第六十六話 捨てられていたモノ

来る日も来る日もあっちこっち、なおしてはジャンク街に行き。又は、ゴミ捨て場に行き。バザーに行き、そしてチェックしては分解してパーツにする。



こうして、モブのストック部屋には大量のパーツやコードが積み上がっている訳だが。

それらでも、今回新しく改修した事によってもう使わないであろうものもあるのでそれをゴミ捨て場に捨てに言った時。モブは、それを拾って来た。



「なんすかそれ」と響がモブの持ってきた、薄汚いアタッシュケースの様なものをみた。

「よく判んねーから持ってきた、今からこれ調べんだよ」


すると、通りかかったシャリーもそのモブが持ってきたものを覗き込む。



クルクルと回しながら、鍵穴もなけりゃ継ぎ目もない割にはまるでパズルの様な不可思議なラインが走っているメカっぽいデザインのこれ。


取り敢えず、金属っぽいからと乾いたウェスと油で磨きつつ。


「何処で拾って来たんすか?」「RXで俺達がジャンク探してるゴミ捨て場、たまたま見つけてさ」


底が何か見覚えのある形に、凹んでいたのを響が見つけた。


「艦長、ここなんか見覚え無いっすか?」「あん?」


「よく見ると、確かになんか凹んで……。あっ! 自分の腰に下がっているヴェルナーに眼をやった。


カチと音がして、隙間が殆ど無くぴったりと収まった。

そして、頭の中にアンリクレズの時と同様に声が聞こえてくる。


「我が眠りを覚ますものは誰か」顔の前を角からレーザーの様なモノがでて通過し。

「音声入力でカスタムコードをどうぞ」というと沈黙。


「おい、これヴェルナーが外れねぇぞ。このっこのっ!」ぴったりはまったそれはピクリともしない。


「艦長、多分クレズさんみたいに融通が全く利かないタイプッス」

「つまり、カスタムコードを当ててご主人様になって命令しないとぶっ壊されても言う事きかないタイプか」


足で挟んで手で、顔を真っ赤にしながら力いっぱい引っ張りながらゼーゼーと息を吐いてそんな事を宣う。


「カスタムコードをどうぞ」機械音声の様な声で繰り返す箱。


「ホットケーキ……とか?」モブがそう言うと、無慈悲なブザー音が鳴った。


「カスタムコードをどうぞ」再び繰り返す箱。


「ファッキンロックンロール?」シャリーが意味も解らず、さっき見ていた映画の男優の台詞を口にしてみるも無慈悲なブザー音が鳴るだけだった。



シャリーとモブが響の方を見るも、両手を軽く上げていやいやと首を横に振る。

そして、悪ふざけした。


上を二回、下を二回叩いて。左右左右と交互に一回ずつ箱を叩いた。その後、両手を祈る様に合わせて「ヴェルナーを返して欲しいっス」と言ってみた。


「正規の手順を確認しました、マスターのお名前をどうぞ」


「うそやろ!?」「うそぉ!?」驚くモブとシャリー。


「響ッス」「マスターの登録を完了しました、鍵となるヴェルナーを返却します」

からんと床に落ちるヴェルナー。


しばし、何とも言えない表情で固まる三人。


「ちなみに、これはなんの機械っスか?」と響が尋ねる。


「我が名は、セブンス。セブンス:レイデアクリスです。響様は、既にアンリクレズのマスターの様です。レイデアクリスはアンリクレズに統合され、以後はアンリクレズを呼ぶ形で機能にアクセス下さい。レイデアクリスの機能は、保管系統に特化しています。食料、データ、燃料あらゆるものを安全に保持いたします」


そこで、響は首を傾げながら尋ねた。


「容量はどの位はいるっスか?」「現在、アンリクレズと二機分の虚数領域を確保できます。虚数領域が許す限り、仕切りと検索ベースを用意するだけですので幾らでも保存が時間停止で保存可能です。虚数領域は、実数領域の時間的概念が存在致しません」


「ギズモよりすげぇじゃん!」と叫ぶモブ、「あんな裁縫箱と一緒にしないで頂きたい」とレイデアクリス。


「アクセス権は艦長と、俺と、シャリーちゃんとフランさん。後は、セリグさんとフェティちゃん全員に全く同じ権限をもらう事は出来るっスか?」「それが、響様のご命令であれば響様の一段下の権限を配布する事は可能です。その場合は、頭で私の名を呼んでから命じて下さい。但し、生き物を入れた場合虚数に保存する関係で権限の無い人間からのアクセスは不可能になります」


「判ったッス、じゃ手始めに艦長と俺の部屋にあるジャンクパーツ全部と食料と予備エネルギーを保管して欲しいッス」「畏まりました、三時間後には各員にも今保管に入っているモノを検索できる機能をお付けします」


そういうと、次々に荷物たちが透けて消えていくではないか。


それを、茫然と眺める三人。


「なぁ、響。長年の夢がかなったのに、釈然としない気分なのはどうしたらいい?」

「何ともならないっス、昔やったシューティングゲームのコマンドの順番で叩いてお願いしたらそれが正規手順とか……。ねぇっスよ、無し無しっス」



「ねぇ、お兄さん。お部屋掃除してきてもいい?」とシャリーが尋ね、モブがあ……あぁとから返事した。


二人でがっくりと肩を落としながら、溜息をつく。


「食料と水とエネルギー多めにいれとくか、何が起こるか判んねぇし」

「そうっスね、後酸素ボンベとかそういうのも入れとくッス。皆で生き残れる様に」


とぼとぼと、何とも言えない表情でにへらっと笑った。

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