第百六十二話 団らん

結局、引っ張られてきたモブと響だったが。思いのほか楽しんでいた。

フェティも、もうこの旅が終わるのだと思うと素敵な思い出が欲しくて。


最初にはいった店は食器の店だった。ついさっき、セリグが金属の食器をダメにしてしまったと連絡が入ったからだ。「珍しい事もあるもんっスね」「流石のセリグさんも、お偉いさんに出すんじゃ気合入りすぎてって事じゃねぇ?」「折角の機会だ、この際食器も少しいいモノにしとこうぜ」フランもノリノリで笑うとシャリーも可愛いのが欲しいなと乗った。


「まぁ、そうだな。フランはともかく、シャリーやフェティに大人の皿や無骨な金属製の食器いつまでも使わせんのは可哀想だしな」とモブがいうと素早くフランがヘッドロックをかましながら。「俺も可愛いのが欲しいんだがな」「自分で買え、上級傭兵様がよ」なんだと~とお互い悪ふざけしながら店に入っていった。



「いらっしゃいませ~」と感じのよさそうな店員が挨拶し、素早くお客の様子をチェック。(家族連れ?、 男どうしのカップルかしら……。の割には、子供は娘二人に大きい男が一人?)


腐の香りがする~と若干テンションの上がった店員。その目線を見て、何となく空気を察したフラン。もうすでに店内で物色を始めた響とシャリーとフェティの三人は皿や食器を指さしながら、「これ可愛くないっスか?」とか「それは、流石に子供っぽいからこっちかな」とか「これなんかどうかしら」とかやっていた。


ちなみに、モブとフランだけが出遅れ感があり直ぐに「フォークやスプーンなんかも買うから皿にだけ金かけるわけにはいかないぞ」というと全員がジト目で艦長を見る。


「お前、空気読めよ」とフランが頭を叩くと「先立つものがねぇんだよ」と親指と人差し指の腹を合わせてするようなジェスチャーをした。


響もそう言えばそうだったッスねと値段をみて、すごすごと手を引っ込める。

適当に、無難な皿やらフォークやらスプーンやらと一式購入すごすごと出て行く。


そんな訳で、直ぐ二軒隣の服屋に入ってさっきの食器屋と同じ様な感想を抱いていた服屋の店員であったが。フランが女性としって、目ん玉ひん剥いて泡までふいていた。「失礼な奴だな……」と溜息をつきながらも、紅いリボンを装備したフランを見たモブが「豚に真珠?」とか首を傾げ。さっきよりもきつめに頭を叩かれた訳だが、それをシャリーとフェティは楽しそうに見ていた。


リボンはシャリーが選んだもので、服はフェティが選んだのだが。フランも何処か居心地が悪そうにしていた。響は「どうせだったら、これ着てみたらどうっスか?」とフェティが薦めたいつも着ているコートと同じ白い色のオフショルダーワンピースを試着室で着た結果「似合ってる、似合ってる」とモブ以外には大好評でフラン自身も満更でもなさそうにお買い上げしていた。


そんなこんなで一行は買い食いしたり、酒場でフランが絡まれたりして逆に店の外まで酔っ払いが投げ飛ばされるイベントがあったが概ね楽しく過ごした。


「本当、手ぶらで歩けるって言うのは嬉しいね」とシャリーもご満悦、響もこんだけ持たされたと思うとぞっとするッスとかぼやいていた。


その後色んな場所を巡った後、プレクス内に帰って来た一行はセリグに頼まれていたブツを手渡すと早速血抜きをし始め、フェティが嬉しそうに「今日はあれですか?」と尋ねるとセリグはにっこり笑って「楽しみにしててください」とだけ言うと真剣に皮をそぎ始めていたので一行は邪魔してはいけないと艦内の掘りごたつの部屋へはいって行った。


そこへ、例の恰幅のいいロハンがやってきたので掘りごたつの部屋に入って貰い用意していた座椅子に座って貰うと嬉しそうに「これはいいですな」と笑うとフェティもどこか嬉しそうに頷いた。


「ロハンさん、御付きの二人も外じゃ寒いだろうから中に入って貰ったらどうだい?」

「宜しいので?」「かまわねぇよ」モブがいうとロハンは早速護衛の二人を中に呼び寄せ。「護衛じゃ酒はだせねぇが、一緒に温かいもんでも食ってってくれや」とだけいうと全員がウキウキでセリグの登場を待った。「フェティ様、本当にこの艦は居心地がいいですなぁ」というとフェティも「お風呂もシャワーもあるのよ」とプレクスのいい所を説明し始めた。それを、ロハンも楽しそうに何度も頷きながら聴いている。



(いい雰囲気っスね)(あぁ、良かったな)

そう、目くばせしていたら。いよいよ、フェティとロハンが心待ちにしていた。テラヒモウのフルコースが出て来たではないか。テラヒモウの握り、しゃぶしゃぶ、サラダ、餡かけ等思いつく料理は全てならべられていると言っていい。


「こいつは驚いたな……、クッソウマそうだ」「いはやは、やはりこのロハン。セリグ殿のテラヒモウ料理が忘れられませなんだ」フェティも早速テラヒモウの握りに手を出し、嬉しそうに食べていた。


「このテラヒモウというのはデメテル特有の生き物なのですが、とても調理が難しく一品出すだけでも難しい食材でして」ロハンは雄弁に語る、フェティも「この握りって一匹で買って来た時しかセリグは作ってくれないの」と珍しく饒舌に説明していた。


正直護衛の二人も、響もモブも一割も判らなかったがそれでも料理のウマさだけは一口で理解できたのかガバガバ食べていた。フランはシャリーと一緒にゆったりとフェティが薦めた料理を中心に手をつけていく。そこには、ただ平和な一時があった。


そして、明日は城に潜入後地下に行き。女神を回収する手筈となっていて、それぞれの気分を盛り上げるには丁度良い華やかな夕食になった。

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