第8話 実戦あるのみ
「僕が……外で魔物と?」
告げられた内容に首を傾げる。
アルナはこくこくと頷いた。
「そう。基礎練習もいいけど、結局は実戦が一番。いまのヒスイなら、弱い魔物くらいは倒せる」
これまで僕は、【魔力】による訓練以外にも教わったことがある。
それは、アルナによる【剣術】の指南だ。
カルトの【呪力】によって作り出された木剣を手に、何度もアルナに打ちのめされた。
アルナ曰く、「筋はいい」らしい。
二つの技術と力を組み合わせて、そろそろ魔物くらい狩ってこいよ、とのこと。
——いやちょっと待ってほしい。
「あの……一応、まだ5歳なんだけど? 子供だよ、僕」
どこの世界に魔物を狩る5歳児がいるんだ。
前世なら幼稚園とかに通ってる年齢だぞ!?
「平気。ピンチになったら私たちが助ける。フーレがいるなら死ぬことはまずない」
「きらーん! お任せあれ! 手足が千切れても再生させてあげるよ~」
「千切れる前提みたいなのはやめてほしいなぁ……」
幸先からして不安だよ。
「本当に、いまの僕に魔物が倒せるのかい? 話を聞くかぎり、相当に強いんだろ?」
「年齢による差は【魔力】が補う。あとはヒスイの努力次第」
「……そう言われると、頑張らないっていう選択肢はないね」
これまで彼女たちにはたくさんお世話になった。その内のひとりが僕を信じて送り出そうというのだ。
それに答えるのが弟子だよね。
怖いけど。
「——わかった。やるよ。アルナの期待に応えられるよう頑張る!」
拳を握りしめて覚悟を決めた。
すると、三女神は揃って笑顔を浮かべる。
「うんうん! ヒーくんかっこいい! 絶対に上手くいくって信じてるよー!」
「ふふ。期待してるわ」
「素敵ですっ! くすくす……」
こうして、明日、僕は実戦を経験することになった。
まだ緊張と不安、恐怖を感じるが、それでも前を向いて進まねばならない。
この世界で生きということは、そういうことだと思うから。
……なんか違うような気もする。
まあいいか。
▼
ベッドに身を投げて翌日。
朝食を食べてから外に出た。
クレマチス男爵領は、基本的に広大な森に囲まれている。
こんな僻地どうやって開拓するんだよ、ってくらい土地だけはある。そして魔物も多い。
ご先祖さまは、どんな狂い方をしたらこんな場所に村を作ろうと思ったのだろうか?
きっと初代クレマチス男爵は強かったに違いない。でなきゃここでは生き残れないのだから。
しばらく森の中を走って体を温める。
寒さより暑さが勝りはじめると、僕は足を止めてグッと背筋を伸ばした。
「準備はできたようね」
「うん。近場をぐるぐる何周もしたからね。いまなら問題なく動けると思う」
「そう。なら、頑張りなさい。魔物の気配は……ここから200メートルほど先にあるわ。北西のほうね」
「アルナは魔物の位置までわかるの?」
「なんとなくね。この手の索敵に関しては、私よりフーレのほうが優秀よ」
「そう思うならお姉ちゃんに譲ってほしかったなぁ……」
役目を奪われてフーレが拗ねる。
離れた所で地面に指で文字を書いていた。
「あはは。次はフーレに頼んでもいいかな? 自分で探したいところだけど、いまは戦闘にだけ集中したいんだ」
「! いいよいいよ、もちろんいいよ~! お姉ちゃんにお任せあれ! ふふーん。やっぱりお姉ちゃんが一番頼りになるよねぇ」
一気にテンションがマックスになって戻ってくるフーレ。
ため息をつくアルナと、ずっとニコニコ僕を見つめるカルトの三人を連れて、アルナが教えてくれた魔物のいる場所へと向かう。
道中、【魔力】によって強化された脚力で地面を蹴って走る。
周りの景色が忙しなく切り替わっていく。
あっという間に標的を見つけた。
「——ッ!」
足を止める。
向こうも僕の存在に気付いた。
黒く禍々しいバケモノが僕を見る。
まるで犬のようだ。いや、狼?
従来の獣より体格のいいバケモノは、鋭い牙をむき出しに叫ぶ。
「グルルルッ——!!」
カルトが作ってくれた鞘から剣を抜く。
戦いが始まろうとしていた。
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