第百五十八話 飛翔の果て

取り敢えず、激闘を制したプレクスはモブが当初指示した通りの場所でフジツボの様に着地というかはりついていた。



流石響だ……、逃げ切った報告を聞いた後でモブがこぼす。



「艦長、早いとこ戻して下さいッス」「任せろ、飯と睡眠時間以外は全力で仕事する」宣言通り、モブは必死でなおしているが。響から全推進機の状態を見てくれと頼まれ見た瞬間ムンクの叫びみたいな顔でうねうねしながら「あか~ん」と叫んでいた。



(あいつは約束守ったんだから、俺も守らにゃな)そう思いながら。



「シャリーちゃん、フェティちゃん。お疲れ様ッス、めっちゃ助かったッス」

それだけ言うと椅子を倒して横になる。


目にハンカチを畳んでのせると、クレズさんもめっちゃ助かったッスとだけ言うと眠ってしまった。


限界まで目を酷使し、両手も指一本動かせないのを無理して強がった。

クレズは眠りについたのを確認すると、響が寝ころんでいる椅子の腕置きに座る。


そのまま、学習した内容を一気に自身にマスターさせるべくデーターを何度も何度も繰り返しロードする。この速度についていき、先周りし。響の役に立たねばならない、それはクレズ自身の課題であった。


「寝ちゃったね」「うん、響さん凄かった」響がやっていたように片手でキーボードをまるで拳法を教える時に指の腹にインクをつけて師が弟子の急所に突きこむように触れるようなイメージで正確に叩いてた。


少女たちは邪魔しない様にそっと、コクピットを離れるといつもの掘りごたつがある部屋に二人で座って話の続きを始める。


「おう、二人とも。ここに居たのか」そういってフランがやたら大きい予備バッテリーを持ってきて部屋の端っこに置くと掘りごたつのコンセントを差し込む。すると、直ぐにぬくもりがやって来てフランもシャリーの横に座ると真ん中にあったミカンを一個とってむき始めた。


「悪かったなシャリー」「ううん、お義母さん。私もクルーだから」そういって笑顔の娘をみていると心底ほっとしたフランはミカンを口にほおりこむ。


「宇宙でミカンたぁ、豪勢極まりねぇ。普通は缶詰めだぞ」そうは言いながらも、どこか嬉しそうに食べていた。


フェティも、ゆっくりとではあるがミカンを丁寧にむき始め。口にいれると、「まぁ♪と顔を綻ばせた」



「この掘りごたつもよ、お義母さん」「こんな何もない宇宙じゃ、いくら外側をバリアで覆ってたって。どれだけ、断熱材とかで頑張ろうと限度ってものがあるだろうけど。掘りごたつ動かす為の予備バッテリーまであるとは、どんだけ用意周到なんだって話だよな」


そういって、チラリと自分がもってきた部屋の隅にあるバッテリーを見るとまた新しいミカンをむき始めた。


「美味いみかんだなこれ」フランが自分が持っているミカンをかざしてくるくると回した。フェティとシャリーは響の事をかしましく話し、それをフランは聴いていた。


(できる男だと思っていたが、本当すげぇなあいつ)



「ねぇ、お義母さん。私この艦で、もっともっと学びたい」「そりゃ俺に言う事じゃねぇよ、あいつ等に言うんだな。特に艦長、ほら直ぐ後ろに居るだろ?」と親指で背後を指すとものすごく重い足取りで、まるでピラミッドづくりを一人でやらされている奴隷の様な表情のモブが居た。



ダイナミックに空いた場所に座ると、ミカンを三つ自分の前に確保するとむき始めた。

「ん~、うめぇ♪。やっぱコタツで食うミカンは最高だな!」そんな事をのたまいながらさっきまで死んでいた表情が和らぐ。「俺は居てくれた方が楽できるから、居てくれるんならありがてぇだけだぜ」それだけいうと両手をコタツに突っ込んで顎をのせると。う~さみさみとかいいつつ眼を閉じようとした所フランに肩を叩かれた。


「おい、修理はどうなったんだ?」「思ったよりひでぇ壊れ方したから二週間は不便をかける」そういって頭を下げるが、フランは気にすんなとみんなフラフラなんだ。ただ、進捗は気になるだろ?と苦笑した。


現に、シャリーは談笑こそ楽しそうだが顔色に疲れが見えているのだ。

「ミカンなくなったら、セリグさんに言って出してもらってくれ。バッテリーは重いからフランか俺が運ぶ。悪いが、部屋のエアコンもバッテリー使ってくれ」「この艦はバッテリーがあれだけ積んであるだけマシだな」というと。


「俺がこの艦で一番寒がりなんだよ、エアコン動かなかったら死活問題だわ」それもそうかとフランがまた大きな口で笑い出した。



シャリーの肩をゆっくりそっと二回叩くと、ありがとよというと。モブは立ち上がってまた作業に戻る様であった。


シャリーも、足だけ突っ込んで後ろに倒れると。天井を見つめながら、色々あったなぁと呟いた。フェティも、モブさんはプレクスがなおったらデメテルにある女神を奪取すると言ってました。その言葉に、フランとシャリーの眼が見開かれ。


「あいつ……、本当に腹にすえかねてんだな」と何かを悟ったように天井を見て溜息をついた。

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