第四十三話 非常識
「あの、勉強不足で申し訳ないのですが……」
セリグが、モブにおずおずと尋ねる。
「推進機が、宇宙ゴミや氷等を吸い込むのはそういうものもあるので理解できます。ですが、宇宙ゴミというのは隕石クズなどもふくむのでそこから水や酸素を作るというのはもはや博士の遺産レベルのものですよ」
モブと響は顔を合わせ、だってなぁ……と苦笑しながら。
「最初は、響と俺の二人で艦族を始めたんだけどよ。全然稼げなくて、燃料と停泊代払ってるだけのなんちゃって艦族だったんだよ。そんで、食料も水もそん時はずっと買ってたわけさ」
「割とつい最近までそうだったッス」と響もあいずちをうった。
「んで、腹が減り過ぎた俺達はこう考えたんだよ。宇宙には氷や隕石クズが溢れる程あるなら、それをどうにかして水と酸素とか自分達が必要なものに変換しながら飛べないかってな」
しみじみと思い出す様にモブが言った。
まぁ偶然もあって、自分達の時代で作れないロストテクノロジーの残骸を戦場後やゴミ捨て場で拾ってきた奴を推進機とくっつけて。推進機は現代のものだが内側は、今の時代じゃ作れねぇもんで出来てるって事。
「推進機が可変なのも、直進運動や宙返りなんかで逃げるのは限界があるッスから。かといって、バーニアなんかをつむ予算は無かったっスよ。だから、力ではなく技で対応しようとした結果ッスね」
(そうして、この非常識極まるシステムが出来たって事ですか)
「知ってるかい?俺達の業界の合言葉」
「合言葉……ですか」
「「良いものがあるのは知ってるさ、そんないいもの買う金がありませんので(ッス)」」
後ろで、フランとシャリーが静かに笑いながら拍手していた。
「そんで、キッチンはどうだった?。狭かっただろ」
「小型艦である事を考えたら、十分過ぎますよ。レンジやヒーターコンロまでありましたから」
「ヒーターコンロは一基だから、鍋は一つしかかけられないがな」と肩を竦めた。
「そんな仕組みにしてる関係で、内燃機関にダイレクトインしてるわけじゃないから。安全弁や重力系を越えるような運転すると、もどって来ちゃう事もあったって事さ。今は対策したから、大丈夫だがね」
「あんときゃ掃除が大変だったな」とフランも苦笑した。
「そろそろ、宇宙(そら)に出るッスよ」
「「わぁ♪」」シャリーとフェティが肩を並べて窓の外の眼下に見えるホックリラリ衛星をみて歓声をあげた所だった。
「所で、大気圏を越える際に振動や熱を感じず。シートベルトをつける事も無く宇宙に出た様に思えましたが……」セリグは更なる非常識を目の当たりにした気がした。
「衛星は、重力がそこまできつくないからな。水平浮上でエレベーターみたいに上がって、衛星の外周部を越える時だけ推進機の出力を少し盛ったら出られるさ」
(そんな簡単に艦が星の外に出られるなら、人類は苦労してないっ!!)
「執事さん、元軍人だろ?簡単に言っちまうと小型艦に軍用の超大型艦用の推進機くっつけてリミッターだけで制御して飛んでる様なもんなんだよ。だから三週間でデメテルにつく予定だって言えるし、あれだけ大見栄切って安全だって言える訳だ」
そう、フランが付け加えるとようやく息を整えて納得した。
だがあいつらは、とてもついてないんだよなぁとフランは内心でぽつりとつぶやいて苦笑した。
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