第207話 処刑⁉

「……帝国では、いろいろあったのね」


 全ての話を聞き終えたアザレア姉さんが、おかわりした紅茶をぐいっと一気に飲み干してそう呟いた。


「女神様たちの力から生まれたティアラ。そして、帝国領の鉱山で採れる女神の石を使い、王国との戦争を始める。さらに、ティアラはモンスターを生み出す能力を持っていて、あと少しでもヒスイが遅かったら、戦争によって多くの人の命が奪われていた、と」


「ざっくりまとめるとそういうことかな」


「とりあえず彼女はどうするの? 陛下に献上して処刑でもする?」


「処刑⁉」


 ティアラがくわっと目を見開いた。


 人間の力で彼女を殺せるとは思えないが、いきなり物騒な単語が出てきた驚いたっぽい。


 僕は首を横に振った。


「ううん。確かに彼女がしたことは簡単に許されることじゃないけど、戦争に関しては未遂だから」


 まだ犠牲者は一人も生まれていない。


 女神の石は全てティアラが使い切ったし、エリザベート殿下のおかげで皇帝を説得することもできた。


 戦争に必要なティアラも僕の傍にいるし、誰も殺していないなら無駄に血を流す必要はないだろう。


「もちろん反省はさせる。アルナたちが彼女を見張ってくれるらしいよ。教育も一緒にするってさ」


「そう。アルナ様やフーレ様、カルト様がいてくれるなら安心できるわ」


「どうして私が呼び捨てなのにあの女神たちは敬称付きなのよ! 私もティアラ様って呼ぶのが普通じゃない⁉ 無礼な奴ね!」


「それをあなたが言うな」


 ガツン、とアルナがティアラの後頭部を殴る。


 相当手加減しているのか、ソファや床が壊れることはなかった。


「信仰もされていないテロリストは呼び捨てで充分。私が許可するわ」


「な、なんでよぉ!」


 頭を押さえながらティアラは抗議の目を向けるが、アルナは華麗にスルー。


 他の女神たちも気にもしていない。


「不憫だわ。私ってどうしてツイてないのかしら……」


「運のせいにするからダメなのよ。自分の力を信じなさい」


「信じた結果、あなたにボコボコにされたけど⁉」


「私が強すぎるせいね。あなたは悪くないわ」


「きいいい! その慰め方腹立つうううう!」


 僕の横で騒ぐのはやめてくれないかな?


 少しうるさかった。


「とにかく、ティアラは今後僕の家族だ。それで納得してくれるかな? アザレア姉さん」


「ええ。ヒスイやアルナ様たちが決めたことなら私に文句はない。また家が賑やかになるわ」


「そうだね。ルリにティアラ。今後も増えるのかな?」


「それはヒスイ次第ね」


 くすりと笑ってアザレア姉さんはソファから立ち上がった。


「ではそろそろ夕食にしよう。きっとアルメリアもコスモスもお前のことを待っているはずだ」


「今日は眠れないかもしれないね……」


 すでに使用人を通して、アルメリア姉さんとコスモス姉さんには僕が帰っていることは伝えてある。


 ゆえに、根掘り葉掘り聞かれることは間違いない。


 苦笑する僕に、アザレア姉さんは言った。


「しょうがないわ。たまには付き合ってあげなさい」


「はあい」




 ▼△▼




「ヒスイヒスイヒスイ! おかえりなさ——い!」


「うわっ⁉」


 アザレア姉さんの部屋を出て、ダイニングルームに入った僕は、そこでいきなりコスモス姉さんに体当たりされた。


 構えていなかったので押し倒される僕。


 馬乗りになったコスモス姉さんは、笑みを浮かべて僕の胸元に顔を押し付けてくる。


「あぁ! 久しぶりのヒスイの匂い! 弟分が補充されていくわ……」


「い、いきなり元気だね、コスモス姉さん……弟分ってなにさ」


「姉を動かすためのエネルギーよ。私とアザレア姉様、アルメリア姉様専用なの!」


「お姉ちゃんもそれ欲しい! ずるいずるい!」


 上のほうからフーレの声が落ちてきた。いまの彼女は僕やティアラ以外には見えない。


 メイドたちがいるから遠慮してくれているんだろう。僕もスルーする。


 それより、と上体を起こした。


「弟分もいいけど、とりあえず退かない? これからご飯だよ」


「むぅ。ヒスイは久しぶりに私と再会して嬉しくないの?」


「嬉しいよ。嬉しいに決まってる。けど、お腹も空いてるんだ。食べながらでも話はできるだろ? それじゃダメかな?」


「……ダメ、じゃない。私もお腹空いてるし」


 コスモス姉さんは渋々といった風に僕の上から退いてくれた。


 あの様子は、本当に今日はまともに寝れそうにないな。


 僕はくすりと笑って彼女にお礼を言った。


「ありがとう、コスモス姉さん。食事のあとはたくさん話そうね」


「うん! 約束よ」


「もちろん約束するよ」


「って、そうだったわ。話で思い出した」


 ふいに彼女はポンと手を叩く。


 首を傾げる僕に言った。


「ヒスイがいない間、お客さんが手紙を残していったわ」


「手紙?」


「ええ。確か……グリモワール公爵家の令嬢だったかしら?」

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