが無いのは、俺達にとってはありがたいことだろが」
そうなんですけどねぇ、響が退屈そうに外を見た瞬間思わずやべぇと呟く。
「何がやべぇん……、あぁやべぇわこりゃ」
二人が外を見ると、宇宙開拓機構の艦隊と不法集団ブロードの艦隊がドンパチはじめようとしてにらみ合ってる中央にプレクスが進路を取っていた。
「ズラかるぞ、変にUターンしてるとこ見られて怪しまれても事だ」
「そうっすね、こんなボロ船あんなとこに居たらあっという間に宇宙のチリになるっス」
「判ってんなら全速でトリ舵だ、オモ舵じゃ多分開拓機構の全方位レーダーの圏内をギリかすめちまう」
「よく判るっすね、艦長」「伊達に、逃げ足売りにしちゃいねぇって」
そういうや否や、速度レバーを一番下までフルスロットル。
一瞬、後部のメカが膨らんで勢いよくトリ舵で曲がっていく。
「「さっすが俺達のプレクスだぜ!!」」
びーびー!!
「何で警報鳴ってんだよっ!」
「レーダーかすめたみたいっス」
「どぼじでぇ~」「これ反応見る限りブロードの方に引っかかったみたいっすね」
「何でだよ、あいつらの平均補足距離は四千ちょいだろが!」
「多分、俺の予想だと今からドンパチでにらみ合ってるから正面火力に備えてレーダー能力前方に振ってたんじゃないですか。奴ら、全方向レーダーは無くても、出力を自分達で調整できるように違法改造とかしてますからね」
その言葉に、艦長がうっとなる。
「つまり、レーダー能力伸ばした方向のとこにずらかろうとした俺達の後部の熱源拾ったと」
「それしか考えられないっすよ、ほらこっちに正面向けてきてる艦が幾つかありますよ」
「バカ、この船のバリアじゃあいつらの主砲に対して台風の日に全裸で自分の腹に的書いて当てて下さいって叫んでる様なもんだぞ」「一発で、腹に穴が開いて終わりっすね」
「死にたくないっす!」「俺もだよ響君」
その時、右舷の翼の先端に蒼い光の帯が通過していくのが見えた。
「喧嘩は後回しだっ、とにかくこのままだとやべぇ!」
「狙いがまだ定まってねぇうちに、ジャンプすんぞ」
「そういえば、プレクスにはそんなのありましたねぇって座標計算どうすんですか。うちにはコンピュータなんて上等なもんないですよ」
「R67I88J41って入力しろ」
「根拠は?」「あいつらの艦から三万以上離れてて、星が無いとこだ」
「そんな、適当に飛んで大丈夫っすか?」「ここに居る方がやべぇよ」
「それもそうっすね、R67I88J41へ入力完了!」
「仕事がいつもより早くね?」「死にたくないだけデス」
じゃこっと飛び出した、丸いボタンを拳で叩きつける様にして叫ぶ。
「ジャンプ!」「間に合え!!」
別次元に入る為に透けた船の上を幾つも、青い帯が通過していくのがジャンプ途中の艦の内部から見えたそれを見て二人が震えあがる。
「ったく、あぶね~」「艦長、ジャンプ完了。座標誤差四、相変わらず神業っすね。本当どうやって決めてんですか?」
「あぁ、婆ちゃんが困った時はこれ使えって」「計算尺じゃねーっすか、こんなもんでワープの座標計算やるんじゃねぇっすよ」
「自分の命がかかってんなら、必死にもなるってな!」
「毎回、それに命預けてるクルーの身にもなって下さいっス」
それはそうと、あれなんだ?
真っ暗な宇宙空間に、ぽつりと浮いているカプセルが一個。
「何でこんな何にもないとこに、カプセル何か浮いてんだよ」
「しらねーっすよ」「取り敢えず寄せて拾え、救難信号ってこたぁまだ息があるだろ」
脱出カプセルのライトの点滅は、中の人物がまだ生きている証拠だ。
プレクスをカプセルに寄せて、アームをだしプレクスの下部倉庫に虫がエサを抱え込む様な形でドッキングしカプセルを回収した。
「なぁ、これ左腕がねぇけど本当に生きてんのか?」「カプセルが白く曇ってるから息はあるっすよ、でも大分死にかけなんですぐ医療ポッドに入れないとヤバいっす」
「俺達の船の医療ポッドってあれだろ?」「ないよりマシっす、早くしないとこのカプセルが葬式用棺桶に変わっちまうっすよ」
「拾ってすぐ棺桶は、後味悪いよなぁ」
「勝手に……殺すんじゃねぇ」とか細い高い声がして響と艦長が二人でそっちを見た。
「おぅ、息はあるみてぇだな」「死体包む布だってタダじゃないっすからね」
「お前名前は?」「フラン……ソワ…………だ」
「めんどくせぇから、フランで呼ぶぞ。フランおめー歩けるか?」無言で睨むフラン。
「響君、ムリみたいです。医療ポッドまで運んであげて下さい」「見たら判るっしょ!」
「すんませんっスが、うちのはボロなんで止血とかぐらいが精々っス。貧乏の甲斐性無しの酒カス艦長なんで許して欲しいっス」
「拾ってくれただけでも……。助かるよ…………」響の肩を借りながらポッドから出て非常にゆっくりとフランが足取り重く医療ポッドがある部屋に運んでいった。
「全く、あの黒コートの赤髪どっかで見た事あるんだよなぁ。どこだっけか?」
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