第百六十五話 深く長い道のり

「にしても、これ後どれ位あんだよ……」「迷わず、順路を進んで残りの距離は約百三十八キロの道のりです」空気を読まずにアンリクレズがモブの質問に答えるとうへぇと言った顔になった。



「しっかし、ここ罠一つない割にどんだけ長い迷路になってんスか」「あちこちに人の骨らしきものが落ちてる所を見ると避難場所って訳でも無さそうだ」「大方、ロハンが持ってたように地図自体は比較的手に入る……が、普通に考えてそんな距離を食料も水も持って歩かなきゃならないとなると不可能って訳か」


「仮にギズモみたいなのがあったとしても、容量次第では厳しいな」「地図を見ながら入れると言っても、俺達みたいに視界に矢印で案内がでるわけじゃないからマッピングしくじったらそれで一貫の終わりだろうし」自分達の視界の右上に矢印が表示されているという非現実的なそれをチラ見して全員が呆れ顔になった。


「表示を消しますか?」「消さないで欲しいッス」「かしこまりました」

アンリクレズは響の左肩に座ったまま、響に尋ねるが慌てて首を横に振る。


灯りもアンリクレズの羽自体が光源となっており、かなり明るく周囲を照らしてくれている為不安はない。無論、仮にはぐれても迷宮内であれば引き戻せる範囲ではあるのだが。これで、アンリクレズが居なかったら恐らく往復同じ距離を歩かされると思うと陰鬱な気分になってくるのは確かだ。



「錬金塔があれば、ゴールまでゲートを開く事ができるのですが……」「おい、響」「何スか」「マジで悪用すんなよ。洒落にならねぇぞ。治す力や距離を潰す力なんてのは割と誰でも求めるレベルのもんだ」


「俺は、クレズさんを道具としては見てないッス。プレクスの仲間。それ以上でもそれ以下でもないッス」



アンリクレズが何度も咀嚼し、何度も思考を巡らせていく。


「機能を持たせた人間の所まで飛べるって事は、人間の内部にも毒や金属を出す事は出来るんだよな」眼を鋭くし、フランがアンリクレズに尋ねるとそれを肯定する。


「はい、機能を持たせると言う事はそのものを中心に私の虚数領域を展開していると言う事でもあります。私本体の虚数領域の外側でも袋につなぐことが出来るのはそういう原理ですので」「俺はそんな事しないッスよ」「お前がしない事は判ってるが、出来るってのがそもそも問題なんだよ。宇宙でドンパチやるとき基本的にバリアで身を守るだろう?」


あ……となるモブ。「そうか、人間の内部なんてピンポイントで出せるって事は宇宙艦の心臓部に出したら通常艦は何も出来ずにオシャカだ。ナイトメアみたいな幾らでも復元できるアテがないなら間違いなくそうなる。ついでに言うならこうして地図を出されたら流石に判るが、何にも出して無かったらお前は空間展開してる事に気付けるか?」


あ……となる響。「そうっスよ、何も気がつけないじゃないッスか!。人数制限があるのはエネルギーの問題だってクレズさんが言ってたって事は錬金塔があったらその制限がない事になっちゃうッス」


「私は響様の命令がなければ何もしませんが」「幸い、機能のヤバさを理解していない節がある。シャリーやフェティみたいにアイディアを思いつくなら幾らでも悪用出来るだろ」口に手を当ててぽかんとしていたが、どんどん顔が青くなる。


「これから、俺達はそういう兵器を完成させてナイトメアと戦う事になるんだぞ」

「あの胸糞悪い兵器使ってる連中、許せねぇしな。おちおち、のどかにライブラリ眺めながらミカンも食えねぇ」


遺産には遺産でなければ、勝ち目がない。それは嫌という程思い知ったじゃないか。


「艦長……、俺はミカンより熱かんがいいっス」「お前らなぁ……」

シャリーもさっきまで青かった顔が、変な笑いになりながら。やっぱりお兄さん達だねと横に居たフランにいうと肩を竦めるだけだった。


「本当凄いんスよ、ライブラリは読んでも読んでも新しい発見があるッス」

「あぁ、あれ眺めながら応用してモノ作ってるとさ。たまらなく手ごたえを感じるんだよな」


「あたしも、ライブラリの一部を見てるけど凄いのよ。お義母さん」とシャリーも参加し、完全に三対一になったフランが俺は見ても何だこりゃだったけどなと苦笑した。


最近は響に教えられて、一つ一つどの経路に何がぶら下がっているのかを管理する為の管理ノートをつけたりし始めている。規模がデカくなったり、修正を重ねて居るとこういった更新履歴は命綱になるからと響はとにかく自分が必要だと思える情報は絶対書いて残す様にシャリーに言っている。


電子媒体で残すと、規格や時代や読み取り機が世の中から消えた時に対処不能になる。でも、紙に書いてあるならその心配はない。その時に愚痴や笑い話でも書いとけば、後で読んだときに息抜きにもなる。更に電子媒体では、容易にコピーや技法窃盗などが行われるが紙媒体等であれば遥かに難易度があがると説明した。


「だから、大事なものは書いて残すッス」と。


「ちなみに、何が書いてあったりするんだ?」「汚客(おきゃく)の愚痴とか、漫画とかが沢山かいてあるの。後は、コメントで艦族ギルドの老害どもが~みたいな事もかいてあったわ」とシャリーが元気よく答え、フランが「それせめてシャリーに見せる時は漫画だけにしとけよ。気持ちは解るけどさ」「うっス」


「クレズがしまってくれて助かったものはジャンク以外にも沢山あったって訳さ」

「お前らよくそれで今までしかも、小型艦で生活しながら宇宙を旅してたな」

「自慢じゃねぇが最悪の時は、コクピットまで埋まって椅子の上で座って寝てたからな」

つくづく、その時にプレクスに乗って無くて良かったと思ったフランだった。


そんな事を会話しながら、どんどんと迷宮を進んでいく。王城の地下にあるこの迷路の長さは異常。昔の人は、たった一つの女神の機能ですらこれ程恐れたのかもしれない。



時間をかけ、遂に一行は最下層の大扉の前にたどり着いた。

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