第八十八話 ドレットクイーン
「なぁ、俺は夢でも見てんのか」モブがそう思うのも無理はない。というのも、アンリクレズに呼ばれて行ったコクピットでモブと響が見たもの。それは、犯罪集団ブロードの旗艦ドレットクイーンが目の前に飛んでいたからだ。
五百メートル級、改造戦闘艦(改造バトルシップ)だけど。連中の母艦だけあって、無茶苦茶な武装してやがる。爆縮砲の様な本来なら主砲相当のものが両サイドに三十門ずつついているそれを、アンリクレズは現在の予想航路を望遠した時に見つけたので響に報告してきたのだ。
「現在、虚数領域の望遠で捉えています。このまま、真っすぐに目的地に向かうと八十六%の確率で敵の視界に入る事になるので一時減速して響様の指示を仰ぐ事にしました」
更に、アンリクレズが敵の武装を説明する。パルスレーザー五百門に加え、ギズモ百、ロストテクノロジーによるエネルギー生成炉六機等の他、ラッシュバリア二十枚を展開可能な様です。
「これ、情報なしでぶつかる警察の方々は確実に死ぬッス」
確か、ラッシュバリアは遺産も含む殆どの兵器を防げる変わり一枚を一時間展開するのに十人の命を持っていく違法形式だったはず。何でも、人の魂を燃料に展開するっていうヴァレリアス博士とは違う系統のロストテクノロジー。
「どういたしましょうか?」
こんなもん、どういたしましょうかもクソもない。
「今の位置からは、殆ど移動してないんっスよね」響はふるえる手を顎に当てる。
「はい、なのでこちらも気づかれない距離で止まるか。機械惑星に戻るか、突っ切って目的地に」「最後のだけは無しッス、そのリスクを負うだけの理由が無いッス」「かしこまりました」
「とりあえず、響。まだ、酸素も水も燃料も食料もかなり余裕があるからどっか離れた所の星の衛星にはりついて様子を見るってのはどうだ?」
「なんだ? トラブル……ってドレットクイーンじゃねぇか!」
フランもコクピットのモニターをみて、何が起こってるかを悟った。
「取り敢えず、俺達が行こうとしてる航路にいるらしくて。クレズさんが警告してきたんス」「響が、要注意艦として情報入力しといたのがビンゴしたらしい」
「艦長の俺としちゃ、衛星にはりついて様子見したいとこなんだけどよ。フランはどう思う?」「トンズラ一択だろ、この宇宙で最もホット(危険なレッドの意味)な連中だぜ」「だよなぁ……」「むしろ、クレズさんこの距離でも情報収集できるんスか」
「申し訳ありません、セブンス二機の出力ではこの距離が精一杯です」「いや、褒めてんスよ?!」「恐縮です」
三人が全く同じ腕を組んだポーズで固まると、後ろからフェティがやってきて「わぁ~凄い大きい艦ですこと」とモニターを見ていったが。セリグが後ろからモニターを見て「眼を見開いて顎を落とし脂汗を滝のように流しながら首を横に振った」
(セリグさんは、あれが何か知ってる……と)
「セリグさん、まだだいぶ距離があるから向こうにはバレてない」自分にも言い聞かせるようにモブがセリグに言うと、セリグは何度も深呼吸して落ち着いた。
「そうですか、にしても今現在でどの位の距離を望遠してるんです?」
「光学望遠鏡換算で一五万八千倍程度の距離を、千機程度の艦隊の展開範囲を望遠しております。虚数領域を通しているので、実数領域のセンサーからは探知不可能です」「それをリアルタイムで見えてるとかマジでふざけてんな」
モブは、飽きれた様にいうがセリグも同感だ。特にモブは一機の時のアンリクレズが自動運転も出来ず、その距離を望遠出来てるとは思えない性能だった事を思い出し。
(こりゃ、封印される訳だぜ。二機でこんな性能が上がるなら全機揃えた日にゃ宇宙警察や連邦の勢力圏丸ごと見えてる事になりかねぇぞ)
下手したら、それより見える可能性だってある。
「とりあえず、手ごろなプレクスをはりつける事が出来そうな衛星を探して欲しいッス」
「畏まりました」
それだけ言うと、範囲検索で地表データが滝のように流れていき。途中で赤線を引いて止まった。
「ここでは、如何でしょうか?」
「艦長?」モブの顔を覗き込む響にモブが強く頷く。
「良し!野郎のおススメに行って様子見だ様子見」
「クレズさん、衛星にはりついたら変な方向に流れていきそうな時だけプレクスの推進機で修正して欲しいッス」「承りました」
「セリグさん、フェティちゃん。申し訳ないッスね」と響が謝るが、セリグが苦笑しながら「原因が原因ですからな、むしろ助かったという事にしておきましょう」
「フェティちゃん、悪いけど部屋に行ったらシャリーにも伝えてくれるか」「承りましたわ」とフェティはモブに微笑みを浮かべた。
もし、判んねぇ事あったら誰かに聞くんだぞ。折角、すげぇ傭兵とすげぇプログラマと料理上手の元軍人といい加減なエンジニアが揃ってんだ。「そうだな、忘れものとかする凄腕のエンジニアがいるしな」とフランがからかった。
「悪かったっての!」プレクスの中は、笑顔で満ち溢れていた。
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