第三話 閃光

ぴっぴっぴ……



「狭くてすまないっす」「大丈夫だ」


カプセルの中で、治療を受けながらフランが短く返事した。


「止血とかはやっとくっすけど、何か口に出来そうっスか?」


フランはしばらく目を閉じ、そして小さく。「カボチャのポタージュはあるか?無ければ味がするだけの保存食でも構わない」



「艦長の秘蔵のコレクションにカボチャのポタージュのレトルトパウチがあったからそっから失敬してくるっス、楽しみにして欲しいっス」


「おぃおぃ、艦族の艦長ってもっと偉くて押さえつけるもんだろ」


フランは苦笑しながら、響にカプセルの中から言った。


「こんな、小さい男二人のボロ船でしかも俺達二人は艦長とクルーじゃんけんで決めた位っス。細々雑用やって生きのびてるだけの艦でいばりくさっても良い事なんて一つもないっスよ」


フランは、なんだそりゃとごほごほ言いながらも笑った。




「響、惑星ネフェサイドに向かって艦港リフキンに一回寄るぞ。三人分は積んでねぇから、フラン下ろすにしろ一緒に行くにしろ補給しねぇと詰むからな」


館内放送で、響に通達が聞こえ。



「了解っス、あっそうそう艦長。フランがカボチャのポタージュが食べたいらしいっスから艦長のコレクションから一個パクって出すっスよ~」


「かぁ~~~マジかよ、ゆっくり味わって食えと伝えろ。拾う判断したのは俺だからな、今回は涙をのむぜ。だがな、お前は手をつけんなよ!許可はフランにだしたんだからな!!」


そのやり取りを、医療ポッドの中から何とも言えない表情をしながらフランが聞いていた。



「まぁそんな訳で、ゆっくり食べて欲しいそうっス」「この腕じゃ、どの道急いでは食えないだろうよ」


無い左腕を顎で指しながら、フランが笑う。


「艦長ああいう人っスから、ゆっくり養生して欲しいっス」「あぁ、ありがとう」


そういって、フランはゆっくりと眼を閉じた。


「さて、ほんじゃ沸騰した鍋にぶち込むだけの調理を始めるっスかね」



※一方その頃



ジャンプカートリッジが一本減っているのを、ため息交じりに艦長がコクピットで頭を後ろ手に見ていた。



「飛ばなきゃ死ぬ場面だから仕方ないとは言え、たまるまでは無茶はできねぇな」



ヴァレリアス博士の遺産の中で、通常の方法とは異なる理論と構築でワープするこのジャンプカートリッジはプレクスの逃げ足を支えるいわばキモの部分。


通常航行中に余剰エネルギーを貯めておいて、座標指定した場所に虚数空間で座標の位置と接着。それにより通常空間からの干渉を一切受けないままワープできる。


通常のワープは、ワープドライブ起動>ワープ座標確定>ワープシーケンス>ワープ距離を通常空間そのままでワープゲートを構築>ワープ場所へゲートをくぐって移動。


なので、プレクスのジャンプとは即効性がまるで違う。


通常空間からの干渉を一切受けないので、如何なる兵器や干渉も回避できるという強みがある。だが、このジャンプカートリッジの大きな弱点として。カートリッジが自然回復以外の回復手段がなく、カートリッジの個数分使い切るとジャンプが使えず。座標を指定して飛んだ際、そこにモノがあろうが星があろうが飛べてしまうので。飛んだ先に何かあると通常空間に戻る際、木っ端みじんになってしまうという弱点があった。



通常のワープはゲートを通るので、ゲートの先は見えている状態で移動できる。



既存のワープ航法が生まれる前の試作品の一つであり、ヴァレリアス博士の遺産を知るモノの中でも試作品を知っているものは更に限られる。



「こいつに頼って生きのびて来たから、こいつがフルじゃねぇといまいち安心できないんだよなぁ」


そこに、響がはいってきて「カートリッジ無かったら俺達死んでた場面なんて山ほどあるっス」と言った。振り返らず、椅子に座ったまま艦長は響に聞いた。


「あの赤髪の奴なんっつったか、あぁフランだフラン。あいつは大丈夫そうか?」

「コートが変な色になってたの、あれ自分の血っスよね……。どんな目にあったんだか」

「んで?俺達の飯はそれか?安さと量だけが売りの雑巾搾り汁一番搾り味の厳つい保存食バー」「俺達はしばらくこれ三食っすよ、予算が足りねぇっス」



「美味いもんがくいてぇなぁ」「そういう事は、もっと稼ぎが良くなってから言うっス」

「運び屋系の仕事がありゃいいんだけど」「俺達に、戦闘系は無理っスからね」


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