第三十二話 再び宇宙へ
「てなわけで、早急に次のギルドがある星ノイズに向かって飛ぶ」
開口一番に、モブがシャリーやフランそして響に向かって言った。
「すまねぇっス」響も頭をフランに下げた。
「問題ねぇ、理由はいつものだろう?」ニヤリと笑うフランにモブがそうだよと肩を竦める。
「後、フランさん。悪いんっスけど、本とか映画とかも増やしたッスから運んどいてくれると助かるッス。主に子供用ッスけどね」と響が言えば。ぶふっと噴き出しながら、「りょ、了解」と返事をした。
(なんだかんだ言っても、いい奴らなんだよな。普通の艦族と違って)
「相当ムリしたろ」「うるせぇよ、おかげで貯めてた分全部パーだ」
「艦長が一番ノリノリで選んでたっス」「そこもうるせぇ」
ぶっきらぼうに言いながらも、後ろを向いて頭をガリガリやりながらモブが照れていた。
「何、どうせ対人戦がなきゃ俺は雑用しかやる事がねぇんだからさ」
「助かるよ」
ほらとフランが、シャリーの背中を押しシャリーがぺこりと頭を下げる。
三人が微笑ましそうな顔をして、次々とプレクスに乗り込んでは荷物の運び込みと計器類や回路のチェックを始めた。
ある程度、稼働させた状態で振動させ継ぎ目や裏側をきちんと精査していく。
目視と、走らせたプログラムで何重にも。
光が走るその様子を、シャリーが輝く眼で見つめていた。
「凄い……、艦長さんと響さんがこの艦を?」
「手作りで悪いっすけど、貧乏なんでこうするしか艦族になる方法無かったっス」
二人はほぼ独学で、ゴミ捨て場の壊れた装置やら装甲の構造を分析して船を組み立て。
更に食べ物を切り詰めて、ジャンク品を買っては分解したり修理したり実戦で学びこのプレクスを二人で組み立てた。
「艦長、毎度の注意だけはするっスけどなるべくレーザーは使わないで済むようにして欲しいっス。うちの艦の設備火力だけど、撃てても左右一発づつ撃ったら弾切れになっちゃうっス」
モブは頷くと、力強くタラップを踏んでいく。
モブだって、あんなエネルギーを消費するもんを使いたくて使う場面は少ない。
「手札が少ないって事は、それでやりくりしなきゃいけないって事だ。だからといって、手札が増えても選ぶのに時間がかかってたら間に合わねぇ。判断は、間に合ってこそだからな」
「悪運の強さと、思いきりの良さだけが取り柄ッスからね艦長は」
「うるせぇよ、大体この船の内部機関はほぼ響が作ったもんじゃないか。お前を信用してるからこそ取れる選択もあるってなもんだ」
「流石愛し合ってると違うな」とフランがからかえば「シャリーが男同士なのにですか?」と首を傾げ「抱き合ってた位だからな」と答えニヨニヨ笑った。
「あれは事故だ」「あれは事故ッス」
振動でのチェックも終り、暖気も終了。荷物のチェックも終って、平行装置や気圧装置の具合も良好なのを確認してタラップをしまう。
「んじゃ、次の星の港までは余程の緊急事態が無い限り降りれねぇから」
「シャリーちゃん、もう一度空を落下したくなかったらちゃんと扉閉めとくッス」
フランとシャリーが今一度タラップをしまった扉のハンドルをきっちりしまっているのを二人で確認してコクピットに向かってフランが叫ぶ。
「間違いなく閉めたぞ!」その声を聴いて「ほんじゃ、プレクス浮上だ」とモブがノリノリでかつて自分が初めてプレクスを宇宙(そら)にあげた時と同じ様に声を大きくした。
その様子を見て、響も「港のロックアーム解除確認、エンジン始動。垂直で高度四千まで上げてから、可変ブースターを使って大気圏を抜けるッス」
プレクスの機動性を支えるのは、可変ブースターと呼ばれる部分。通常の艦はブースター等の推進機器は後部に固定されている。これは、製造される艦の殆どが企業や国が作るもので大量生産する為にある程度規格として固まっているから。
所が、プレクスの場合は一品モノのお手製で中古品とジャンクで作られてる為にこの推進部が翼から後部まで自在に移動する。ダメになった推進部を切り離しても、一個あれば速度が落ちるだけで浮上と着陸に支障が無いのである。
又、推進部自体が傾く為。宇宙空間でいきなり正転と逆転を切り替えるなどの無茶な動きも可能で、燕の様に宙返りをかましたり出来る。問題は、この可変部分の動作にすらエネルギーを食うので貧乏な彼らは緊急と離着以外でこの可変推進部を十全に使う事はない。
通常の飛行機や艦は螺旋を描く様に上昇したり、ミサイルの様に一気に突き抜けたりするがプレクスのガワはかなり柔いので上昇圧力をごまかしたりする時にこの可変推進機のお世話になっている。
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