第百六十四話 迷宮

セリグが城でコックとして潜入、デメテル城壁の中にある入り口からフェティが王家専用避難通路に案内。その通路の途中に、問題の迷宮はあった。


といっても怪物が出る訳ではなく、単純にクソ程長い迷路になっている。

こうした迷宮で水と食料の確保がもっとも問題になるが、アンリクレズの空間機能によって長い道のりの景観のないキャンプと化していた。


フェティが思い付きで尋ねた所、地図もアンリクレズが覚え。ゲームの様に視界右上に案内表示まで全員に出してくれるというのだから、その高性能っぷりは留まる所を知らない。


だが、アンリクレズ自身も組み合わせ次第でその様な事が出来る事を把握していなかったらしく。いわく「今まで、分けられた機能をこの数統合できた例はありません」との事だった。そして、フェティにお礼を言うと今後も可能不可能にかかわらず提案を頂けると助かりますと頭を下げた。


現在のアンリクレズは、錬金塔を持たない為エネルギーをやりくりして機能を実現している。高機能になればなるほど、出来る事や消費は増えていく。自動回復量も増加はしているし、袋の機能を有している為タンクの容量に不安はない。だが、幾ら入れ物がデカくても燃料が入ってこないのでは節約に節約を重ねる他ないのが実情だった。


無駄に高機能であるが故に、歯がゆい思いをしている訳だが。フラン達からすれば、いっそ見つからない方がいいかもしれないとまで思っていた。


現在のアンリクレズの袋を経由するジャンプは両側にプレクスメンバーが居るか、アンリクレズ本体を中心に機能四つ分の虚数領域を全周展開した距離となっていて、情報収集等もこの全周展開内部に限られる。エネルギーでごり押しすれば一時的にこの虚数空間を伸ばす事はできるが肝心のエネルギーが無い。なので、トイレなどで地上に戻る時はセリグのいる調理場を経由して城内の設備を使う事にした一行。



ちなみに、シャリーとフランは軽快な足取りでガンガン進んでいくが運動不足のオッサン二人はまさに亀かナメクジかというようなへろへろの速度で壁に手をつきながら今も歩いている。



「あいつら……」フランが呆れ顔でちょくちょく後ろを振り返り、シャリーは響の手をひっぱって「お兄さん、大丈夫?」。


「やっぱ、俺達邪魔にしかなってねぇッス」「だな、艦の運転なら自信あるんだが。運動はさっぱりだ」「お前らが居なかったら、上と往復できねぇだろが」「それなら、俺達のどっちか一人でいいっスよね?」「死なばもろともって言葉が傭兵の世界にゃあるんだが」「俺達は艦族ッス」「それに、艦長はともかく響はパーツかもしれない奴取りに行くんだから居ないとダメに決まってんだろが」


あ……という顔になる響、やっぱ俺いらねぇじゃんと文句を垂れるモブ。



「ほら、頑張って歩こう?」今度はモブの手を引っ張るとモブもよたよたと歩き始めた。「特に響様が居て頂く必要はありませんが」そのクレズの言葉に、響も嫌そうな声をあげた。「どういう事っすか?」「あくまで、アンリクレズの機能がついて居る人間が近くにいればアンロックからの袋を通じて自動統合されますので」


響はそれを聴いて、更に嫌そうな顔をした。「それだと、俺も歩き損じゃねっスか」

「最近はセリグがウマいもん作ってくれるから、運動不足だと太るぞ」とフランに言われ急にシャキッとする二人。


「いくか、俺達のペースで」「そうっスね、言われてみれば最近ウマいもん食いすぎて随分腹に肉がついた気がするッス」自分の腹を撫でながら諦めた様にまたよたよたと歩き出す。


「艦に乗ってる時はあんなにかっこいいのに……」シャリーが呟く。

「そりゃ、俺達は艦族だからな。水からあがった魚見てぇなもんだ」とモブも口を尖らせた。「陸でも歩けるようになれや」「そりゃ絶賛鋭意努力中だ、いきなりはできねぇよ……。生物が進化を果たすのに何百年何千年かかったと思ってんだ」


そうは言いながらも、ちゃんと歩いている辺りまだマシかとフランも肩を竦めた。


「錬金塔が無いばかりにご不便をおかけします」とアンリクレズが響に謝罪すると響は苦笑しながら「これを不便とか言ってたら、世間様から俺はぶっ飛ばされるッスよ。地図が表示されて、水や食料に何の問題もなく、地上に戻り放題って事は出られなくなる心配もないッスからね」


「そうだぞ、クレズ。あんまり、響を甘やかすなよ」「いや、フランさんはもうちょっと気配りとか覚えて欲しいッス」


そんな事をいいながら、まだ探索は始まったばかり。


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