第206話 説明
ティアラを連れて帝国から自宅の屋敷に帰って来た。
玄関扉をくぐり、わらわらと集まった使用人たちと話していると、そこへ、二階からアザレア姉さんが下りて来る。
彼女は僕の顔を確認して、ホッと胸を撫で下ろすとともに、たっと床を蹴って走った。
まっすぐに僕の下へ駆け寄る。
「おかえり、ヒスイ」
「ただいま、アザレア姉さん」
有無を言わさぬ抱擁。彼女の柔らかい感触と、洗剤のいい匂いがした。
僕もまたアザレア姉さんの背中に腕を回し、姉弟の感動の再会を演出する。
「もう用事は終わったのね?」
「うん。無事に全ての問題は解決してきたよ」
「解決したの? 一人で?」
「助っ人がいたよ。ローズ嬢さ」
「確か、あなたの学友よね。リコリス侯爵家の」
「そうそれ。ルリも僕の護衛として立派に働いたし」
「えっへん」
呼ばれたルリが胸を張る。彼女は幼児体型なのでどれだけ頑張っても胸は全然膨らまない。だが微笑ましい光景だった。
「問題を解決した?」
「用事って何かしら?」
「リコリス侯爵家のローズ様といえば、旦那様との関係が噂されていた——」
ざわざわざわ。
そういえば周りに使用人たちがいたのをすっかり忘れていた。
彼女たちは僕が本当は何をしていたのか知らない。話すわけにもいかない。
ちらりとアザレア姉さんに目配せをすると、彼女は無言でこくりと頷いた。僕の体から離れる。
「ひとまず私の部屋に来なさい。話したいことが沢山あるわ」
「僕もだよ」
踵を返したアザレア姉さんに、僕とルリ、そして鎖で縛られているティアラが続く。
メイドたちは仕事に戻った。あとは彼女の部屋で内密な報告をする。
▼△▼
アザレア姉さんの部屋に移動し、メイドが淹れてくれた紅茶を一口飲む。
不思議と味は変わらないのに懐かしい気持ちを抱いた。
「ふぅ。やっぱり自宅は最高だね。落ち着く」
「それは何より。……でも、いい加減説明してくれるかしら? その隣にいる女性は誰?」
アザレア姉さんがティーカップを持ちながらティアラのことを見つめる。
いま、ティアラは僕の隣に座っていた。ふてくされている。
「彼女はティアラ。帝国で女神の石を管理していた女性だよ。皇帝の側近。戦争の首謀者」
「ちょ、ちょっと! 誰が首謀者よ誰が!」
「君以外にはいないでしょ」
「私は皇帝にいろいろと教えてあげただけよ! 別に首謀者だなんて……」
「おまけにアルナたちの娘なんだ」
「娘⁉」
ティアラの言葉を無視してが話を続ける。
しかし、あまりの衝撃にアザレア姉さんが紅茶を吹きかけた。危ない危ない。
かたかたと震える手でティーカップをテーブルに置くと、真面目な表情で彼女は訊ねる。
「それって一体どういうことなの? その方も女神様ってこと?」
「女神に近い存在、かな。別に信仰を集めていたわけじゃない」
そもそもアルナたちも神ではなく精霊だ。この辺りの話もしたほうがいいのかな?
ややこしいからいいか。
「ティアラはアルナたちの力から生まれた存在なんだ。まあ、それを使って王国を攻め滅ぼそうとしたんだけどね」
「やんちゃな子よ」
「アルナ様!」
僕の話に女神アルナが混ざってきてくれる。
アザレア姉さんが反応したってことは、いまのアルナは実体化状態。ティアラがいないほうの僕の隣に腰を下ろした。
「チッ。あなたまで介入してくるなんて……というか、その人間もあなたのことを知ってるのね」
「ええ。彼女はアザレア。ヒスイの姉よ。だから特別」
「ふうん。私は興味ないわ。それよりぃ、お腹空いた」
「え?」
「美味しい物が食べたいなぁ。なんて」
すりすりすり。
ティアラが縛られた状態で僕の体に密着してくる。
反対側でアルナが殺気を飛ばした。
「ここで殺されたいのかしら?」
「ひいいい⁉ 鬼がいるわ、ヒスイ! 助けて!」
全力で僕を盾にしようとしてくるティアラ。
僕は首を横に振った。
「無駄だよ、ティアラ。僕がアルナを止められるはずないだろ?」
「何よその悟ったような顔⁉ あなたが一番偉いんじゃないの⁉」
「全然そんなことない」
むしろ立場は一番低いくらいだ。
下手するとティアラごと僕も殺されかねない。どうせ蘇生できるしね。
「だから大人しくしてたほうがいいよ。あとでご飯は出してあげるから」
「むぅ……解ったわ」
彼女は不満そうに唇を尖らせるものの、それ以上は無駄な茶々を入れてこなくなった。
その間に、僕は帝国で起きたこと。目にしたもの。エリザベート殿下との経緯や経由などを話した。
アザレア姉さんはいろいろ質問をしながら話に耳を傾ける。
たっぷり数時間もの時が経過し、気づけば外はオレンジ色に染まっていた。
———————————
あとがき。
『冤罪で追放された元悪役貴族は、魔法で前世の家電を再現してみた~天才付与師はスローライフを所望する~』
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