第77話 怨恨

 入学式が無事に終わり、同じクラスのローズ、マイヤ殿下と共に教室へ向かった。


 僕たちの教室は『クラスA』。


 新入生の中でも特に成績優秀者が集まるクラスだそうだ。


 僕、入学する際に試験のようなものを受けていないのだけどいいのかな?


 入学が決まった時はひとつの属性しか使えないと思われていたのに。


 二つの属性が使えるとわかったのは、入学が決まってからしばらくしてだ。


 急遽変更したとか? だとしたらもともとAクラスに入る予定だった人に申し訳ないな。


 弱肉強食は世の常だが、僕は別に最底辺のクラスでもいい。


 この学園に入学した目的は、あくまでコスモス姉さんと一緒に学生生活を送りたかったからだ。


 当初の予定より一年も早く入学できたものの、入学式で見せた奇跡の三属性持ちはクラスに入るなり多くの生徒たちから囲まれる。


 教師が教壇の後ろに立っているというのに、生徒たちは席に座らず僕を囲む。


 ローズとマイヤ殿下がいるからまだなんとかなっているが、二人がいなかったらどうなっていたことか。


「ヒスイ男爵! お噂はかねがね。まさか歴史上初の全属性持ちとは素晴らしい! 僕はカーネリック子爵家の……」


「卓越した魔力の制御、とてもとても魅了されました! 私はネリー男爵令嬢です!」


「わたくしは——」


 ぎゅうぎゅう、がやがや。


 とぼとぼと何人かの生徒が席に座るが、それを見ても大勢の生徒の勢いは止まらない。


 先生もなぜかその様子を無言で眺める始末。もしかすると教師も教師で僕のことが気になるとか?


 だとしても今は答えるつもりはない。


 両手を胸元まであげて、周りのみんなに「落ち着いて」と伝える。


「落ち着いてください、皆さん。これから先生の話もありますし、そんな一斉には答えられません」


「ヒスイさまは聖徳太子ではありませんからね」


 ローズさん余計なこと言わないでください。


「どうかまたの機会に。これからは同じ教室で勉学を学ぶ友人なのですから」


 にこりとそう言って笑うと、集まった生徒たちは、


「……たしかにそうですね」


「ごめんなさい、ヒスイ男爵。私ったらつい暴走しちゃって」


「また時間のある時にでも話しかけるよ。さあみんな、席について先生の話に耳を傾けよう」


 それぞれが席に着き始める。


 貴族の子息だからあまり話が通用しないイメージがあったが、なんてことはない。


 歳相応に純粋で優しいただの子供だ。


 ちらばっていく生徒たちの背中を見て、僕はホッと胸を撫で下ろす。




「お、なんだ、もういいのか。俺としちゃあヒスイ男爵のことは実に気になるから、こっちのことは気にしなくてもいいんだぜ?」


「そういうわけにもいきませんよ、先生」


 おまえはなにを言ってるんだ。教師ならしっかり仕事してください。


 ようやく解放されたばかりなのにおかしなことを言う男性教師に、鋭いジト目を飛ばす。


 僕の無言の圧を喰らって、男性教師は、


「そうかいそうかい。残念だが仕事の時間らしい」


 ぽりぽりと後頭部をかいてため息をつく。


 僕とローズ、マイヤの三人が最後に席に着くと、それを見た男性教師が話を始める。


「んじゃまあ、朝の挨拶といこうか。適当に自己紹介でもしながら趣味とか語れ。それが終わったら明日からの予定を伝える」


 たいへん大雑把な指示を受けて、入り口から近い席の生徒が順次自己紹介をしていく。


 僕は無難な内容を考えながら、今日このあとの予定をどうするか頭を働かせるのだった。




 ▼




 ヒスイが放課後の予定を考えている最中、その横顔を忌々しげに見つめる男子生徒がひとり。


 彼は代々、実家が優秀な能力持ちを輩出してきた名家の子供で、その地位は伯爵子息。


 子供の頃から優秀で、魔力の操作にかけては無類の才能を持っていた。同級生の中でも自分が魔力使いとしては最強だと自負している。


 しかし、そこへ彗星のごとく現れたのがヒスイ・ベルクーラ・クレマチス男爵だ。


 その有名は彼の耳にも当然届いている。


 バジリスクを単独で討伐しただの、複数の属性を扱えるだの、卓越した才能を持っているだの。


 加えて今日、入学式で見せ付けられた圧倒的な魔力。


 あそこまでハッキリと魔力を可視化できる存在を、彼自身ほかに知らない。


 なまじ才能があるばっかりに理解した。理解させられた。


 自分とヒスイのあいだにある差を。


 それゆえに、異例の出世を遂げたヒスイを彼は内心で強く恨んでいた。


 ヒスイがもともと男爵子息ということもあり、高位貴族としてのプライドの高さがその事実に傷付く。


 おまけに婚約するかもしれないと言われていたローズ侯爵令嬢までそのヒスイに惚れているらしいときた。


 彼女から嫌われている自覚がない彼は、今すぐ全身を掻き毟りたいほどの激情に襲われる。




「ヒスイ、ベルクーラ、クレマチス男爵……! おまえなんて、俺は絶対に認めない!」


 依然、ヒスイを睨んだまま彼は唇を強く噛み締める。


 どうにかして、あのバケモノにひと泡吹かせたいと考えるのだった。


———————————————————————

あとがき。


容赦のないざまぁがモブを襲う⁉︎



読者の皆様には日頃からたいへんお世話になっております!


本日、反面教師の新作が投稿されました。

よかったら見て、応援してください!


なぜか新作が表示されない?らしいので、タイトルを載せておきます。

『二度目の人生は最強ダンジョン配信者〜』というタイトルです!

小説一覧には表示されるようです!

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