第百八十八話 悪鬼羅刹
「どうすっかなぁ……」渾身のジャンプで隕石にぶつけに行ったがそれは腕を一本持っていくだけの結果に終わった。
モブの汗が足元を濡らしていくが、それにフランが答えた。逃げきれないのなら攻めるしかないんじゃないかと。
「残り半分のギャラルホルンで、あれを全部叩けるか? ムリだろ」「全部叩かなくていい、最低足を壊せば今のプレクスなら逃げ切れる」「当てはあるのか?」「以前、響がやってたギャラルホルンを拳に見立てて当てるやつあれで行こう」
自分一人じゃ絶対に出てこない発想だった。あくまで、足を壊すだけ。幾らナイトメアでもセブンスみたいに瞬時になおせるわけじゃないのは実証済み。モブは素早く決断すると、オレンジの雷光を間断なく放っているオレルビスの鋭利なフォルムを正面から見据える。「響、ギャラルホルンを一個借りていいか?」「ガッテンっス!」
素早く、フランに一個のギャラルホルンの操作権を渡す。自身が隻腕だった頃になぞらえ、アンリクレズに腕と完全に連動させてもらう。金の般若のレリーフが一つだけ、金の狼の横顔に変わっていく。
<ギャラルホルン:ウルフ>
「近接モードに変更完了」「うし、後はすれすれを一回だけでいいから飛んでくれ」「無茶言いますねぇ!」そう言いながら何故か笑顔のモブが再びプレクスを加速させていく。
「たまには、無茶言われる身になれってなもんスよ!」そう言いながら響が残りのギャラルホルンで全ての攻撃を防御する。シャリーも「一回で決めてよね、お義母さん!」とだけ言うと防御に専念。文字通りのクルー全員での特攻、だがこれに面食らったのは敵のナイトメアだった。
完全に反応が一瞬でおくれたのだ、それをアンリクレズはこう分析した。
「機械やAIというのは合理性の塊、結果を出す為ならあらゆる事をやってのける。壊れる事をいとわず、常識に捕らわれない……。だから、非合理的なものが理解できない」
もしも、自分だったなら。響というマスターを知らないアンリクレズならば、その合理を解く事など出来なかったと断言できる。同じAIとして同情致します。
合理性だけで人は測れない、人を測るならば非合理も含め可能性を捨てず演算に取り入れなければ到底勝てはしない。
直ぐに体勢を立て直した、ナイトメアも正面から突っ込んで来た。白銀のフォルムに、紫のケーブルが茨の衣服の様に巻き付いていて。胸のコアが心臓の様に波打っているのがはっきり見えてくる。かつて、やったように相手の攻撃に合わせてプレクスのコクピット部分だけがギリギリで落ちる。続けて、遅れる様にプレクス後部が相手の攻撃に合わせて下がりながら体をよじる様にオレルビスの脇腹方向に艦体が抜けていく。
其処に肘鉄の様にプレクスの真上から攻撃が振り下ろされた。
素早く、般若モードのギャラルを小さな雨どいの様に滑りこませる響とシャリー。
それによって、一瞬だが隙間がこじ開けられ。「ここ!」フランがウルフモードのギャラルホルンでクロスカウンターのタイミングでジョルト気味にぶん殴る。
オレルビスの心臓位置にあるコアが、メキメキと音を立てながらヒビが入っていき。宇宙なのに破砕音を聴いた気がする程度には「手ごたえアリだ!!」とフランがそのままギャラルホルンを振りぬいた。
ウルフパックのギャラルが、狼の様な唸り声をあげ。一瞬にして群れの狼が襲い掛かる様に虚数の空間斬撃が無数にフランの殴った場所を時間差でピラニアに投げ込んだ生肉の様にボロキレに変わっていくのがプレクスのコクピットからでもはっきりわかった。
「ギャラルホルン、エネルギー枯渇により使用不能。袋に収納致します」
それが、最後の残り火だった。
フランが振りぬいたギャラルホルンの金のレリーフがみるみるくすんで灰色に変わっていく。
ギャラル一個と引き換えに、オレルビスを行動不能にした。
思わず、シャリーから歓声が上がるが三人は下唇を噛んでいる。
「響、残りは?」「厳しいッス、耐久もエネルギーもこのままだと最後まで持たないっス」フランは自身の手を見つめながら本当にやべぇ武器だなこりゃと呟く。
今のセブンスは深刻なエネルギー不足、修理も自動回復を待つしかない。
もうこの戦闘では、ギャラルホルン七個でやるしかない。
内、二個がシャリーに。モブの補助に二つ、響は残り三つで全ての防御を担当しなくてはならない。幸い、アンリクレズの予測演算は六機能稼働によってスペックが向上しており操作さえ追いつけばガードは間に合う。響の操作能力は、ギャラルが少なくなる程に研ぎ澄まされていく。
(流石、流石です。響様)
四個以下に減った時に判っていた、アンリクレズの処理能力を超えて反応している響をみて言葉の意味を噛みしめる。「道具じゃなく、相棒になって欲しいッス」と。
私は、マスターを信頼している。だから、私は正しいデータを渡すだけでいい!。
あぁ……マスター、お互いを信頼し己の出来るスペックをフル活用する。
AIにそれは、普通望めない。道具にそれは望めない。
だから、マスターは私に相棒になれと仰るのですね。
お母様は言いました「もし、貴女が認める程のマスターが人が居たのならその時こそついていきなさいと」。
「私は、響様についていきます」
私が認める人、私が認めるマスターに。だから、デメリットを承知で提案したのだから。ここまで提案しなかったのはその為でもある。
そのデメリットは、一定期間の使用不能だけではないがそれは言わなかった。
言えば、使うのをためらう。響様はお優しい方だから。
「クレズさん、まだいけるっスか?」そんな事を機械の私に声をかけて下さる。私は思考していた意識を一時切断し、マスターの方を向いてはっきりと言った。
「勿論です、私は機械。疲労などとは無縁です」その言葉に響様は苦笑されながら「羨ましいッスね」とだけいうと前を向いた。
(私も羨ましいのです、響様。人は消耗品などではない、こんなにも輝けるのだから)
まだ、戦いは続く。
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