第百五十一話 失うモノと羽ばたくモノ
(ったく……、どんなイージーゲームだこりゃ)
フランが、幾つ目か判らない迎撃軌道線を見ながら苦笑する。
アラネアは飛んでいる銃の上に乗ったり、銃をクロスさせてヴェルナーを防いだりしながらフランの異常性を徐々にではあるが理解し始めていた。
(本当に、どんな変則的な撃ち方や隠し撃ちをしても全部軌道が判るみたいに避けられる……。それも単位はミリ以下のミクロンってとこね)
「強い、本当に強いわ」薄ら笑いを浮かべながらアラネアが猛攻を繰り出す。
「こっちも、狙撃兵みたいなこそこそしている卑怯もんがこんな強いとは大誤算だ」
(アンリクレズが居なかったら、さっきの攻撃を躱している最中に首元から銃口が出て来たあれは躱せなかった……)
一進一退を繰り返すフランとアラネア、ただ両者には明確な差がある。
乃ち、ノーリスクのフランと常に失うものがあるアラネア。
燃料がなくなってくれば、当然機能も鈍る。
アラネアは、使い続けてきた。勝つために、悪魔と契約をしてしまった。
ドンドンと、人らしさは失われ。人でありながら機械へと近づいていく、ためらいはなくなり。己が傷つく事も痛覚すらも失っていく。
(ったくひでぇ兵器だな)
段々と余裕が出て来たフランは、その様子をみて内心で溜息を零す。
(初期型ですから、欠陥も弱点もかなりのモノです)
(ナイトメア式の存在自体が欠陥以外何物でもないだろ)
寄生型ってあんな人間捨てちまうようなもんなんか……、ある意味クレズも響に寄生してるっちゃしてるが雲泥の差。
(俺は殺されたって、あっちは使いたくねぇな)
自身の使っているヴェルナーは、剣ではなく鍵だとクレズは教えてくれた。
ずっと、剣と信じて使って来たし。ずっと、相棒と思ってこれを握って来た。
思えば、これを拾ってからボロボロだった服がズボンになり。まともなものになって、強さばっか追い求めて。ここまで来ちまった……。
(もしも、昔の俺が手を伸ばし。そこにあったものがこのヴェルナーでなく、ナイトメアであったなら。目の前のこいつは、俺だったかもしれねぇな)
獣のごとき、人の声を忘れた咆哮と。まるで散弾銃を連射している様な、面の攻撃を全て突きで捌く。自らの肩のケンがブチブチと切れている音がするが、お構いなしにフランが既に摩擦で擦り切れた足の裏で踏ん張る。
アラネアの何度目かのスカイツイスターとかいう技を凌ぎながら、フランが警戒しているのはただ一つ。
割と最初の方にぶっ放して来た、セレスティアル・ナイトホーク。
プロミネンスや宇宙艦をバリアごとぶった切って見せた、フランが受けるだけで体ごと沈んだのだ。
(あれをまともに貰ったら、流石に形勢逆転しちまうからな)
相当、燃費が悪いのか最初以外では撃っていない。
つか出血しても即座に止まってそれすら燃料として喰っちまうのかよ。
「おいクレズ、ありゃ後どれ位喰われたら止まるんだ」
「腎臓と肺にも進行、左目から左脳に浸食が達しています。想像以上にフランさんとアラネアの実力差があった為思いのほか早く血液を敵は消耗しています」
「そうか、後でセリグにゃ謝らなきゃな」「今のペースで進行した場合、十五分で彼女は人として再起不能になり。三十分で全身が動かせなくなるでしょう、ニ十分以降は戦えず武器は大地に転がります」
(絶対ぶっ壊す、あんなクソ兵器!)
まるで、残像を残す様に弾丸をぶちまけているが。フランは捌き続けて自爆を待っている、本来ならこんなに押されていれば心が砕けそうになる所だがフランには相手の残りの状態がアンリクレズによって見えている。
(やっぱ、俺の相棒はこのヴェルナーだけでいい!)
遺産の凄まじさは理解した、こんなのまともにやって勝負になる訳もない。
だがな、人間が人間を捨てる様な兵器がまともな訳ねぇ。名もなき無力な人間を、ただの無駄な消耗品に変えるだけじゃねぇか。
さっきから自分のヴェルナーでカバーできない所に飛んできた弾を全て、アンリクレズは虚数空間の収納に収納して無力化している。
(反則だろこんなの、まぁ開けられるゲートの大きさまでという制限はあるにしたって威力物量容量関係なく瞬時に好きな場所タイミングで収納できるとかふざけてやがる)
制限があるんじゃなきゃ、ラミアムから狙撃されちまうなんてミスするはずがねぇ。
徐々に体の色が変わっていき、アラネアの体の動きが鈍っていくが。フランはさっきから、クレズが表示しているアラネアの血液の量等をみていた。
心拍数も、何処にダメージや疲労がたまっているのかも視界にリアルタイムに表示されている。その正確な数値を見る度に、自身がこれをやられていたらと考えていた。ギズモの中身や、残弾数もクレズは虚数空間範囲内にあれば判るとも。
(遺産とまともに戦えるのは、遺産を使うものだけだってか……)
モブは錬金塔、クレズはギャラルホルンを欲しがってる。
「二秒後大きい攻撃が来ます」
直ぐに銃のフォーメーションが、フランの警戒していたセレスティアル・ナイトホークの形になった。直ぐに体ごと沈んでヴェルナーの出力を限界まで引き出し、巨大な弾丸と自身のヴェルナーの刀身が激突し一気に沈み込む。だが、眼球だけでそちらを見ればアラネアに鞭で追撃するだけの力は残っていなかった。
(つまり、これが最後っ屁って奴かよ!)
余りにも重く、最初のよりも更に。自身の全身の骨という骨が軋み悲鳴をあげ、噛みしめ過ぎた奥歯が折れた音を頭蓋ごしに聞いて。自身の片手だけでは受けきれずヴェルナーの握り手を必死に額で自身の手の甲を押して、まだ大地に沈み込んでいく。
「せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」ここが踏ん張りどころ、ここが分水本。
今までフランは幾度も越えて来た、今度も越えられないはずはないと己を信じ。
僅かずつ、ほんの少しづつヴェルナーの刀身を傾け。攻撃をずらしていく、その間額が割れて血が滴って地面に落ちる前にプラズマの熱量で蒸発していた。
数瞬の瞬きの間が、無限の牢獄で石抱きでもさせられている様に感じるが精神力で必死に耐え押し返した。
やがて、ラミアムの壁に穴をあけセレスティアル・ナイトホークは宇宙の闇に消えていったが瞬間クレズが叫ぶ。「エマージェンシー! その方向にはプレクスが来ています!!」
フランが霞む意識で「マジかよ……、すまねぇ」と変な笑いを浮かべながらその場でヴェルナーを杖の様に肩膝をついた。
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