第百六十一話 潜入前日
あの後、すったもんだ時間をかけ。デメテルにやってきたプレクス一行。
「俺に心当たりがあります。お任せ頂けないでしょうか」とセリグは旧知の中であるロハンに連絡を取った。
「おぉ! セリグ生きていたか!!」嬉しそうに手を包むように握手をし、ワザワザ港まで出向いて来たえらい恰幅の良い、どう見ても上流階級そうなこの男。
「フェティ様もご健勝で何よりです」そういって流麗に頭を下げ、フェティもこくりと頷いた。
「皆を我が屋敷に!」(あっやっぱり偉い人だ)とか思ったモブ達をセリグが制す。「申し訳ないが、このプレクスは下手な屋敷や宿より快適でして」頭に?を浮かべるロハンだがやがてあいわかったというと「ワシも後で呼んでくれ」とおどけた。
港への停泊権も、領空を飛び回る権利も「我の権の届く範囲でなら、好きにしてよいが夕食には帰って来い」とだけいって笑う。どうあっても、ご相伴に預かる気満々だが諸々の手続きを考えたら夕食で済むのは安上がり。
モブの許可をその場で取ると、一行は早速地図で女神像のある場所を地図で確認し。明日出かける為の準備を整えた。
「しかし、活気があんなぁ」「ここはデメテルの中でも関税以外の税金が安いんですよ。自国民だけですがね。ロハンは食に拘りが強い男で、とにかく飢えさせないと自分が飢えない事に関しては誰にも負けない制度作りをしていると思います」「あの揺れる腹肉とこの市場の活気がその証明って考えりゃ相当だな」モブは買い出しに行った時に、街にあふれる笑顔と活気を確かに見た。
「そんないかにも食道楽な奴を呼んで大丈夫かよ」「我に秘策ありです」セリグはウィンクするとモブも流石にそれ以上は野暮だと思ったのか頭をかいただけだった。
フェティとシャリーの二人も、久しぶりに街にショッピングに出られるとあってはしゃいでいた。フランが一緒についていくと言ったので、セリグもお願いしますとだけ言うと日が暮れるまで三人は帰ってこなかった。
セリグは、必死に夕食の下ごしらえを始める。
「さてと、俺らはライブラリの続きでも見るッスか」「そうだな、夕食までまだ少し時間あるしな」
そうして二人が部屋に帰ろうとしたら、フェティは響のシャリーはモブの手をそれぞれ引っ張った。「お兄さん達もいこ♪」そうシャリーに言われモブと響もショッピングに行く事になった。(俺らはジャンク屋や屋台の巡り方ぐらいしかしらね~)とモブや響は内心思っていたがいかない訳にもいかず。
セリグも、下ごしらえをしながら振り向いて。「すいませんが、テラヒモウを一匹買ってきて頂けると助かります。あれでしたら帰りは背に乗って来て頂いても」と叫んだ。
フェティはそれで、セリグの秘策メニューが何であるかを察し。
顔が太陽の様な笑顔に。それを見てモブと響は顔を見合わせ。「そのテラヒモウで作る料理は相当ウマいんだな?」とフランが真顔で尋ねるとフェティは何度も何度も力強く頷く。「響く~ん」急に響の肩に手を置くフラン。「うっス」急に真面目な顔になる響。
「俺いらなくね~?」モブが駄々をこねるが、響が今度はモブの両肩に手を置く。
「いらなく無いッス、行きましょうッス」それだけいうと今度こそ街並みに消えていく。
(デメテルで、ロハンの食道楽は有名ですからね。彼がコックに挨拶したいと言えば、神威も中途退室を許さざる得ないでしょう)
彼はハニトラに引っかかるなどありえない、ロハンの欲は食に偏りまくっているからだ。ロハンを味方につけたいなら、食でしかありえない。だが、そもそも彼の地位はデメテル王家につぐもの。だから、デメテルで彼を魅了するには食しかないのだが……。
(それ、結構ハードルが高いんですよね……。私も結局軍人としてではなくコックとして覚えられているだけですし。覚えられているだけでもすごい事なんですが)
コックの資格をとったのも、フェティ様の為だったけれど。彼にも思いのほか好評で、顔を合わせる度にとある料理をねだられる様になってしまった……。
幸い、フェティ様も大好物で専属護衛というより専属コックとしてはじめは受け入れられる形になりましたが……。
あれから、その料理は特に力をいれて腕を磨き続けて来た。
モブさん達は喜んでくれますかね……、美味いと言ってもらえたら嬉しいのですが。
プレクス専属のコックですか、誰かの専属と言われてこんなに嬉しい気持ちになれるのはフェティ様の時以来。
歳老いたその背中に、若干の哀愁を漂わせ。
セリグは思う、そして決心した。
デメテル王家の問題が全て片付き、フェティ様が大きくなって独立し。
それで、まだプレクスに自分が帰ってこれるのならば。
「こんな、老後も悪くはない。だがその為にも、神威はここで潰しておかなければならない」力を入れすぎて、持っていた金属製のフォークがぺきりと曲がってしまって慌てて力を緩め。しまったという顔になるが、クレズの事を思い出し。響にフォークを買ってくれるように通信でお願いした。
「本当に便利ですね、機材もなく盗聴もされず味方とこうも簡単に連絡が取れるとは……」
結局あれからアラネアと連絡が取れない所をみるとやはりそうだったのでしょう。
フランさんは、敵を倒してきたとだけしかいいませんでしたが。
少し目を閉じ軽くおじぎをするように、頭を下げた。
AIアンリクレズ……ですか、神威も愚かな選択をしたものです。
ナイトメアではセブンスに勝てませんよ。
「この世を国を支配したいなら、セブンスを手に入れるべき。遺産は数多ありますが、私が仮に現役の軍人でどちらか選んで戦えというのならナイトメアを叩きます。あり方でも許せませんし、勝率という意味でもです。普通は何処まで強くても複数の拠点を同時に守ったり通信はできません。セブンスは、マスターが許しさえすれば全ての概念が吹き飛びかねない。あれで本調子ではないというのなら、揃った時にどうなるかなど火を見るより明らか」
響さんはモブさんと一緒に旅をする事が楽しくてしかたないのでしょう。
最近は、フランさんもそうでしょうね。フェティ様は立場上、何処かでプレクスを降りなければなりませんが本音はきっと残りたいのでしょう。
俺も、残れるなら残りたいですからね。この艦は居心地が良すぎます。
そういうのを最後に無言で、一人キッチンに立つセリグは溜息を一つ零した。
コックとして、潜入する相談をロハンにしようとセリグは額に汗を流しつつ包丁を滑らせた。
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