第三十五話 異変
「順調っスね、艦長」
「あぁ、未だかつてない程平穏だな」
余りの平和っぷりに、のんびりとした口調で二人がコクピットで話し始める。
「艦長、アップデートした回路やソフトウェアに不備とか無いっスか?」
「ありえねえぐらい快適ですが何か」
「艦長がしっかり艦をくんでくれてるからっス、半分は艦長の仕事が良いからッス」
二人がそういって話をしている後ろでは、相変わらずフランとシャリーが筋トレをしたりシャワーを浴びたりしつつ過ごしていてここしばらくで一番平和な時間を過ごしていた。
「周りには隕石もなけりゃ、ブラックホールも無しで艦影も特にないと来たもんだ」
「本当艦長が倉庫増設してくれたおかげっス、今度の仕事で多少物量運ぶ事になっても近場なら何とかなりそうっス」
「その場合、またあの保存食に逆戻りになるぜ?」
「フランさんとシャリーちゃんにはちゃんとしたもの出して欲しいっス」
「判ってる」
水に余裕がある移動というもの、かつて経験したことがない二人であった。
そもそも、プレクスは緊急用にエネルギーさえ残って居れば宙域に飛んでいる氷をつかまえたりしてそれを水に変換。浄化してないものは冷却用で、浄化したものが飲み水になる。
問題は、エネルギーを食うので効率が良くない為滅多に使われない機能ではあったが。
二人は貧乏で、削れるところはとことん削りたいのである。
「男のフリが板についてるフランなら我慢もできるだろうが、小さい子にシャワー我慢しろとか言いたくねぇし」
「艦長、無駄に神経質ッス。小型艇で宇宙でるんならどっかの設備を削るしか無いっスよ」
俺の我儘だよ、ほっとけと笑う。
何日もかけて倉庫や水タンクを以前と比べて六倍近くに広げている半面、水圧はかなり控えめに設定してある。
「おかげで俺達も、毎朝ティータイム出来る様になったんだから問題ねぇだろが」
「違いねぇッスけど、もう少し早めに改造を決断するべきだったッス」
二人でのどかに話していると、いきなり爆発音とともに艦体が傾く。
「おい! 無事か!!」
「各部チェック、後部になんか当たったみたいッス」
「詳細は分かるか?」「これは……、何かの欠片みたいッスね。すげー速度で当たったからうちらの貧弱なセンサーは抜けてきちゃったみたいッス」
「クレズの野郎は何してた?」「確か機能制限中って言ってたっス、シャリーちゃんを落下から止める干渉の時にエネルギーを使いすぎたって」「肝心な時に、役にたたねぇな」
そりゃあんまりッスよと苦笑しながらも、響は更にチェックを続けた。
「んで? 何か判ったか?」「幸い推進には異常無し、のんびり飛ぶ為に全部前に移動させてたのが功をそうした形ッス。ただ、重力系統の回路付近がやられてるので次またドッグファイトみたいな動きやったらトイレの中身が艦内にぶちまける事になるッス」「また、何でそんなとこにピンポイントで当たるんだよ。なおしたばっかだぞ……」
「俺も泣きたいッス、後は、給湯部もやられたんで明日からは前みたいにキッチンで沸かさないとダメっス。俺ら的には、そっちの方が便利を実感した直後なんできついっス」
「じゃあ、次からシャワーも水かよ……。次からもうちょい出力のある甲殻式光防壁でもつけないとなぁ。宇宙ゴミやら小さい隕石位なら今のでも十分なんだが」
はぁ~と二人で溜息をつきながら、自分達をそんな目にあわせた飛んできた物体に眼をうつした。
そこで、また眼を見開く事になる。
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