第六十七話 誘拐
しばらく、クレズに統合されたレイデアクリスによってあらゆるものを補完する事によって随分身軽になったプレクスの中で二人がのんびりしているとセリグがコクピットに走りこんで来た。
「大変です! お嬢様がどこにもおりません!!」
「何っ?! 見間違いじゃねぇのか?」
ばっと席から立ち上がるとモブがあちこちの扉をあけて探し始めるが、フェティの姿が何処にもない。
「セリグさん、最後にフェティちゃんみたのは何処っすか?」冷静に響が尋ねると、セリグはおやつの時間の後お嬢様は外に出られて……って。
「外に出てから、帰って来てないんすね?」響が確認すると、真っ青のセリグがゆっくりと頷いた。
「クレズさん、エネルギーの方大丈夫だったら答えて欲しいッス。フェティちゃんの現在位置って判るっすか?」
「ここから、時速約六十キロで北東方面に進んでいます」
その瞬間、響がモブに大声をかけた。
「艦長、クレズさんがフェティちゃんの位置索敵出来てるみたいッス。ガワの仕事が終わってるんならエンジンかけて飛んでけば追いつけるかもッス!」
「二分くれ! その間に、響は全推進機始動頼む!!」
「了解っス、セリグさん。悪いけど、フランさんとシャリーちゃんに連絡して欲しいッス」
「その必要はねぇよ」と後ろからフランがシャリーと手を繋いでコクピットにやってきていた。
「でも、響。なんで、クレズが位置判るなんて思ったんだ?」
「昨日、倉庫の権限をつけた時に検索機能をつけるって言ってたっス。検索機能とかを本人に付与する様な機械だと、構造的に識別してマーキングするんスよ。だから、もしかしたらと思って聞いてみたら。案の定だったわけッス」
取り敢えず、地表で飛ぶ分には問題ない程度に全点検をしながらモブが響に聞けば。響はそういう機械は大体こんな風になっているはずだとあたりをつけて聞いたのだと説明した。
「良し、点検終了。全計器以上無し、響、クレズの野郎に現在の位置が判る様にレーダーにださせてくれ」
「クレズさん、悪いけどなるはやでフェティちゃんの位置を出して欲しいッス」
「畏まりました」と返事が聞こえ、すぐに紅い光点で位置表示が点灯した。
「真上に着いたら、俺が強襲してくっから」「頼む!」
フランが提案し、モブがすぐに了承。
「取り敢えず、フラン以外全員席ついてくれ」
そういうと、すぐにシャリーも響もセリグも自分も席に座ると始動キーを力いっぱい回した。
火が入り、明かりが一気にともっていく。プレクスは少しだけがたんと揺れたがそれ以降は振動も音も殆ど無く、コクピットの景色だけが変わっていくのをみてシャリーとセリグが驚きの声をあげた。
「よし、ガワの改造はウマくいってるみたいだな」
「相変わらず、人間適当な割にはいい仕事するッス」
一言余計だっつーのといいながら、タッチパネルを操作。ぐんぐん速度を加速させ、すぐに光点に追いついた。
「あの車っスね」響が指を指した先に車が走っていた。
「軍用ジープ、って事はやっこさん艦じゃ埒があかないってんで。実力行使に来たって事か」
そのモブの台詞をきいて、ぎりりとセリグの拳が握りしめられる。
「艦長、もう少し近づけてくれ!」フランが叫んだ。
モブがさらに操作し、じりじりと速度と位置を合わせていく。
ダンッと踏み込む様な音が聞こえ、フランが飛び降りたのをチラ見で確認した後。
ジープの上にきっちり着地した、フランが大暴れしてほどなく車が左右に揺れ始める。
「俺達は、一定距離を維持するぞ。フランに任しときゃすぐ片づく」
そういうと、一定距離上空を併走でプレクスを飛ばす。
「艦長! 前前ッス!!」響が指を指すと左右に揺れたジープが崖に向かって真っすぐ突っ込んでいる所だった。
「モブさん!」セリグが、悲鳴に近い大声をあげた。
「くっそ、間に合えっ!」プレクスの推進機が大きな音を立てて加速、崖に先まわりしようと前に出る。
「セリグさん、入り口から縄バシゴを出してくれ」
「マスター響に提案します、フェティさんをフランさんが私の虚数領域に一時保管する形で投入し。フランさんは、縄バシゴに掴まってプレクスに飛び移る方式を提案します」
全員が、それだという顔になり。フランに、通信で手短に伝えた。返事は無かったが、頷いたので大丈夫だろう。
(問題は、崖から落ちながら飛び移ってくるフランを一発キャッチしないとって事なんだが……)
「ったく、映画かよ!。 畜生っ!!」
そういって、手に嫌な汗をかきながら。全員が、自分に出来る事をてきぱきとこなし。
シャリーも緊張しながら、両手をグーにして祈っていた。
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