第百六十話 夜明け
双子の女神を取りに、デメテルに行くことにし移動を始めた。
あれから、モブが働きに働いて修理が完了。ヴァレリアス博士の手紙を読んでしんみりした一幕もあったが気持ちを持ち直し目的地に向かう。
「しかし、俺は修理が終わってみればまた暇になんだよな。嬉しいな~」
「何言ってんだ、運動不足解消の為にトレーニングするんだよ」
宇宙空間では無重力で筋肉が落ちてしまう為、トレーニングルームがある事が宇宙船としてはデフォだ。それは、どんな小型船であっても倉庫にダンベル置いただけだったとしても無いという事がない。
「大体、お前この前運動不足でひ~ひ~言いながら走ったのもう忘れたのかよ」
うっと、なるモブ。ジト目のフラン。
この男は……、そうフランが言いかけた時にシャリーとフェティがモブを両サイドから引っ張ってコタツから出そうとする。
「艦長諦めて走ってくるッス」「こんな事ならVRベルト式ウォーキングマシンなんて作るんじゃなかった……」「何言ってんだ、あれは最高だぞ」
そう、子供から大人まで宇宙区間で散歩が楽しめる様に部屋中をVRにしてしまってまるで山や公園で木々やせせらぎを楽しめると言うマシンを最近修理のついでにモブは作った。最強設定ではフランが全力疾走しても全く問題なく、重力板によって歩き心地を確保。車や転がってくる岩に追われるような事もできる。ゆったりと過ごすなら、街並みの散策まで楽しめるのだ。(店内は再現できなかった、あくまで街並みを歩くだけ)
特に、少女二人は夜の道で星が降る様な田舎道の設定にハマってしまった。
レトロから最新の街や道、星座の星空も宇宙の星のモブが知っている夜空なら自由に変えられる。「そりゃ、若い子にはこんな狭い艦じゃなくて。せめて、色んな世界にあるもんみせてやりてぇからな」と。
だが、結果モブはこうして少女二人に引っ張られて歩く羽目になって。
(墓穴を掘ったかもしれない)
それを、フランと響が諦めろと笑う。
「本物の方が何倍もいいけど、本物を見て回る訳に状況的にいかねぇからな。判ったよ、三十分だけな」そう言って席を立って結局毎日歩く。
モブが出て行った後、響とフランがプっとふき出した。
「ライブラリで勉強して、前よりすげぇもん作れる様になっても艦長は艦長っス」
「だな! まぁ、それがいいんだけどよ」「ちげぇねぇッス」
あれから、少女達二人の顔が明るくなった。
「流石に勉強ばっかじゃ、年頃の子には可哀想ッスからね」
「かといって、街に居てゆっくりできるかと思ったら襲撃にあったりな」
フランが急に真剣な顔で響に言った。
「なぁ、響」「なんスか」言いにくそうに何度も言いかけては手を引っ込めたり口をもごもごしたり。やがて意を決したようにフランが言った。
「響はさ、女神を取ったらどうすんだ」「フランさんの腕なおすんスよ、錬金塔で生物は治せないッス。かといって医療ポッドじゃ腕が丸ごと治るものなんてまず買うのが大変ッス。無料でそれが手に入るなら、いう事ないっスよ」「俺以外の奴の病気やケガも治るんだろ?」「俺はそんな聖人君子じゃねーっス」「そうか……」「治して欲しい人でも居るっスか?」フランは首を横に振る。
「そうっスか」「あぁ……、病院にもおちおち襲撃かけられるんじゃプレクス内で治すしかねぇからな。そういう意味でも、女神は欲しい」「それなんスけどね、クレズさんが幾ら性能を上げても女神が手に入ったとしてもエネルギーの問題は錬金塔が無いと解決しねーッス、そう言う意味では俺も艦長同様にギャラルや女神よりも錬金塔のが先に欲しかったんスよ」けど……と響が俯いて表情が暗くなった。
「今回の事で痛感したんスよ、優先順位決めてる場合じゃなく。セブンスは全部取らないとダメだって、場所が判ってるなら墜落のリスクや全滅覚悟でも取りに行かなきゃいけないんス」とくに今統合していない三つは誰にも渡せないんスよ。フェティちゃんやセリグさんには辛いかもしれないけど。フランさんやシャリーちゃんにも申し訳ないんッスけどね。「水くせぇな、俺もシャリーもお前らがイヤだっつってもついてくからな」
フランが片手で、響のクレズの座っていない方の肩を優しく二回叩いた。
「俺が女神を先に欲しいのは、女神が治せるのは生物だけじゃないんッスよ。錬金塔と組み合わせる事が出来たなら自然も毒素も公害も治るんすよ」
フランは眼を見開いて「それ、マジか」ゆっくりと響は首を縦に振った。
「錬金塔で生物由来の細胞さえ培養、袋で保持、女神による生成、ライブラリによるデータから構築、砲台はギャラルみたいに組み合わせると兵器だけじゃなく。究極の医療機器としても使えるんすよ。他にも宇宙ステーションの主砲を吸収や反射できたりするんス」
どれか一つでも欠けると組み合わせてやる事は全部やれなくなるんス、だからセブンスは全部取らないとダメなんス。フランは頬杖をついて唸る。
「おい、響。場所が判ってるのは女神だけなんだな?」「うス、艦長は高確率であるって言ってたッス。セリグさんも肯定してたから、だから今回突っ込む事にしたんじゃないッスか」「判った、取ったらすぐ離脱すんぞ。こっちにゃ武器がねぇんだ」「そうっスね、例のラミアムがもう居ないってなったら、幾分気が楽っス」
「ったく…昔の連中、なんでそんなのがあって滅んだんだよ」
「結局人が人であるというとこまでは治せなかったんじゃないっスか」
「そうか……、そうかもな」そういうと、二人で天井を見上げ。
「どんなに便利で最強の道具があろうとも、人が人をである限り結末は変わらないか」
「そうっス、艦長みたいにぼ~っとアホズラさらして平和的な方が一番っスよ」
そうして、どちらともなく。声をあげて笑った。
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