第百二十八話 かえりとうない

結局判った事は、この二人は艦族としては割とデビューしたてで燃料節約のためこのエリアを突っ切ろうとした所ポンコツ艦で中古で買った為に各部が止まってしまったという事だけだった。



頭をぼりぼりやりながら、モブが「判った、近くの星までけん引してく。その間悪いんだが、俺と響が使ってる部屋をカサイさんとサオリさんが使ってくれ」


「ありがとうございます!」「おい、響。星ついたらちょっと手をいれるぞ。このまま飛ばしたら、棺桶と変わらんし」


二人は、顔を見合わせて驚く。


「え?酸素や水って大丈夫なんです?というか水や酸素の残量計が見当たらないんですが」「あぁうちにはクレズがいるし、多少人数増えた所で部屋がねぇってだけで廊下で良いなら運ぶ事自体は出来るんだよ」「どんな酸素タンクで積んでるんですか?」「酸素タンク何かねぇよ?」モブがそう答えるとカサイとサオリがギョッとなる。



「タンクがない?」「あぁプレクスは、推進機使うと排気の代わりに水が出るんだよ。この水を冷却に使ったりして冷ましたのがお湯として出てきて、水素と酸素に分離して酸素は濃度だけ判る様になってんだ。んで水はろ過装置を通したのが出てくるから、艦が飛んでる限り水と酸素はずっと出続けるわけだな。だから、酸素を積載する為のタンクはない、しいて言うならシステムとして一体化してるが正しいが」


モブは更に二人に説明を続ける、自分も若い頃失敗したから。


「菌類を使って水素をエサ代わりに喰わせて、そいつは二酸化炭素を吸い込んで酸素を吐き出す奴を心臓部に入れてるから。毒がきても排出して、酸素を作り放題になってる。その分スペースが空くから、発電設備や部屋空間を詰め込んでる感じだな」


指を折ってモブが説明をする度、カサイの常識がぶっ壊れていく。

「推進機自体が、遺物をかってに改造したものだから量産しろって言われても無理なんだけどな」「そう言えば、小型艦けん引するって言ってましたけど。このプレクスってそんなパワー出るんですか?」「無茶さえしなければ、宇宙空間で引くくらいは問題ないさ。地上に降りるときは流石に自力で降りてもらわにゃ困るけど」



まっ、そんな訳でお二人さんが俺達の部屋を使う間俺達は別んとこで寝るから宜しく。

「それだけいうと、モブは掘りごたつに入って猫みたいに気持ちよさそうに背中を丸めた」


セリグがそれを聞いて、眼を丸くしながら「そんな、構造になってるんですね初めて聞きました」「俺も」フランと一緒に驚いて固まっている。


「艦長あんな感じっすからね~」「うんうん」響とシャリーも二人で納得するとカサイさんたちもなんか飲むッスか?と尋ねた。


思わず二人が無言で、真顔になった。

それをしり目に、プレクスのクルーはそれぞれ注文をつける。


「俺、コーヒーで」「私はココアがいいな」「俺、ビールで」それぞれ響、シャリー、フランの順番でセリグに頼む。


「今日の夕飯何スか」「あっ、山菜一杯の炊き込みご飯とサラダだっていってましたわ」フェティが慌てていうとカサイとサオリがまたはぁ?みたいな顔をした。


「あの、保存食とかじゃなく?」「なんで、あんな雑巾の搾り汁味のモノを好き好んで食べるんすか……。俺は、ギリギリまでイヤっスよ」割としょっちゅう財政的な限界を迎えると食べている保存食の味を思い出してうぇっとなる響。


その夜、サオリは滝の様な涙を流しながら。カサイは無言で山菜の炊き込みご飯をおかわりしていた。


それを、セリグが判りますよみたいな顔でおかわりをおひつが空になるまでよそっていた。


「サオリ、俺帰りたくない」「あんな大変な想いして、二人で艦を買ったんでしょうが。気持ちは嫌という程判るけど」


小型艦で、中古と言えど個人で艦を持つというのは相当な高い買い物なのだ。


艦族の現実はけっして、温くない。


「俺達も、いつかこんな遺産を手に入れたいなぁ」「うん、頑張りましょう」


その夜、モブ達の部屋で寝る事になった二人は余りに静かで揺れもしない為気になってモブに聞いた所。重力板なるパーツのある所は吸音も兼ねてるらしく、逆に無い所は通常の艦の様な金属音がなると言う事を教えてもらった。


本当に重力が発生している訳ではなく、あくまで人間が踏ん張れるようにしたり。立つ事が出来たり、耐震や吸音などを兼ね備えたパーツで結構な手間がかかる為一部にしか貼れてないとの事だった。


翌日、ご飯とパンから選べると聞いた時もう一度二人は崩れ落ちた。


それを見ていたフェティが、可愛く首を傾げるとパンのジャムを二人にすすめる。


「中型艦でも、こんな飯でてこねぇよ……」「昨日の布団もふかふかだったわ……」

「毎日洗濯してますからね」とセリグが言えば、そういえば乾燥機なんていつつけたんだよとフランが尋ねた。「艦長に言ったら、デュークの前に田舎に泊まった時つけてくれましたよ」それを聞いてフランが「ホント、あいつなんでもありだな」と呆れ顔。



結局、この二人はべセクまで同行した。

この後、べセクでまた一難……。

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