第百五十話 女傭兵VS雌豹

「相変わらず、いい仕事しやがんな」タスっと軽快な音を立てて着地し、フランが思わず苦笑した。



「私のラミアムに、土足で入って来るとはいい度胸じゃない」


そこに立っていたのは、アラネアだった。


「てめぇはアホか、傭兵がそんなに行儀がいいわけねーだろが」

「それもそうね……」そういって、肩を竦める。


「それより、やっぱりアンタだったか。セリグにゃ言いにくいから黙ってたし、汚い大人の世界ってのをうちの娘には見せたくないから出張ってはきたが」


すっと眼を細めながら優しく笑う。「傭兵の割に、随分お優しい事」「傭兵は飯食う手段だからな、戦わず安全なトコで生活できるならこんな商売しなくてもすむんだが」


そういう会話をしながら、フランはいつでもヴェルナを抜けるだけの意識を手に向けた。

「お金ならあるわよ、これで見逃して下さらない?」そういって、キャッシュのつまったカバンを一つアラネアはフランの方に投げるがフランは直ぐに蹴とばした。


「おいおい、こっちはお礼参りに来てんだぜ。人の家あんなにドカスカ攻撃しやがって」

「あれは小型艦でしょう?」「残念ながら、俺は今あそこに住んでんの」「娘だって血のつながらない孤児拾っただけじゃない」「そうだな、だが女捨てて生きて来た俺にも母親としての同情心だか優しさだかは残ってたらしくてな」


お互いに、怖い笑顔でにらみ合う。


「勿体ない話ね、白刃フラン。宇宙に名を轟かせる程の傭兵でありながら」

「俺自身は存外今の暮らしが気に入ってるんだがね」


「ゴミムシと同様のなれ合いで、強くなれるわけないじゃないバカじゃないの?」

「バカだってトコは否定しない、傭兵に学なんかあるわきゃねぇからな……」


プレクスを残骸から作り出した、天才二人の顔を一瞬思い浮かべる。

あいつ等と比べたら、頭なんかあるわきゃねぇだろが。


「戦場で生き残るには血をすすって、死体から武器を漁って生きのびる。生きてる奴だけが勝者よ。死体を燃やして、自分以外を溶かして生きのびる」「否定はしねぇよ、俺もそっち側の人間だからな。ただ、その台詞は生き残って負けた相手の死体にいう事にしようや。お互い、そういう道を生きて来たもの同士」「本当に、勿体ない」



初めて、戦場で己より強く美しいと思える女を見た。


アラネアの左手のハンドキャノンから一気に六発の早撃ちがくり出され、それを素早くヴェルナーで弾く。


女の膂力と体重でミリも反動を感じてないかの様に次の動作を受けて、フランは確信する。「遺産使ってやがんな」「あら、貴女のその剣も遺産でしょう?お互い様よ」


いつ、弾をつめたか判らない動作で更に六発の早撃ちが今度は壁のあちこちを跳弾し。フランをガンマナイフの様に襲う。


「か弱い女が何の武器も無しに生き残れる程、宇宙は甘くない」

「否定はしないさ、ただの分析だ」


同じ銃が二丁、三丁と増えていく。合計四丁のハンドキャノンが今度は二十四発の弾丸を吐き出し、更に空中で一発の巨大な火の鳥になった。


「セレスティアル・ナイトホーク」受け止めた際に、フランの体が沈みこんだ所を右手に持っていた鞭で足を狙う。


「妖弾:閃架朧(せんかおぼろ)です」「弱点は?」

素早く後ろに飛んで回避しながら、アンリクレズにフランが尋ねる。


「弾と銃には実態がありますが、壊せません。核を壊さない限り、無限に復活します」

「要するに、核を壊したらOKなんだな」「はい」「核の位置を表示できたりするか?」


すると、視界に赤い点で表示されるがその位置は……。「心臓?」


すると、アラネアがバっと眼を見開いて飛びのく。


(クレズ相手に聞こえないように答えろ、あれも寄生型か)

(はい、その通りです。対象の血液と大切な記憶を糧にするナイトメア式の初期型兵器)

(あれが初期型だって? なんであんなものの開発を続けたんだ!)

(ナイトメアを使うモノに勝つ事が出来るのはナイトメアを使うものだけです)


「貴女、この遺産をまるで知っている風な事を言うのね」アラネアは警戒しながらフランに尋ねた。「俺が使ってる遺産はな、索敵や演算じゃねぇんだよ」


(もっとヤベェものだ……、全てのナイトメアを倒す事が出来る兵器セブンス)


「へぇ、興味深いわね」舌なめずりをしながら、アラネアが閃架を構える。


(クレズ、今更聞くのはあれだけどよ。こんなにあっさり力他人に貸して良かったのか?)(愚門です、マスターから全ての力をお貸しする様に命を受けておりますので)


大きく息を吐きだしながら、アラネアを睨みつける。


(ホンッと頼むから、これの手綱ちゃんと握ってといてくれよ響ぃ!)


弱点を表示できるかってきいて、本当にポンポン表示出来る兵器なんかあっていいわけねぇだろが……。大体、こいつプレクスのコクピットで見せた情報量に予測演算だけでも半べそになるレベルだぞ……。


響の肩の上にのっていた、すまし顔の機械の妖精を思い浮かべフランは嫌な汗をじっとりとかいていた。


叩き上げの傭兵だからこそ判る、このアンリクレズの異様さ。



正直、眼の前のアラネアとかいう女より。アンリクレズとかいう、女の方が万倍はこわい。味方だからいい様なものの、こんなの世の中にあったらやりたい放題じゃねぇか。こいつだって、ナイトメアと違ってデメリットねぇんだぞ?。


「攻撃来ます」アンリクレズが警告するや否や、フランが反射的に左側に避ける。

その時、弾道まではっきりと予告線が表示され。敵の弾道がその線の後を追うように飛んできた。


「まるで判っている様に避けるのね」「そりゃ長年傭兵やってんだ、死んでねぇって事はそう言う事だろ?」「それもそうね」


女同士が、お互いの武器を構えあいながら。

ラミアムでの戦闘はまだ始まったばかり。


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