第七十話 艦長の苦悩

港に戻って、さっそくそれぞれの役割を全うすべく動き出すプレクスの面々。


その動き出した姿をチラリと見た後、プレクスを見上げて盛大に溜息をつくモブ。



「かぁ~~~、やっぱり点検中に無理矢理飛んだからえらい事になってやがる」


そう、実はギリギリ動けるようにしただけで後先考えずに艦を動かした為。見るからにやばい事になっていた。


(それをみんなに言いたくねぇから、仕事振って何とかお人払いをしたんだけどな)


特に、艦を推進機で無理矢理体制を変えるなんて離れ業をやったせいでフレームが曲がっているのを見つけた時はうわぁ……となっていた。


プレクスのフレームは外角でガチガチに固まっているからこそ、あれだけ無理矢理な事をやっても歪むだけで済む。逆に言えば、通常の艦ならどっかがへし折れてもおかしくない訳で。


「こりゃ歪んだフレームを一回外して、直さないとマズイな」あーあと溜息をつきながらも手だけは止めず作業を進めていく。


宇宙と大気圏内でドックファイト紛いの動きが出来るのも、外フレームと推進機によってしなって力を逃がし。同時に機構によって、機体制御がハードとソフトの両方からなされてすぐに体勢が戻るからである。


今回の様に、無理やりメンテ中に飛ぶと機構がうまく働かず。色んな所にガタが出るのだが、覚悟の上でやった事。



もうやってしまった事を悔いても仕方が無いので、手始めにプレクスの頭付近からフレームを点検してヤバそうな所を外してみるのだが。案の定、木の先端でガリガリやったせいか木の葉やら枝やらが機構部分に挟まっていて。時々、頭を抱えたくなるようなものも挟まっていたが取り敢えず布を口にあてつつ手早く掃除し。仮止めした所も、細部にわたってチェックした。



結果、七か所破れを見つけたのでそれは明日以降で修理する事にする。



「しかし、直接誘拐とかどんだけひん曲がった奴が司令官なんだか……」


気に入らねぇと先日の買い出しで、響に勝ってきてもらったチョコレートを咥えた。

以前は煙草だったのだが、余りにも値上がりが酷くてついに買えなくなったのでこれで代用している。



「あめぇ……、それはそうと。自分がやったのは判ってんだが、ひでぇなこりゃ」


ホームポジションである、翼の下に格納状態になっている推進機の付け根を見ながらため息をついた。


(それで、子供の誘拐を阻止できたんだから良しとすべきなのは判ってんだけど)



「後で、響に相談してもうちょい出力上げていいか聞いとくか。次あんなことがあっても、後悔なんかしたくねぇしな。それ以前に、崖から落ちてくのを艦で追いかけて地面につく前に艦全体持ち上げるなんてシュチュエーションの二回目とか願い下げなんだが」



ソフトあってハードがあって、俺達位息があってねぇと怖くてしょうがねぇや。



さてと、残りは明日だな。と道具箱を抱えて立ち上がる。




「艦長、ただいまッス。塩梅はどうっスか」「明日以降も修理三昧だよ。それより、響。出力もうちょい上げてもいいか?」と軽めに尋ねると「どれ位上げたか後で教えてくれると助かるッス」とだけ笑って言って「飯ッス飯ッス、あのクソまずい保存食じゃないだけで人生バラ色ッス」とノリノリでプレクス内に入っていった。



「それで人生バラ色なら、今まで保存食つき合わせたの悪かったかな……」とそんな事をぽつりとモブは呟いて頭をかいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る